島の一角で火柱が立ち込めているのは、船から容易に確認できた。
「なんだァ、火事か?」
「……どっかが、ドンパチしてるねい」
「ほー。オヤジはなんて?」
「『気になるなら一応見て来い』だとよ」
不死鳥へと姿を変えると、マルコは船から飛び立った。それほど広くない島だ、すぐにその場所へと降り立つことが出来た。上空から確認したその火は、無機質な建物から上がっており、繁華街からは遠く離れた辺鄙な、"いかにも"な場所での小競り合いだろうと判断するのは容易い。海軍がらみではないことを確認するとその場から飛び出そうとしたのだが、どうしたことか、吸い寄せられるようにマルコは地面へと降り立った。
それは、純粋な好奇心だったのかもしれない。はたまた、気紛れな行動だったのかもしれない。
それとも、必然。
「こりゃあ、また…」
「面白いモンを見ちまったねい」
マルコは、この戦いを、よくある悪党たちのぶつかり合いだと踏んでいた。しかしそれは間違いで、いかにも凶悪な強面の男たち_30はいるだろう_に立ち向かっているのは、
たった一人の少女、だった。
男たちにそれほどの技量と力があるとは思えないが、少女の俊敏な身のこなしはすぐに分かった。無駄のない突き、蹴り。あの細い身体から繰り出されるには威力がありすぎるそれは、恐らく彼女が"覇気"を使っているのだろうと想像するに容易い。こんなに若くして、覇気を使うなど。
男たちは次々に薙ぎ倒されていく。
だが流石に、その一瞬、ある弾丸が、彼女の足へと打ち込まれる。左足の健を偶然なのか、貫いたその弾丸は、この戦いにおける彼女の不利を示すように光った。片足で、彼女は今までの動きをすることは出来まい。それを見ながらマルコは、なぜ降り立ったのかを今更後悔する。
(良心の呵責ってもんがあるだろい…)
きっと彼女は、今までの仕返しとばかりに、男たちに殴られ…そして殺される。自分が助けに行かない限りは。
「チッ」
パキパキと身体を馴らしてから戦闘体制へと入る。援護をするために回り込んで、とそこまでシュミレーションをしてから、マルコはとあることに気づく。
彼女は先ほどと変わらない。弾丸を受けたことなどなかったかのように、左足を引きずりながら戦っている。それに驚いたのは優勢を信じきって油断していた男たちで、左足に続けて切りつけられた右腕にも悲鳴をあげず戦いを続ける少女に、逆に恐怖を覚えたようで。
少女の身体はボロボロなのに、まるで痛覚がないかのように、戦い続けている。一心に。目的を果たすまでは、止まれない、とでも言うように。
その姿にはマルコですら恐怖を覚えた。
やがてその場所には、少女しか立っていない。
キョロキョロと周りを見渡し、男たちを完全に倒したのを確認したのち、少女は、電池が切れたおもちゃのように、倒れた。
ボロボロの肢体を投げ出して、服を血に滴らせて。
その姿を見、不死鳥へと変化したマルコは、少女を背に乗せ、船へと飛び去っていった。
(続く)