「めーがねっ」

 にっこり、人形を持った少女のような笑みをシズカが浮かべて、僕の眼鏡を取った。少し視界が靄に包まれる。シズカはお札かなんかのようにそれを光に透かしている。

「シズカ、君の顔がよく見えないな」
「真考ぁ」 甘えた声。

「…なんだい?」
「春君の視力知ってる?」
「知っているよ、伊達眼鏡を掛けてることが言いたいの?」
「真考は何でも知っててつまらない」
「君のことは全然分からないよ」
「全然?」

 くるりと一回転、華麗に舞ったシズカは眼鏡を掛け直してくれた。視界がクリアだ。そのままデスクに肘をつき、上目にこっちを見つめてくる。

「…全然じゃ、ないと思うけど。
ああ、でもね、私が言いたいことが分かってない、分かってないの。今私はなにを思ってると思う?」
「だから、検討がつかないよ」

 最後の書類に判子を押した。

「折角二人っきりなのにね、どうしてキスの一つもくれないのか、っていうことだよ」

 拗ねた顔でもしていると思えばとんだ真顔だった。真摯な眼がアンバランスすぎて笑ってしまう。お昼休みでみんな外へ出ていたり(または外で一服していたり)(誰かに会いに行ってたり)して人気が無いここなら、確かにキスの一つでもしてあげれば良かったな。気が回らなかった。(作業は一息ついたわけだし)


「もっと知ってて欲しいの、私のこと」
「僕だってもっと知りたいよ」
「真考、すき」
「…それは知ってるよ、ずっと前からね」


 そのまま机越しにキスをする。砂糖みたいに溶けそうなキスだ。シズカは甘党だから、さっきまで角砂糖でも齧ってたんじゃないかな。ふ、と息が漏れて唇を離す。酔っ払った猫みたいな目のシズカ。


「真考、もっかい、」
「ん、分かってるよ」




 ガチャ、

「おい比企、このサイコ野郎の居場所やっと掴んで____!!!」



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