それは全くもって奇妙な光景だったのだ。
 トレードマークでもあり大好物の葉巻を一度灰皿に押しつけてから、彼は彼女を抱き上げる。受動喫煙を気にするような優しさが果たして今までの彼には見受けられなかった、だが彼女と出会ってから、否、彼女を拾ってから、サー・クロコダイルは明らかに変わっていた。

 彼女の名前は、シズカという。





・ ・ ・





「サー、お帰りなさい」
「あァ……」

 BW社長、サー・クロコダイルを迎えるのは成年手前であろう少女だった。だが少女と呼ぶのが少し躊躇われるような、花開く直前であるような、瑞々しさがある少女だった。
 亜麻色の髪はキャラメル菓子のようだ。傍目から見て、特上に可愛らしい、他に類を見ないような、少女だった。

 彼女をここまで育て上げたのはサー・クロコダイル、この方の他ない。


「いい子に勉強してたか?」
「ええ、もちろん」
「そりゃあ上等だ」

 シズカにだけかけられる、とびきり優しい声は、普段の彼を知っているものであれば逆に恐ろしいであろう。革張りのソファにどっかりと腰を下ろしたクロコダイルは、当然に隣に座ったシズカの髪を柔らかい仕草で梳いた。

 シズカを拾って以来、クロコダイルはシズカの髪を短くしていない。
 理由は至極簡単である。
 クロコダイルは、髪の長い女が好きだから。

 同時に、この砂漠の国アラバスタではめったに見ない、ミルクのような白い柔肌もクロコダイルが求めたものだった。
 外へ出歩こうものなら、日に焼けないよう対策が施される。閉じ込めて籠の鳥にするつもりはなかった。外の世界を知らずに知識だけ詰め込んでも、それは全くの無駄だということを、クロコダイルは知っていたから。

 愛し愛され、最高のもてなしを受けて育て上げられた少女を見るのは、クロコダイルにとって自分が奪った宝や、地位や、名声に浸ることよりも彼を満足させることだった。
 

「シズカ、今日は何が食いたい? なんでも食わせてやるよ」
「私はサーの好きなものが良いな」

 だってサーが嬉しいと私も嬉しいのよ?

 無邪気に、柔らかい笑みをたたえるシズカ。
 髪を梳いていたクロコダイルの手が止まる。


「クハハ……本当に…お前は、」




( これは略奪ではない、支配こそが本当の愛なのだ。愛を知ることは美しい。そして果てに恐ろしいのだ )
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