※10年後桐山くんを捏造してます注意
『結婚しよっか』
驚いたのはむしろ私の方だった。
言ってから我に返り、「ごめん、今のナシ」と取り消した。
平和なこのマンションで、平凡で緩やかなこの時間の中で、私はなんてことを口にしたのか。
零は黙ってコーヒーを飲んでいる。聞こえなかったんだ。または、頭がまだ寝ているから意味を理解していない。どちらかだろう。良かった。
と、思ったのに。
「そうだね。俺も言おうと思ってた」
「…………は?」
「結婚しようか、シズカ」
たまらず零の顔を見ると、相変わらずのくすぐったくなるような笑顔をしていた。もうレンズ越しじゃない目はじっと私を見ていて、それは、さっきのことが冗談なんかじゃないことが、分かる。
「俺ももう27だし、そろそろだよね」
「れ……零? あなた自分が何を仰ってるか分かって、」
「え、シズカから言って来たじゃん、どうしたの?」
「いや……さっきのは、その、」
うっかりミスみたいなもので、とは言えまい。
10年__あれから10年経ってしまった。零も私も、泣いたり怒ったりする子供じゃない。
「うん。ていうか、そろそろシズカを俺の奥さんって言わせてよ」
子供じゃ、ない。
( 036 Make me happy )