※ポケモン原型注意
※映画「ルギア爆誕」の設定です
ちゃぷ、と指を海面に触れさせると、あまりの冷たさに全身までぶるりと震えが走った。この海は、いつだって、冷たい。割れた氷の隙間から僅かに覗く海面を私はいつも探して、ここを歩き回っている。
いっそ、身でも投げてしまえば、彼は血相を変えて助けに来てくれるだろうか?
そんな突飛なことを考えてしまう自分が馬鹿みたいだ。
『何を考えている?』
海が、何かの電波を受けたかのように揺らめいて光った。少し窘めるようなその物言いに、私はトゲを含ませて「別に」と返した。
「せっかく会いに来たのに、顔も見せてくれないのね」
『私はそういう存在だとお前は分かっているだろう』
「どっかの三馬鹿が喧嘩しないと出てきちゃいけないんでしょ。不便ですこと。ちょっくら雷の島でも行って尻尾の羽でも抜いてこようかしら」
『私が姿を見せる時は世界の終わりだ』
精一杯の冗談にも反応はなく、私は靴を脱いで、両脚を海に沈めた。凍りつきそうだった。それを我慢するようにきゅう、と肩を縮める。
『何のつもりだ。また風邪を引く』
「こうすると、貴方と繋がっている気がするの」
『シズカ、』
「ねぇ、」
__ずっとひとりぼっちで、さみしくないの。
幼い私は海の主にそう問いかけた。聞こえる筈なんてないと思っていた。だって彼が姿を見せたのは私のひいひいお婆ちゃんのフローラさんが巫女を担っていたあの年だけ。あれからもしきたりはずうっと続いた。けれど、この世界に危機が訪れない限り、しきたりはしきたりのままだ。だって彼は幻のポケモンだから。
__寂しい。
だから、この冷たい海にそぐわない優しい声で、返事が聞こえてから、
私はずっと彼に、
「まるで、貴方自身が災厄みたいな言い方ね」
『間違っては、ない』
「私がどうしてずっとここに来るか分かる?」
『……分からない』
「……貴方が、寂しいって、言ったからよ」
ぐ、と脚を引っ張られた。抗えない強い力。体が海に沈んでいく。突き刺すような冷たさ。もがいても、どうにもならない。
「……ルギア」
微かに開いた目に映る彼の姿。ああやっと会えた。やっと顔を見せてくれた。薄れていく意識の中で彼の声が頭に直接響いてくる。
『ならばずっと私と一緒に居てくれ。種族を超えて』
( 20140926 ) 久しぶりに映画見た結果がコレです……