※跡部→高3 日吉→高2 


『明日、部活に顔出すから』

 シズカさんからのメールに気付いたのは、着替えが終わり、部室を出てからだった。時間を見ればつい先ほど送られたもので、部活の終わる時間に合わせて送ってくれたことは、想像に容易かった。
 十一月も半ばを過ぎた頃となれば、乾いた空気が肌に刺すように冷たい。テニスで得た体内の熱も、みるみるうちに奪われていった。特に末端は冷える。悴む指で、一文字ずつ返事を打った。

『どうしたんですか、急に』

 送ると、すぐさまメールではなく電話がかかってきた。

『部活お疲れ様』
「……どうも。で、理由はなんですか? 本当に急ですね」
『若がちゃんと部長業をこなせてるのか確かめにいくよ』
「まだ部長じゃありません。何言ってるんですか」
『あれ、そうだっけ? 跡部たちはいつ引退なの?』
「明日ですよ。自分の時のことを覚えてないんですか?」
『覚えてないよ』
「まだ一年しか経ってないじゃないですか」
『俺忘れっぽいから。そっか、まだ跡部が部長なんだ。じゃあ、跡部に伝えておいてね。寒いから、風邪ひかないようにね、若』

 一方的に電話は切られ、感覚がなくなってきた指を携帯ごとポケットに突っ込む。
 部室から、鳳と宍戸先輩が順番に出てきた。

「うっわ、寒ぃ」
「もう十一月ですからね。……あれ、日吉、先行ったんじゃなかったの?」
「跡部部長宛てに伝言を頼まれた」
「アーン? 誰からだ?」

 測ったようなタイミングで、跡部部長も部室から出てきた。次いでゾロゾロと、忍足先輩、向日先輩、芥川先輩、樺地も出てくる。下校時刻ぎりぎりにも関わらず携帯を弄る忍足先輩やぺちゃくちゃと喋っていた向日先輩、半分寝ながら着替えていた芥川先輩、それを手伝う樺地……いつもの光景が部室の中にあったのだろう。それに、帰りを促すことも、部室に鍵をかけることも、跡部部長の役目だった。

「シズカ先輩が、明日部活に来られるそうです」
「明日か……フン、随分と急じゃねーの」
「えっ、シズカ来るのー!? マジ!? うれC〜」

 樺地にもたれかかって船を漕いでいた芥川先輩が覚醒する。
 ぴょんぴょんと視界で跳ねる金色が目障りで、視線を跡部部長に戻した。

「確かに伝えましたよ。それじゃ、お疲れ様でした」
「あっ、ちょ、ちょっと待って日吉」

 スタスタと歩き出したのを、鳳に引き止められる。

「なんだ、鳳」

 不機嫌丸出しの俺のトーンに、鳳は先輩方に聞こえないような音量で答える。

「明日の準備、大丈夫だよね?」
「……花だろ。ちゃんと、部活の前に学校に届けてもらうようにしてある」
「なら良かった。じゃあ、また明日」
「ああ」

 鳳の声は少し沈んでいるようにも聞こえて、確かに鳳にとって宍戸先輩は長い間ペアを組んでいた存在で、それが明日で終わりだということが、コイツを感傷に浸らせても仕方ないな、と思った。中学の頃から当たり前に前を歩いていた背中が、なくなる。忍足先輩は医大に入るのだと聞いた。同じように先輩方はそれぞれの道を進んでいくのだ。
 何か胸を締め付けられるような思いが唐突にして、俺は足早に家に帰った。鳳の声が耳から離れない。
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