※死ネタ注意





 最早迷いなどない。夜の風が肩を撫でる。今生最後の月だ、目一杯拝もうじゃないか。
 月は私を諭すように爛々としているが、それはあの男とは正反対で、くすりと笑う。そういえば今日の夕飯のとき、彼はやたら嬉しそうだったっけ。まぁ、どうでもいい。

 一ヶ月、だ。それだけの時間をかけて、ようやく笑いかけてやった。シャチ、ペンギンを始めとするこの船のクルーたちと、和解した。でっち上げた過去を暴露して、"だから私は、海賊が大嫌い!"なんて高らかに嘘を歌い上げて。
 島に海賊が来たのはあんたたちが初めてで、わたしが海賊に親を殺されたなんてあるわけがない。あのとき酒場で泣いていたのは義理の親、なんてあるわけがない。

 生んでくれた、育ててくれた、愛する親と私を引き離した張本人たちを目の前にお涙頂戴。『でも今は、もうみんながいるし、ね』ですって。我ながら、笑わせないでと思いながら吐いた台詞に、嬉しそうに笑うクルーたち。


 反吐がでる。

 私の全てを奪った、トラファルガー・ロー。彼に、懐柔したと思わせるために、劇を演じてみせたのだ。長い一ヶ月だった。あの島には婚約者もいた。聡明で優しいひとだった。私は幸せな結婚をして、両親に今までの恩を返すつもりだった。『気に入った』という彼の一言で、全部全部、それは崩されたのだ。


 ここでの生活は楽しかった? _いいえ、島で暮らしていたあの日々が大好きだった。
 クルーたちとなれ合うのは楽しかった? _いいえ、島に残した心からの親友たちが、懐かしいわ。
 トラファルガー・ローに愛されて、楽しかった? _いいえ、私の恋人は、あの人だけ、なんだってば。



 最早私が一人で居ようと、監視はつかない。だってシズカはもう『俺たちの仲間だから!』


 笑わせないで、よ。


 トラファルガーが嫌われた海へ身を投げれば、あの男は私を助けられない。ざまぁみなさい。愛するものに先立たれる悲しみと苦しみを、一生背負って生きれば良いんだわ。



( ドボ、ン )
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