※攻め男主





 真夜中に、かかってくる電話。
 明日は休みだからと本を読みふけっていた俺は、少し尖った気持ちでそれをとった。こんな時間に電話など。いくらあの人でも、怒鳴りつけてやろうと、俺は大きく息を吸う。
 が。
『若。起きてた? それとも起こしちゃった? ごめんね?』
 電話越しのあの人の声は、優しくて、ずるくて、息が詰まる。
『若?』
「……っ、起きて、ました」
『そう? じゃあ、良かった』
 ゆっくり心を落ち着かせて、いつもの自分を思い出すように深呼吸した。あの人といると、いつもペースが崩される。悔しい。けれど、今日こそは。
「なんの用です。こんな時間に」
『冷たいなぁ。やっぱり怒ってる? それともいつもの若の愛情表現かな?』
「あいじょ……っ」
『ね、窓開けてみて。月がね、すごく綺麗なんだ』
 やっぱりペースを崩され、しかたなくベッドから出て窓を開ける。少しだけ身を乗り出して空を覗き込むと、掴めそうな距離に満月が居た。大きい。
 幻想的な景色に見とれしばらく声が出なかった。
『若? 見た?』
「……綺麗ですね」
『でしょ?』
「はい、とても。有難う御座います」
『良かった、喜んでくれて。……ねぇ若』
「なんですか?」


『"月が、綺麗ですね"』


「っ……!」

 彼の作家が、アイラブユーをそう訳したのは、もちろん知っていた。だから、そのこえが、ジンジンと、耳をあつくさせて、
 
「……こ、のために、電話かけてきたのか」
『声震えてるよ若。今真っ赤でしょう』
「う、っ、さい!」

 電話を切った。
 熱が治まらなくて、息苦しくて、やっぱりあの人なんて嫌いだと、思った。

( フルムーンの魔法 )
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