「こ、これはこれはドフラミンゴ様! ようこそいらっしゃいました」
「フッフッフ……近くまで来たからな、久しぶりにシズカの顔を見に来たんだ」
「すぐにご案内いたします、しばらくおまちください」
やがてボーイに、いつもの部屋に通される。館の最上階、島が見渡せるスイートルーム。なんたってここは俺の系列であり、所有物の一つとして数える、だからこうやって
客として入っても、金を払う必要はない。
店に対しては。
キィ、
「……こんばんは、ドフラミンゴ様」
可愛い嬢ちゃんには、小遣いをあげたくなるモンだろう?
「よォ、シズカ。どうした、随分息があがってるじゃねえか。フッフッフ、また店抜け出したのか?」
「……今日は予約がなかったので」
「ああ、悪ィな急に……怒ってんのか? こっち来いよ」
いつまでも扉の前で突っ立っているこの美しい女を引き寄せると、逆らうこともなく向かいに腰かける。既に開けていた赤ワインを注ぐ。
「久しぶりに会ったんだ、まぁ飲めや」
この場所にはとことん不釣り合いな芳醇な香りと、グラスが合わさる軽快な音。無言のままそれを飲み干すシズカ。
性欲を満たすだけならば、他の安い女で良い。
心を満たすのはコイツだけ。
出来ればこの店から買い取って籠に飼ってやりたいが、それではつまらない。この下世話な娼婦館はシズカの美しさと秘めやかさを引き立てる。
小さな島の娘だったシズカの噂を聞きつけた俺の部下が、法外な値段で買い付け、今や一見では会うことの出来ない花形にのし上がった。コイツの美しさに魅了され、足繁く通う客の話を良く聞く。どんな金持ちでも、見目麗しい男でも、シズカは決して振り向かない。仕事上のドライな関係を保ち続け、法外なプレゼントも顔色一つ変えずに受け取る。
それは逆に男情に火をつけるらしく、ますます貢ぎ物は増える。意図せず作られた連鎖は最早恐ろしさを超え尊敬すら感じる。
「…つくづく、美しさってもんは怖ェなあ、フッフッフ…。
たかが黒猫一匹懐かせるために、いくら金が動いてんだ? シズカちゃんよ」
夜空を切り取った目がこちらを向く。
「お前の心を射止めた男ってのは、どんなヤツなんだろうなぁ…」
するり、と。
しなやかな腕が首に絡まる。
「フッフッフ、触れられたくないってか? まぁ良い、お前がどんな過去持ってようと、この館から出るのは俺がお前の手を引いたときだ、そうだろう?」
「……そうではないことを、切に願います」
本当にコイツは良い女だ。歪ませてやりたくなるほどに。