命に値をつけられるなど、そんな悲しいことはない。きれいごとじゃないおぞましいものを押しつけられて、最早縁を切った筈の両親は、札束に目をくらませて娘を売った。

『ここの島に、とんだ上玉がいると聞きましてね』
『今度開くうちの店の支店に欲しいわけですよ』


 話は風のように過ぎていった。彼にその話をした。彼は真っ青になってから、『いくらだ、』と。私がいくらで買われたのかを聞いてきた。正直に私の価値を伝えると、泣きそうな顔になって、歯を食いしばって、だってそうだ、その額は質素に暮らす彼には到底、手を伸ばしでもって届かない。私が一番知っている。

 生まれ育ったこの島にもさよならだ。本当にそれは唐突に、日常に弾丸が放たれたのだ。

『シズカ、大丈夫だ、必ずお前を迎えにいくから。明日を信じて、待っていてくれ』

 信じられる要素なんてどこにあるの、って思いながら。船に乗せられた。唯一は、彼が私の純潔を奪っていてくれたこと、それだけ。この先させられることを分かっていようとも、ただ、彼の言葉だけを繰り返した。

『可哀想にねぇ、シズカちゃん…』『仕方がないだろうよ、あの額だ。島中かき集めたって払えねえ』『前にも言ったがよ、石油でも掘るしかねぇよなぁ』『あいつはどうしたんだ』『あぁ、なんかでかいシャベル持ってたが』『シャベル?』

『まさか、本気にして?』


 馬鹿な人。
 でも私はその馬鹿を愛してた、だから、何年経とうとも、貴方だけを待つ。何年、かかろうとも。




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