『……よお。久しぶり。どうしてた?』

 電話越しに煙立つ色気に酔いそうな夜。
 グリーンからの唐突な電話は、風呂上がりのサイコソーダ以上に私を喜ばせた。

「今ね、お風呂からあがったところ」
『……見てぇ』
「バカ。酔ってるの?」
『別に酔っちゃいねぇよ。今やっと仕事終わったとこ』

 向こう側で、カサリと紙が擦れる音がしたから、きっとまだその手には書類を持っているのだろうと分かった。

「終わった書類重ねるくらいやってから電話掛ければ良いのに」
『……お前はエスパーポケモンなの?』
「ふふ、それくらい分かるよ」
『へぇ。嬉しいね』
「何年一緒に居ると思ってるの?」
『そうでしたそうでした』

 椅子から立ち上がる音。肩を鳴らす仕草。電話越しのグリーンを少しでも多く感じたくて、私は息を詰めた。
 こんなにも彼が愛しいのに、どうしてカントーを離れたのか。
 ……それは彼自身に背中を押されたから。
 あの日__マサラタウンを三人で旅立ったときから、私たちの道はもう違えていた。私はずっとそのことに気づかなかった。だから、レッドが戻ってこないことに昔私はひどく腹を立てた。幼いときからずっと一緒だった、これからも、大人になっても三人で居られると思っていた。子供みたいな我が侭を主張する私を否めたのはグリーンで、現実を突きつけられてたくさん泣いたあの日のことは今でもよく覚えている。

 『お前はお前の道を行けば良い』と私を送り出してくれたグリーン。
 あれから五年。シンオウ地方での独り身にも、大分慣れてきたところだった。

「ねぇ、何かあったの?」
『なんだよ』
「だって、電話使うなんて珍しいから。いつもメールで済ますくせに」
『んー、お前の声が聞きたかっただけ』
「……また恥ずかしげなく気障な台詞を。それでジムの女の子でも口説いてんじゃないでしょうね」
『くくっ、話逸らしてんじゃねぇよ。分かるぜ。今顔真っ赤だろ』
「っ、」

 なんで分かるの、と聞きたかったけど愚問だと気づいて取り消した。
 恥ずかしさに、主導権を握りたかったのは確かだった。受け流した振りをしたけれど、実際の私は心臓まで赤くなったようだった。まるでオーバーヒートだ。

『安心しろ。俺はお前一筋だから。何年経ってもな』
「……シンオウには良い男がいっぱいいるけどね」
『え、』
「デンジくんはスーパースターだし、ゴヨウさんは話が合うし、リョウくんはアイドルみたいで可愛いし……」
『……』
「やだ。黙らないでよ。ただの友達よ」
『お前はそう思ってても向こうは違うかもしれないだろ』

 少し強まったトーンに、彼からの愛情を心ゆくまで堪能した。

「安心してよ。私がグリーン以外を愛すなんて、ありえないんだから……」
『っ___!』
「え、どうしたの?」
『お前さ……反則』



( 銀が匂い立つ夜 )
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