「はい、それじゃあそういうことで。宜しくお願いします」

 団長に書類を渡すと、腕を捕まれて引止められた。

「あ、シズカ」
「なんですか?」
「最近は寝られているか? あまり顔色が良くないみたいだが」
「そうですか? 大丈夫ですよ? 寝られるときに寝ていますし」
「なら、良いんだが。あまり無理はするなよ」

 団長の手が頭に置かれた。とても優しい、気遣いの出来る人だ、エルヴィン団長と言う人は。聡明で、思慮深く、信頼出来る。頭がガチガチに凍ったお偉いさんを一蹴できるのはこの人しか居ない、と私は踏んでいる。
 さっき渡したのは、ついこの間の壁外調査の私の隊の報告書で、予定通りに任務を終えた事、そして珍しく(あまり、こう言いたくはないけれど)少なかった死傷者の数などが記してある。これを渡してようやく仕事は一区切り。少しの間だけど、休暇が与えられる。団長には見抜かれたけれど、壁外調査で壁の外に出ていく前から私は寝つきが悪い。だからこうして壁の中へ帰って来たときにはもうへろへろになっていたりする。

 団長と話してから自分の部屋へ戻るのも、足取りが覚束ない。階段一段一段が、重い。毎度のことながら眩暈がしてきて、誰かを呼ぶべきだろうかと考えた。分隊長を務めていながら、情けない。
 変色しかかっている壁に背中を預け、いよいよ座り込んだ。

 精神的にも___身体的にも、私は常に限界に生きている。


「おい」

 急に上から声が降ってきたかと思うと、腕を捕まれ引き上げられた。エルヴィン団長とはかけ離れた、遠慮のない掴み方。

「…またか」
「リヴァイ……こんばんは」
「呑気に挨拶してる場合か、お前は」

 呆れたように溜息を吐かれる。恐らく、私と同じように、団長に書類を渡してきた後だろう。手にインクの擦れた後がある。リヴァイが部屋に戻ったのは相当遅かったから、私はかなり時間をかけてふらふらと歩いていたのだろう、追いつかれてしまうなんて。
 以前にもこういうことはあった。ただしそれは書類を提出しに行く前_確かその日は、特に死傷者が多かった_に、廊下でへたり込んでいたときだ。そのまま声を上げて泣きたくなってしまったほどに、酷かったのだ、あの時は。そんな私を見つけたのはやっぱりリヴァイで、同じように腕を捕まれた。

「歩けるのか」
「んーと、水があると有難いかもしれない、」
「…面倒くせぇ」

 吐き捨てるように言ったリヴァイは、体制を低くした。人類最強と言えどもかなりのチビ___じゃなかった、小柄なリヴァイは私と数cmしか変わらず、しゃがまれるとすぐに私が彼を見下ろすことになる。彼はそのまま、私の膝の裏と背中に、腕を回した。

 身体が、ヒョイと持ち上げられる。


「お前の部屋はどこだったか…」
「あの、兵長さん、」
「黙れ」
「ええ…」

 スタスタとそのまま階段を登られる。仏頂面を崩さず、私は余計頭が回ってどうにかなりそうだというのに!
 俗に言うお姫様抱っこの姿勢のまま、リヴァイは私の部屋へ入った。(ちなみにドアは蹴飛ばして開けていた)(…蝶番が壊れたような音が…)

 普段の振る舞いからは想像できないほどに、私をベッドに下ろす手つきは優しかった。

「今、水を持ってくる」
「あ、あの、リヴァイ」
「…なんだ」
「重かったでしょ、ごめんね」

 女子とは言え、私だって立体機動を使いこなすために身体を鍛えている。筋肉質な身体は身長だってリヴァイのそれとあまり変わらないのだから、重かったに違いない。





 反対側へ向けた足をぴたりと止め、リヴァイはこちらを振り返った。仏頂面のまま、リヴァイの冷たい手が、私の髪を触る。サラリ、と。掬われては落ちる。リップ音がした。手の甲に落とされた口づけ。

「……これは、前の分だ」

「今回の分は……こっちで、払ってもらう」


 リヴァイの唇が、私のそれに重ねられる。ベッドがギシリと音を立てた。溶けそうに熱い。体温が上昇している。やがて服の下へ、リヴァイの手が入り込んでくる。侵食される。沈む。


( 20110425 )
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