甘ったるくて苦い香りがしない。ふわりと柔らかな髪が頬を擽る。そして唇がそっと塞がれて行くのを感じた。

 薄く、目を開けると、

 ゴーシュのあの笑った顔が、




「…夢からは覚めたかい?」
「ラ、ルゴ?」

 私の眠っていたベッドの横にラルゴが座っていた。わざわざ椅子を持ってきたんだろうと思った。
 珍しく煙草を吸っていなかった。優しい眼差しで私を見ていた。



「泣いていたから」
「誰が?」
「君が。シズカ、何か悲しい夢でも見たのかい?」
「ええ、とても、


言えなかった。最後まで言えなかったの。私を置いてゴーシュの心は死んでしまった。どうしてあの時無理やりにでも止めなかったのか、自分でも分からないの。孤独(ひとり)の悲しさを私は知っていて、それをゴーシュに知って欲しくなかった。シルベットの為に働いているゴーシュを止める事なんて出来なかったのかもしれない、」



「あの少年のコトは君の所為じゃないだろう、」
「ゴーシュが…大好きだったわ」
「ねぇシズカ、夢の中で、」
「ゴーシュはキスをしてくれた。柔らかい髪が頬にかかって、ふにゃりと笑ったの」

 


「シズカ、それは___


それは、ぼくだって、言ったらどうする?」

 ラルゴの瞳が寂しげに細められた。




想われないこと知ってるよ

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