昨日の感触がまだおれの手の中には残っていて、横でヘラヘラ笑うこいつを見るといらいらする。
こいつ。東間新。三歳からの付き合い。馬鹿みたいに自分が大好きなナルシスト野郎。
おれ。江城良和。あだ名はキノコ。
そんでもって、こいつが好き。らしい。
自他共に認めるようにこいつは確かに並みの男前具合ではなく。
色気垂れ流しの二重とか。女みたいな睫毛とか。ぷるぷるした唇とか。挙げていけばきりがない。ただ残念なことに、世界で一番自分が大好きな、並みの具合ではないナルシストでもある。
ただ、そういうところが好きらしい。
自分が大好きなこいつが。
自分でもどうしてこうなったか分からない。でも確かに昨日こいつで抜いた感触が、まとわりついて離れない。
「キノコ!」
「ん?」
「ちょっと手貸せ」
「ちょ、おま、」
「手相だよ手相。昨日本買ったから。見てやるよ」
昨日頭の中で脱がせてたこいつの手が、シコってた左手に触れる。やべぇ、たちそ。
手相なんて、また突飛な行動しやがって。
分かってんのか。おい。トーマス。
おれはもうおまえを性的対象に見てんだぞ。
「おまえモテ線ねぇなー、ちなみにおれはくっきり」
「……」
「おい聞いてんのかキノコ」
「……っ、ああ、モテ線」
東間はおれの手を握ったまま、きょとりと首をかしげる。
あー、やめろー。その角度。
「なんかあったのか?」
「……いいえ、なんも」
「変だぞー、キノコよぉ」
そりゃ変にもなるだろ。
にぎにぎすんな。
「おい!」
あー、ちくしょう、
「こっち見ろよ!!!!」
可愛い。
おれの負け。
惚れちまったもんはしかたないと割り切って、いつまでたっても気づかないこの馬鹿野郎に悶々悶々して、会社にまで引きずり込んで。
見合い話も断って。
『おまえ、おれのこと好きだろう?』
やっと言えるのは、もうちょっと後の話。
( 結んでひらいて )