「雪が降れば良いのになぁ…」
「雪? それはまたどうしてだ、譲ちゃん」
「私、雪を見たことがないの」

 冷たくて白い、っていうのは知ってる。ある程度言葉で想像はできるけど、触ったこともないんです。私が3歳には失明してた、って話しましたよね? だからほら、雪が降るシンオウに行く以外は体験できないんです。ジョウトで雪が降れば良いのに。なんか、足跡とかが残せるんでしょう? ダイブしたりとか。

 悲しそうに呟いたシズカに成る程、と思った。
 2歳の子供を遠いシンオウへ連れて行く親は少ないだろう。
 自分は去年、シンオウへ3日ほど出張をしたが、キッサキシティでは凍える思いをした覚えがある。


「雪なんて良いもんじゃねぇぞ」
「それは体験したから言えるんでしょう、私は体験してないもん。私の世界は病院しかないんだから、雪ぐらい降らせてくれたっていいのになぁ。神様って意地悪だ。

……ねぇラムダさん、生きるのは苦しいです。
真っ暗な未来しか私には見えないの。お父さんとお母さんが、一生懸命私の為に働いてくれてるのは知ってるけど、私の病気はもう治らないって私が一番良く分かるよ。

生かされ、たくないな」



『ねぇ、私の為に寝ないで働いてるって聞いたわ』
『そんなことはない、無理はしてないぞ』
『ラムダ、私はもう…駄目だって分かってるから……私の為に、もうなにもかも捨てなくて良いの。私なんか忘れて幸せになってよ。』
『バカ、んな縁起でもねぇことを言うな。大丈夫だ、お前は治る。絶対、この病院を一緒に出るんだ』
『ラムダ…ご免なさい……私はもっと、貴方と生きたかった』
『  ? おい、』



 生きたかったと願ったあいつ、なにも出来なかった俺。ただ暮れるしかなかった、そしてもう、なにもかもが___あいつを連想させる欠片にしか見えずに____




「生きたくても生きられなかった奴が居るのに生かされたくないなんて簡単に言うんじゃねぇ!」



 叫んでからはたと気づくのだ。俺にそんなことを語る資格は無いと。手首の古傷が、ずくりと疼いた。

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