「リーヴァーイ、ちゅーして」

 肌寒い夜、執務室にて。
 可愛らしいお願いで、リヴァイの眉間に、更に皺が寄った。

「……仕事中だ」
「おねがぁい」

 書類にペンを走らせるのを止めて、リヴァイは深く溜息を吐いた。
 シズカは、とても甘え上手な恋人だった。
 ゆえにリヴァイは困っている。


 ちゅ。


「……もう少しで終わるから、待ってろ」
「……うん!」

 シズカはソファに身体を預け、ご機嫌に鼻唄をうたっていた。白い脚を気まぐれに交差させ、徐に、猫のようにまどろむ。
 リヴァイはもう一度ペンを取り、書類に目を通し始める。

 これこそが、リヴァイにとって、幸せで、平穏な時間だった。
 シズカの寝息。ペンを走らせる音。時計の針。コーヒーの香り。
 普段リヴァイが居る場所を忘れさせるような幸福。

 それをこの手の中に残したくて、リヴァイはつい立ち上がって、シズカの柔らかな髪を撫ぜた。

「……んふふ」
「……寝たふりしてんじゃねぇよ」
「起きちゃったの。……リヴァイの手が、優しい」

 上目に、リヴァイを見上げるシズカ。
 それにくらりとするような刺激を受けながらも、リヴァイは自分の上着を脱ぎ、シズカの顔にかけた。

「わっ」
「被っとけ。まだかかる」

「……うん」

 シズカは、人類最強と呼ばれても、リヴァイが自分の前ではただの恋人でいてくれることが、嬉しかった。その幸せな色の中で、シズカは再び夢の中へ落ちていった。

 潔癖症の彼らしい、洗剤の匂いがする上着を抱きしめて。
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