あそこまで強く噛みつかれたのは初めてで、正直戸惑っている。一ヶ月。新人の兵士が配属されて一ヶ月が経った。ようやく、壁外調査へと向かうこととなる。戦場では、一度たりとも、俺はシズカとかいう名前の、9位の顔を見られなかった。巨人にシズカが接近するたびに思い出すのはアイツのことで、違うと頭の中で振りほどいても、アイツが巨人に食われた瞬間を逆に想像してしまい、下へ降りろ、と。兵士を介抱しろと命じた。これ以上余計なことを考えさせるな。

 だがシズカは命令に背き、俺に背を向け、俺が援護しに行こうとしていた7m級ニ体へと接近していく。ガスが切れて落ちるんじゃないかやら、逆にやられるのではないかやら考える自分に無性に腹がたった。
 だから____アイツとシズカは全くの、別人だ。

 自分に言い聞かせるように、シズカを部屋へと呼んだ。



『失礼します』

 いよいよ声さえも似ているような錯覚を起こして。一瞬だけ顔を見た。



『ねぇリヴァイ、いつか貴方がウォール・マリアを奪還してくれるんでしょう?』
『私がここにいる限り、いつ帰ってきても大丈夫。貴方のために、毎日隅まで掃除してるんだから』
『人類が貴方を必要としなくなるときが、いつか絶対来る。ねぇ私、そう思っているの』


 やめろ。思い出すな。やめろ、アイツとは違う、面影を見出してどうする、アイツはもう、死んだんだ。巨人に食われたんだ。俺は守れなかったんだ。それでも__『似ている』んじゃない。そのままなんだ。目も、口も、鼻も、…そのまま、アイツがここにいるんじゃないかと錯覚を受ける。
 部下の顔を見ることすら出来ないのか?

 わき腹に蹴りを入れたときも、肺を潰したときも、シズカの顔を一切見なかった。だから飛んでくる脚にも反応出来なかった。シズカが言った言葉は全て、正論だった。感情がない。やめろ。アイツと同じ顔で、そんなことを言うのはやめろ。


( 20110423 )
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