「空がこんなに近い……!」
夜風がざわりとシズカの頬を撫でて、それでも彼女が心地よさそうに見えてリヴァイは安心した。星が見たい、と言ったのは彼女だった。彼女は、兵団の医療課に属する女医であり、そしてリヴァイの恋人だった。思いを伝えたのは自分だったが、それも何年前になるだろうか……そして彼女が自分になにかを求めることは、初めてのことだった。辛いことも、叫びたいこともあるだろうに、それを見せない彼女の姿は健気で、愛すべき存在だと、リヴァイは信じていた。
「すごいね……壁はこんなに高いんだ……連れてきてくれて有難う、リヴァイ」
ふんわりと微笑むシズカ。
ここは、ウォール・マリアの上。最も外界に近い場所。
本当に無理を言って_十分だけなら、という条件付で_立体機動装置を借り、シズカの身体を抱き上げ、ここへ連れてきた。
「寒くねぇか」
「大丈夫。ごめんね、わがまま言って。立体機動はこんな風に使われるためのものじゃないのにね」
彼女は、なぜ星を見たいと言ったのか。
リヴァイは深く考えていた。
深く広がる藍色の空に銀色の粒が広がり、吸い込まれそうな景色が映るシズカの瞳。
「何を、考えてる?」
「何も……「シズカ」
たしなめるようにリヴァイが名前を呼ぶと、シズカは俯いて、小さな声で言った。
「……いかないで」
強く、抱き寄せていた。
彼女の涙も、傷も、弱さも、受け止めたかった。
「もっと甘えろ、俺に」
「……星が見てるよ」
「構わねぇさ」
( 001 星の名を集めて )