マルコが船へ戻ったとき、彼は奇妙な拾い物をしていた。


「お、おいマルコ、どうしたんだそのガキ、」
「医務室に連れてってやれ、酷い怪我を負ってんだい」

 サッチはマルコの有無を言わせない態度に逆らえず、甲板に下ろされた少女を抱き上げた。切り傷のせいで高熱が出始めている上、左足には弾丸の跡。マルコはああは言ったが、少女が負う怪我にしては深すぎる。
 足取りを早めながら医務室に飛び込み、急患に騒然となるナース達に少女を預ける。後は任せれば良い。

 医務室を出て甲板に戻ると、マルコが突っ立っている。


「おい、どういうことか説明してくれ、マルコ」
「……あの火の中、あいつは30…いやそれ以上の男を同時に相手していた」
「はぁ!? あんなちっこいやつが?」
「そうだよい。足を撃たれても腕切られても、引き摺って戦って、そして男たちを倒した途端、倒れた…ありゃあ、ただの小娘じゃねぇよい」

 遠くを見つめながらマルコが言う。

「しっかしよォマルコ、お前、あのガキが助かったところでどうすんだ。乗せんのか? オヤジになんて言うつもりだよ」


「……俺の部下にするよい」
「はあ!?」

 今日の一番隊隊長は、むちゃくちゃを言う。冗談かと思ったが、マルコの表情を見る限り嘘ではないらしい。


「あんなガキが、乗られるはずがねえだろ!!」
「……とりあえずは、アイツが目ェさましてからだ。オヤジだって、死にそうなガキ放り出すことは許さねェだろい」




・ ・ ・




 それから三日が経った。ログが貯まるまではあと二日。白ひげ海賊団、医務室にて、シズカは目を覚ました。

 すぐに目に飛び込んできたのは、白い天井そして、釣り上げられた自分の足。熱に浮かされているのか、頭はぼうっとして動かない。
 ただ、残るのは、主人が残した最後の命令。


『あァ……シズカ。俺はもう駄目だ。知られる前に、ここは全部燃やす。良いか、最後の命令だ、よく聞けよ。
まずお前は俺が死んだら、主人…新しい主人を見つけろ。それまではお前の身体が命ずるままに生きろ。闘え。
分かったか、俺が死んだら、俺はもうお前の主人じゃねェんだ』


 主人は死んだ。あの研究所が燃えて、あの中にいた主人はもう、いない。男を倒し終えて、それは確認した。
 なら次の命令に従うのみだ。私が命を懸けて守る主人、新しい__主人を、見つける。


「目ェ覚めたかよい」


 ぶっきらぼうな声音。

「おい、生きてるか」

 主人を___見つける。


「あなたの、名前は」
「は?」
「名前……は、」
「マルコ……だよい」

 右側にその人はいた、否、いらっしゃった。マルコ様。何度も繰り返す。忘れはしない、私の新しい主人。存在理由をくださる方。今日から私はこの人のために闘う。


「マルコ、さ、ま」
「……様?」
「わたしの、ご主人さま、」
「……なに言ってんだい、お前」






 やがて世間に、新たな噂が回るようになる。白ひげ海賊団一番隊隊長、『不死鳥』マルコの隣には、彼を守る、忠実な『人間兵器』がいるということを。




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