随分暇なんだなぁ、って思う。

 嘘だ。

 冗談。夏のアイスみたいに溶けてみたかっただけ。ほどけて、きえる。その命が美しい。膝の上のくすぐったいのを愛でる、撫でる、堅い髪が絡まる。身を捩らせたので、眼が合う。

「そんなに睨まなくても良いじゃないの」
「…睨んでねぇよ」
「地顔だったわね、そういえば。忘れてたわ」

 あからさまに眉間の皺が一本増えて、舌打ちをする。

「あまりにも久しぶりに会ったものだから」

 追い討ち。
 彼が忙しいのは知っているし、その間を縫って切り詰めて切り詰めて私に会いに来てくれるのを知っている。その上での言葉。どうして私みたいなつまらない女のところへ来てくれるのかは分からない。人類最強の男が、どうしてこんなところで膝枕をされているんだか。
 小柄な彼は古いソファにもすっぽり埋まる。

「…明日、壁の外に出る」
「ふうん」

 何かを言って欲しかったのだろう、私も言いたかった。でも飲み込んだ。拍子が抜けた彼の顔を見たかったからだ。リヴァイは、古ぼけた天井を見つめていた。明日が見えない。彼も、私だってそうだ。彼は、自分の死は怖くはないんだと思う。失うのが怖いのだ。それは私も一緒だってことを分かって欲しい。貴方を失うのが怖い。行かないでと声を大きくして言いたい。毎回毎回、二ヶ月ほどの間隔を持って、この日はやってくる。

「しなないで」

 思ったよりも小さな声だった。

「リヴァイ、しなないで」
「死なねぇよ」

 俺は、と付け足した彼の声は掠れていた。膝の上から生きている重みがなくなった。ギシリとソファが音を立てて、リヴァイは私に口付けをした。乾いた唇を割って熱い舌が入ってくる。ツウ、と頬に零れる液体を無視して、キスの余韻もなく、リヴァイは立ち上がった。





( 貴方が立ち上がったら )(「さよならの合図」より )

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