昔、目の前で親友が死んだ。
そのときに涙を枯らしてしまったのか。はたまた、母の教えを忠実に守っているのか。私はあまり泣かなくなった。笑顔を絶やさずにいれば、いつかは幸せになれる、そのいつかを待ち続けている。
気丈だろうか。
否、私は弱い。
「壁外調査、お疲れ様でした!」
「あぁ…オマエもな」
「怪我をされたりはしていませんか」
「あぁ」
「良かったです、兵長がご無事で」
私は笑っているだろう。あんなに悲惨で大嫌いな壁外調査の後でも笑っていられる。アイツらに飲み込まれていく同志を見た。昨日話していたあの子が飲まれるのを見た。
それでも笑っていられる。
「大丈夫か」
「兵長、 私はまだ泣けません」
「あぁ」
「涙が出ないんです。なんでだろう。こんなに悲しいのに」
顔が兵長の硬い胸に強く押し付けられたのが分かった。温かい。こんなにも。
「大丈夫だ」
「あぁ、もう……違うのに」
「分かってる」
それでも私は笑ったままだった。