リヴァイ兵長の隈がよりいっそう濃くなっている気がした。気がしたところで私は兵長に声をかけることなく、自分の立体機動装置を手に取った。あれから少し時間を挟んで一ヶ月。二度目の壁外調査だ。前回の調査で、同期は半分に減った。綺麗な金髪を二つに結わえていたあの子も、前回の調査で死んだ。そばかすを気にしていたあの子も、目を腫らしていたあの子も。私の心はどんどんと冷えていく。
生き残った友人の一人が、前回よりも前へと配属された。巨人との遭遇率が一番高い場所だ。だからこそここに配属されるのは、冷静な頭脳と屈強な心、そして的確な技能を持つ兵士だと講義された。
誇りだと笑っていた。
私は、あの人の背中を見ながら、馬を走らせている。
陣営は最早乱れてきていた。
初列の人数は減り、外へ進むにつれ前が開ける。ここまで来ると、立体機動を使わざるを得なくなる。ただし、平地で立体機動を使うことの難しさは幾度も言われたし、訓練時にはどれほど苦労したことか。それでも、やるしか道はない。
「前方に6m級を確認! 「私、行きます」
「シズカ! 一人で行かないで!」
ペトラが叫び、リヴァイ兵長の表情が一瞬だけ、見えた。
___なぜ、
___そんな目で私を見るの?
ガスを吹かし、迫ってくる巨体へ金具を引っ掛けた。
そのまま飛び上がって、うなじを斬りにかかる。そのまま身体が前に倒れ、私は再び馬に乗ろうとして、
そこで初めて、背後の7m級に気づいた。
あ、あ、 熱い息が、迫る。
ころされる__。
「っ、バカヤロウ!!!!!」
「リヴァ、」
「何を勝手な行動をしている!!!!! すぐ馬に乗れ!!!!! お前の行動は陣営を乱したんだ、早くしろクズが!」
倒れた7m級の背後から、リヴァイ兵長が怒鳴った。
考えるより早く馬に飛び乗り、列に加わる。何も言わない私に、横で馬を走らせる先輩がこっそりと言った。「お前の行動は半分合っていたが半分違う」と。
「普通、平地で巨人をしとめる時は二人一組でやるもんだ」
「そうなんですか」
「一人が巨人の足を崩し、もう一人がうなじをしとめる。これが基本だ。一人でしとめられる兵士はまずいない、上に、今のような事態があったらどうする」
「……」
「兵長がいなかったら今頃お前は腹の中だ。命拾いしたな」
それはもう自分で痛いほど分かっていることで、さきほどリヴァイ兵長があの7mをしとめなければ、私はもはやここにいなかっただろう。敬意を払うこともしなかった大嫌いな上官に、命を救われた。__兵長は私のことを嫌っていたはずなのに。
あの目は、なに。
「リヴァイ兵長はなぜ私を助けたんでしょうか」
「それはお前が部下だからに決まっている」
独り言のようなそれに、律儀にも先輩は返してくれた。
「私を嫌っているはずなのに」
「嫌っている? 好きとか嫌いとか、この状況で言えるか? 兵長が好き嫌いで班員を選んでるわけがないだろうが」
ああ、わたしは__やはり嫌いにはなれない。押し付けた理想に落胆し、失望し、逆らって、嫌ってしまおうと思っても、例えあの人が私をどう思っているとしても、希っている。
例えあの人が、私に誰かを重ねているとしても。
( 20110810 )