まるで唸っているような風だった。
シズカはスカートが捲れそうになり、鞄で押さえる。学校まではあと少しの距離だったが、横からの強風は歩きにくいことこの上なく、なかなかに厄介だった。
そこで、急に、風が少し弱くなった。ふと横を見ると、むっつりとした顔の彼女の幼馴染が、めがねのブリッジに指をやりながら立っていた。
「あ、おはよう」
「押さえるくらいならそんなにスカートを短くしなければいいのだよ、馬鹿め」
冷たい言葉とは裏腹に、彼女を守るべく横に並び、歩幅を合わせて歩いてくれていることが、シズカには分かっていた。
「だって、長いとダサイんだもの」
「だからといって、お前は短すぎる。そんなに脚を見せてどうするのだよ」
「べつにどうもしないもん。真太郎には関係ないでしょ」
「……自分の彼女の脚を他の男に見せたいわけがない。もう少し慎みを持て」
緑間は相変わらずむっつりとした顔のままだった。しかし、いつの間にか繋げられた手はシズカを嬉しくさせたのだった。
緑間は、優しさを素直に出すことが出来ない天邪鬼な性格の男だった。到底、付き合うにしてもその関係性に普通の恋人同士のような甘さは期待できないが、シズカにはこの空気がちょうど心地よかったのだ。ただ傍にいて、ときおり、彼の小さな愛の行動が有れば。だから傍目から見て、このカップルは不思議なものだった。もしかして喧嘩をしたのでは、と思わせるほど共に過ごす時間は少ない。
しかし、緑間はシズカと居るときにだけ、ほんの少し笑うことを、一部の人間は知っている。それは決してシズカ以外には引き出せない、彼女専用の笑顔だということを。
「今日は朝練ないんだね」
「今日からテスト一週間前だろう。部活は前面禁止だ」
「そうでした、そうでした」
「お前はちゃんと勉強しているのか? 赤点なんてとったら俺までおばさんに怒られるのだよ」
「それなりにやってるよ、真太郎ほどじゃないけど」
「……良い点をとれたら、あの祭に連れて行ってやる」
「え、本当?」
「俺は嘘はつかないのだよ。お前が頑張ったらの話だがな」
「わー、嬉しい。がんばろーっと」
校門がようやく見えたところで、シズカは悪戯に笑った。
「私ね、真太郎だったらパンツ見せてあげても良いよ」
「なっ……」
「ふふ、じょーだんだよ」
「馬鹿を言うんじゃない。まったく、」
オチがつけられず断念。緑の練習って感じですね。