フシュウ、と音がして、私は死を悟った。目の前にあんぐり口を開けられた光景までが、フラッシュバック。実際にはそんなことはなく、幸いにも頭蓋骨を割るだけですみそうだ。地面に砕かれるのと、あいつらの歯にくだかれるのと、どっちがマシってそりゃあ。ねぇ。
「おい! シズカ!」
浮遊感が急に止まったかと思えば廃墟の窓枠に脚をかけて停止する、リヴァイ兵長の顔がすぐ近くにあった。ガスが切れて、地面に落ちそうになった私を、兵長がキャッチしてくれたらしい。あれ、兵長は最前線を担っているはずじゃあ。どうしてこんな後ろに?
枠だけとなって空間が空いているそこへ、リヴァイ兵長はそっと入っていった。やつらに気づかれないように。
そこで私は、ようやく声が出た。
「兵、長……すみません、ごめんなさい、ごめんなさい」
「なんで謝る」
兵長の鋭い眼光が私を射抜く。
唇を噛み締めながら、私は既に泣きそうだった。けれど戦場では涙を見せてはならない。あいつらに屈してはならない。人類の勝利のために。でなければ私はなぜ存在しているの。宙を舞って肉を削ぎとる兵器でしかない私が。
「ガスが切れる前に…補充班の元へ行くべきでした。判断ミスで、兵長に余計なお手間をとらせてしまいました。申し訳ありません」
「フン…分かってるじゃねぇか。ならいい。怪我はねぇのか?」
「大丈夫です」
兵長は一度溜息をついてから、すぐに立ち上がった。入ってきたところへ再び戻る。私はもう飛べない___飛ぶためのガスがない。兵長が、補充班を呼んできてくれるのだろうか。
小柄なのになぜか大きな後姿をぼうっと見つめていると、
「おい、何してんだ。早く来い」
最高にいらだった口調だった。
「兵長、あの、私はもう、 「早く来いと言っている」
ひゅ、と息を呑んだ。身体を抱えられて、リヴァイ兵長と宙を走っている。早い。私とは違う、立体機動の廻し方。この人類の英知は、こうやって使われるべきなんだ。前方遠くに、あいつらの頭が見える。きっとあそこにペトラたちもいる。…闘っている。
補給班の元に降り立ったリヴァイ兵長は、顔色一つ変えずに、
「こいつのガスを代えてやれ。俺は先頭に行く。シズカ、ガスを入れたらすぐ来い」
再び飛び立っていった。私もガスを付け替えてすぐに後を追う。ついさっき飛び立ったはずなのに、もう最前線で闘っている。ドクドクと波打つ鼓動は、最高に戦場に似合わないBGMだ。私が本当に兵器だったら、こんな気持ちを持たずに済んだのにね。