「先日は、有難う御座いました」

 壁外調査が終わり、壁の中に帰って数日後、リヴァイ兵長の部屋を訪れていた。
 兵長は組んだ脚を机に投げたまま、仏頂面で私をきつく睨む。


「勝手な行動を起こしてしまい、本当に申し訳ありません」

 深く頭を下げた。
 溜息を大きく吐き、リヴァイ兵長は立ち上がる。

「……お前には班を移ってもらう」
「……はい」

 強く指を丸め、下唇を噛んだ。
 前髪がない視界はクリアだ。


 クリアじゃない方が、良かったのに。


「兵長は私に誰を重ねていますか」


 泣きそうな兵長の顔を、見ずに済むのに。


「黙れ」
「ずっと、どんな思いで私を見ていたんですか」
「……黙れ」

 視線で私を殺しながら、私を強く抱きしめる。
 とても冷たい身体だった。

「…死に際を、見られなかった。それが不幸なのか幸いなのかは分からない。死体を埋めることさえ叶わない」

 兵長はその名を呟いた。
 机の上の写真立ての中で笑っている。

「何故お前が、こんなにも似ているのか。必死で遠ざけようと、していた」
「はい、だから、私はもう一度前髪を伸ばしますし、貴方の班員でもない。ただの部下です。もう、これきり、」



 これきり。

 腕の力が強くなって、離れた。



( 20110810 )
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