柔らかな髪を梳くのが好きだ。
 シズカは置き物みたいにじっと押し黙って、僕のされるがままにいる。この時間がとても好きだった。将棋盤と向き合うことと同等か、それ以上に。

「宗谷さん、くすぐったいですよ」

 指がシズカの小さな耳を掠って、彼女は小さく身を捩じらせながら笑う。


「、シズカ」


 たまらず、言葉が出た。
 飲み込む癖がある言葉が、時折飛び出す。彼女といるときは特に多い。頭で並べ立てている愛しさとか、恋しさとかを、彼女に伝えたいから。そうしないと、彼女は少し、その晴天のような表情に曇り空を見せるから。

「宗谷さん? どうしましたか?」
「……いや」

 また、柔らかく顔を綻ばせる。
 こんな表情を、僕以外の誰かの前で見せていたら、それは少し嫌だと思う。

 子供のような、独占欲。

「わ、」
「……君の髪が、好きだよ」


 壊さないようにそうっと抱きしめた。


( これも、悪くない )

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