「ボンジュール、マドモアゼル」
 シズカ、ここへ来たのはね、

「君に会いに」

 空気を震わせなくても、分かる。『そんなことはどうでもいい』
 その、石鹸水で染めたような白い指先が撫でるのは、確か数字にするのもおこがましいくらいの値段がつくようなレース。淡いローズピンクのワンピースの裾、それをゆっくり撫でたあと、彼女は俺のほうを振り向きもせず言い放った。

「生きているものは醜い」
「シズカは綺麗だよ」
「綺麗?」 可笑しいものを笑う言い方。
「今、俺のこと馬鹿にしたでしょ?」
「君を、殺せば、綺麗になるかな、いや」 「僕は別に金も、青も、今は求めていないから、いらないや」

 彼女のしゃべり方は、猫の背を撫でるようにゆっくりだ。
「若干失礼だよ、それ」


 シズカが指す、金、とか青、というものは、詰まりは、色だ。相当に気に入ったものではないと、個々として判断しないシズカは、物を色で区別する。イチゴは、苺と呼ぶけれど、バナナは、黄色と呼ぶように。それがいつから始まったのかも分からないが、きっと、シズカは名前を呼ぶことが面倒なのだ。自分の気に入った音以外を乗せることが、嫌いなのだ。ただ、ただ、美しい響きを叫ぶだけ。そこには、夢や理想なんて、明るい言葉も無く、きっと生きているとは言えないんだろう。



「いや、でも」


「君の瞳(め)は美しいな、美しい青だ」



 まだ俺は、彼女に個々として認められた存在ではない。
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