「さて……全員揃ったかな、ウルキオラ」
「藍染様、シズカがまだです」
藍染惣右介はそれを聞くと、仕方ないと言う様に溜息をついた。
そして、いつもよりも悪態をついている(最もそれはウルキオラの言葉の後で更に悪くなったのだが)グリムジョー・ジャガージャックに視線を送った。
「シズカを呼んで来てくれるかな、グリムジョー」
無論断れるはずもない。逆らえば、というのはグリムジョー自身の身体が覚えている。藍染の無言の圧力にグリムジョーは乱暴に席を立ち、その部屋を出た。藍染が自分を指したのは、わざとなのだと分かっていた。だからこそ。この場に来ていない"十刃もどき"を呼びに行けば、自分は絶対苛立ちが増すと。
藍染は全て分かっている。
「オイ、収集だとよ」
「グリムジョー、ジャガージャック」
「早く支度してこいよ、"もどき"」
グリムジョーが向かった部屋は真黒だった。先ほどいた部屋とは対照的、というか殆どが白い虚夜宮とは違い、一筋の白もない。
そして、その中の真黒なベッドに寝そべっていたのは真白な服を纏った青年だった。
「貴様の命令など聞くものか」
「……チッ。じゃあ藍染の命令と言ったら?」
青年の眼は大分重くなっていたが。藍染、という言葉を聞くと、ベッドからすぐに降りた。
そしてお礼の一言も無く、廊下を駆け抜けて行った青年に、グリムジョーは自分の中で底知れぬ怒りと苛立ちが湧き上がるのを感じた。もどきの癖に。
結局、グリムジョーはシズカの後に部屋へと戻った。藍染は怪訝な顔一つしない。
遅れても悠長に入ってきたグリムジョーに微笑を投げた。
「ご苦労だったね、グリムジョー。
さて、十刃諸君。まずはこの映像を見てくれ」
つまりはいつもと同じ話だった。
虚圏で最近激争があるとか、仲間内の話だとか、十刃についても。諸君の実力は分かっている。だがどこの世界でも強者は弱者を見下す。それを忘れぬよう。
十刃たちはそれを黙って聞いていた。最もそれぞれがその言葉を真摯に受け止めたのかは分からないが。
「と、まぁ以上だ。いつ敵襲があるかも分からない。各自備えていてくれ」
藍染が言葉を切ると同時に十刃たちは立ち上がり、各々の場所へと散って行く。ただ一人。椅子に座っておらず、藍染のすぐ横へと立っていたシズカという青年は藍染たち三人と共に部屋へ残っていた。
「シズカ、どうした。部屋に戻って寝ないのか?」
シズカは黙って俯いていたが、やがて決心したように藍染に向かって口を開いた。
「……藍染様。俺にも番号をください」
「またその話か。やれやれ、随分前から説明しているだろう、それは」
「けれど藍染様。十刃の彼らは俺のことを"もどき"と呼ぶのです」
シズカは、番号を与えられていない破面だった。それはつまり、本の中で言う脇役で、力が弱いということだ。
けれどシズカはそうではない。十刃の中に十分通じる、寧ろソレよりももっと強い力を持った破面。
無論藍染は、シズカを見た瞬間から理解をしていた。だからこそ表には出さない、自分の最後の駒として手元に置いているのだが、その力を隠すことは、仇となっていた。
他の十刃含め破面の中では、"対して力も無いくせに藍染様のお気に入りだから十刃と同等の扱いをされている"という誤解があったのだ。
故にシズカは"十刃もどき"と呼ばれている。それはシズカにとってとても嫌なことだった。
「十刃でなくても良いのです」
必死に懇願するシズカを、藍染は優しく微笑みながら諭す。
「この前も言った様にね、シオン。君は私の最後の駒なんだ。他のものたちの理解など必要ない。私は全て理解しているのだからね。そうだろう?」
「けれど藍染様……」
それでもまだ口ごたえをするシズカに、たまらず__
「シズカ、貴様これ以上藍染様に口ごたえをする気なのか?」
東仙要は口を出した。
一介の破面が、この世界の王となるものに、あまりにも態度が過ぎると。そういうことだった。東仙の忠誠心は厚い。言葉少なにも、それはピリピリと感じられた。
「盲た方、変らずですね。……藍染様、申し訳ありませんでした」
東仙に対する嫌味を言いながらも、面倒になったのかシズカは深々と頭を垂れた。藍染は「良いんだよ、」と笑い、そして部屋に戻ることを命じた。
シズカはもう一度ペコリと頭を下げ、部屋を出て行った。
それと同時に、藍染の後ろに立っていた市丸ギンは、口角をあげた。
「ほんと、藍染さんはあの子がお気に入りなんやね〜」
「可愛いだろう? ずっと箱の中に閉じ込めてきたんだ。そう簡単には出すわけに行かない」
「せやけど……他の十刃たちから色々言われてんのやろ。良いんですの、藍染さん」
「いざとなったらシオンを本気で閉じ込めるさ」
「怖い怖い」
そう言いながらも市丸は楽しげに喉で笑った。
なんて不完全燃焼。破面主が大好きです。そして最強設定も大好きです。