雨は好き? 

 ミルクティーから湯気が立つ。マツバはにっこり笑った。



「…私は好きじゃないよ」
「どうして?」

「まず、髪が纏まらないから。それから洗濯物が乾かないから。外でバトルできないから。エトセトラ」
「実に女の子らしい理由だね」

 雨の音が聞こえる。土砂降りだ。私はマツバが塔に篭りっきりだと聞いたので無理やり引っ張って外に連れ出した、のに雨が降ってきてしまって結局はカフェに入ることになった。
 何故だか如何して、キキョウシティまでやってきたのに。

「なんかさ…ごめん、マツバ」
「なにが?」
「だって私修行の邪魔しちゃったわけだし…そのうえ雨降っちゃうし…」
「シズカはそんなこと気にしてたの? 大丈夫、僕もそろそろ塔から追い出されそうだったし、それに雨は好きなんだ」
「雨、好きなの?」
「好きだよ?」
「なんでまた?」

 マツバは何故だか笑って(私はそういうマツバのふわりとした笑みが好きだ、)(まぁ心のうちが読めなくていささか不安になるけれども)私のフルーツタルトにフォークを伸ばしてきた。
 「頂戴?」私が返答するまもなくマツバはひょい、とブルーベリーをフォークに刺して口に運んだ。


「マツバってブルーベリー好きだったっけ?」
「うーん…ていうか好き嫌いがない。食べ物ってあんまり興味持てないんだよ、僕」
「そっそれは! 困る!」
「どうして?」
「だってマツバとけっ…いやなんでもない。」
「ん? 結婚?」

 そして笑顔で今度はイチゴを掻っ攫って行くのだ。
 結婚、そう、結婚。高望み? やっぱ言わなくて良かった、"マツバと結婚して好きなものつくってあげられないなんて"考えればなんとも恥ずかしい台詞であろうことか!

「どしたの? 結婚が、したいの? シズカは」
「…したい」
「誰と?」


 チクショウ、この男は…! (知ってる、癖にさ)



「…ハヤトくんと!!」



 私は猛烈な速さで喫茶店を飛び出して、雨に濡れながらキキョウジムへと飛び込んだ。

(ハヤトくん結婚して! うわーん!)(シズカさんまず髪拭いて!)



10.7( 0530移転 )
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