彼からはいつも甘くて苦い香りがする。煙草だ。"ピンク・エレファント"の彼のお気に入り、キャンディ・フィリップス・ライトの香り。
 いつだったかそのことを言った。彼は困ったように「嫌かい?」と私に尋ねた。私は無言で首を振って、あの人とは違う彼の香りを吸い込んだ、





「ねぇ、シズカ」


「星が綺麗だとは思わないか?」





「本当にね。太陽は偽りのものなのにね。皮肉だわ」
「どうして? 綺麗ならそれで良いじゃないか」
「私は配達で空を眺めるたび悲しくなるの。星はこんなに綺麗なのに太陽・・・人口太陽だけは人間の欲望、っていう感じが溢れている。空はもっと神聖なものであってほしかったの。いつだって空は私たちより大きくて綺麗なはずだったのに、結局私たちが自分の手で空を汚したのね」

「つまりは、人口太陽が嫌なのかい?」



 ゆっくりと頷いた私の頭に、ラルゴの大きな手が降りてきた。それから、その長い指で、私の髪をくるくると弄んだ。

「館長さん」私がふざけた様に言って、


 ラルゴはゆっくりと笑った。

「ハチノスだなんて大層な響きだけどね。人間は所詮虫と同等ってこと?」
「それは・・・ちょっと失礼だよミレイ。
頑張っている少年だっているしね。ほら、この前見たでしょ。ラグ・シーイング」


 頭の中でカメラを巻き戻して、やがて出てきた映像には一週間前、と記されていた。小さな男の子。私が名乗ったら、大きな目を更に大きくさせた。私って有名人だったのか、そう彼に聞いたら、

『ゴーシュ・・・ゴーシュ・スエードに名を聞きました』

躊躇いがちに教えてくれた。卒倒しそうになった私をラルゴが支えて、それから、



「確かに、シーイングは、とても綺麗、」
「だろう?」

 ラルゴは、深く帽子を、被りなおした。

「けれど、あの人は、ゴーシュは・・・綺麗だったわ、大好きだったの、あの人の、声も目の色も髪の色も仕草も、」


( こんなに溢れてるのに )
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