「ねぇ、シズカさん」


 目の前で行われる行為に吐き気を抑える"慣れ"を得たのは最近のこと。
 人間は普通、死亡すると夏は4から5日間、冬は7から10日間ほどで死体が腐敗する。普通に放置していたならば。例えば、死体愛好者といえば、凍らせて保管して愛でるとか、漬けて腐るのを防止するとか、そんな光景が浮かぶかもしれない。事実、俺もそうだ。
 もう冷たくなって固まった死体を、綺麗に綺麗に洗って、そして服を着せる。ゼロの数で目が眩むような宝石を散りばめたワンピース。金の刺繍が入ったベスト。髪を巻いて、化粧を施して、少女が行う人形遊びのように、どこか狂気に塗れたそれは美しく、シズカが言う"生きているものは醜い"という言葉が少し分かった気がした。


 そうやって人形と化した死体を、部屋に飾る。

 だが、先ほど述べたように死した身体と言うのは驚くほど脆い。腐っていく身体は腐敗の死臭を漂わせる。それが、そこまでが、人間が最も綺麗な時間であると、シズカは言う。
 死んでから、その肉体が崩れるまでが。



「せめて服を脱がせないの?」
「だって、君は、知らないのか? 黒には金が映える」

 もう崩れた肉体は、死臭を出す前に釜戸に放りこまれる。ごうごうと燃え盛る火の中に、飾りも一緒に燃えていくのだ。札束が燃やされていく。しかも、何度も、何度も。人間の最も美しい瞬間を、水色の中に閉じ込めるなんて、どうかしてると姫音は呟いた。いや、だからといって、死体を炎に放り込むのも、どうかと思いますよ、お嬢さん。凍らせる、より燃やすほうがマシだなんて。


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