「……またあんたか。いい加減通報するぞ」
「どうぞ、お好きになさって」

 彼は端正な顔を歪め、いらつきを隠し切れずに壁にもたれかかる。彼がなにも言わないのは、私が既にここのジムバッチを持っていて、尚且つ私がここを訪れる理由を知っているからだ。

「いくら待っても、もうここは俺のジムなんだ」
「そのことが間違ってる。ここは貴方のジムじゃないわ」
「……あんたがどう思おうと、ポケモンリーグは正式に、ここの元のリーダーの資格を剥奪することを決めたんだ。だからもうあいつは戻ってこない」

 冷たく突きつけられた真実に、私の足が震える。上手く立てない。

「あいつは__サカキは、レッドに倒されたんだ」



 やめて、と全身が叫ぶ。

 あのとき、新しいポケモンのサンプルを取りにジョウトへ行っていなかったら。
 私がずっと、あの人の傍にいられたなら。
 あの人を守れたのに。
 あの人を見失わなかったのに。


『ねぇサカキ、見て』
『……なんだ、それは』
『私が一生貴方の傍にいるって証』


 項へ彫り付けた貴方への忠誠の証を見て、貴方は笑っていた。
 貴方がいなくなっても消えないRは、私を一生縛り続ける。


 ツワブキダイゴという一人の男の人格を狂わせた切欠は、彼曰く『生きる価値のない人間』__即ち、悪の組織、ロケット団。
 サカキがそれを指示したのか、どうかは分からない。でも、例えあのタツベイが死んだのがめぐりめぐってサカキのせいだとしても、私は彼を許してしまう。会えないと分かっているのに、ジムへ足を運ぶ。いつまでも通じない電話に声を吹き込んでいる。彼が興味を持っていた研究を、続けている。


 ……馬鹿らしい。


 貴方が一生戻ってこないと知っていて貴方に焦がれ続ける私も、愛に飢えて泣くあの男も。




願い事は一つだけ、たったそれだけなのに、どれだけ手を伸ばそうとも、指先が触れることすら叶わない


「願い事」( 20120629 )
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -