彼の「ソレ」は、ごくごく微弱なものとしてか現れない。それは肌理細やかな彼の性格がひどく関係していて、私は見破るのに苦労する。
 例えば、お茶の置き方。脱がれたスーツ。会話の速度。
 他にも色々あるけれど、少なくとも私の方にも心当たりがあるときは、それは私も分かっているから、まだ気づきやすい。逆に私に心当たりがないときは、全く気づかずに一週間が経ったりすることもある。時を重ねると、だんだんとはっきり形を現すようになる。だから待てば良い、というわけではなく、彼との関係を円満に保つためには早期の解決が必要であると私は悟っている。それが最善の手なのだ。
 今回は、前者、つまり私に心当たりがあるパターンだ。
 だから分かりやすい。まるで専用のレンズを通しているかのよう。彼の行動のズレの一つ一つがそれに繋がっているように見えるのだ。

「……お帰りなさい。ご飯できてるよ」
「ああ、ただいま」

 握り締めた跡のあるスーツ。少しそっけない言葉。
 速攻をしかけるか、それともじっくりと持久戦に挑むか、どちらが良いかといったら前者だ。
 ジャケットをハンガーにかけ、お味噌汁を温めていると、ネクタイをとった開が手伝いをしてくれる。

「おっ、生姜焼きか」
「そう。なんかそういう気分でしょ? キャベツも冷蔵庫に入ってるから」
「分かった」

 今日の献立は豚の生姜焼き、大根の味噌汁、特製のだし巻き卵。それに漬物と、冷奴。
 二人で向かい合わせに座り、手を合わせたところで、私は速攻を仕掛けた。

「ごめんね。今日」
「ん?」
「同い年だと会話が盛り上がっちゃうんだよね」
「なんの話だ?」
「いや、スミスくんと話したの、気にしてるでしょ?」

 開が生姜焼きに伸ばした箸を止めたので、ビンゴだな、と心の中でほくそ笑んだ。
 今日の昼間、開がお弁当を忘れたことに気づき、届けに行った。着いてから連絡を入れようとしたところで丁度昼休憩で出てきたスミスくんに出会い、開に渡してくれるよう頼んだのだけれど、そこで思わず話が弾んでしまったのだ。そこに運悪く開が来て、私は彼の微弱な「ソレ」を、予感した。
 お弁当を受け取った開はいつも通りの顔を繕っていたけれど、私にはお見通しだ。
 だから、ご機嫌とりも含めて開が好きなだし巻き卵も夕飯の献立に入れた。

「気にしてる、デショ?」
「……あー、ハイハイ。そうだよ。お前の言うとおりです」
「ふふっ」
「悪いな、心の狭い男で。……でも、そんなに分かりやすかったか?」
「むしろ、もっとはっきり示してくれれば良いと思うけどね、私は」
「それは、できん」

 私は今回の件に関して、開の心が狭い、とは思わない。それは、開が私との関係の上で一番気にしてることを知っているからだ。それは決して変えることの出来ない、埋めることの出来ない差。

「何度も言ってますけど、私は開以外の男の人に興味はありませんからね。だからなんも気にしないでよね」
「…………」
「返事は?」
「……はい」
「宜しい」


( 彼の「嫉妬」は、悪戯に、甘くて、こんなにも嬉しい )
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