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絆し


戦うことを自ら望む者なんていないと思う。
この世界に来て、自分も否応なしに剣を握るはめになってしまったけれど、そう感じることには変わりは無くて。
相手が見ず知らずの相手でも、争うことは避けたい。
でも、そんな甘っちょろい考えじゃこの世界を混沌から救うことはできない。
世界を救うなんてちょっとかっこいい響きだよな、なんて思ったりするけど、それがどんなに大変なことなのかは理解しているつもりだ。
だから剣を握る。
仲間とともに、混沌の先に待ち受けているものを目指して。
例え行く手に身内が立ちはだかろうとも。



「だからさ、11。泣くなよ」
「うっさい、ティーダ。泣いてなんかない」

あっち行って、と11が顔も上げずに言う。
11は自分の姉。
姉と言っても同い年で、つまり双子だ。
二卵性だから双子だって気付いてもらえることなんてないけれど、同じ日に生を受けて、ずっと一緒に育ってきたかけがえの無い自分の片割れ。
自分以上の活発さは、生まれもってのものなのかはたまたアイツに似たものなのか。
今まで考えもしなかったけど、こうして考えてみると両方な気もしないでもない。
なんたって11はアイツに懐いていたから。

自身満々で余裕そうに大きなこと仕出かして、失敗してもそんなことに挫けもしないで笑って乗り越える。
やることなすこと全てにおいて豪快だし、そんなところが時々アイツを彷彿とさせる。
だから11が泣いている所なんて見たことがなかった。
自分が泣くことは多々あったけれど。

アイツが急に姿をくらました時、自分たちはおろか、母さんにすら理由も何も一言も告げずに居なくなったことが腹立たしくて、悔しくて、涙が出た。
”ティーダってば、泣き虫だね” なんて11は寂しそうに笑ってたけど、泣きはしなかった。
母さんが亡くなってしまった時だって ”これからは私がお母さん、かな。なんてね” とか言ってこっちを泣き止ませようとおどけてみせたりして。
あの時は止まらない涙に、きっと11の分まで自分は泣いているんだなんて思ってたりしたけど。

そんな11が今泣いている。
自分の目の前で、膝を抱えて。
俯いているからどんな顔をしているのかはわからないけど、時々鼻を啜る様に擦れた声音がそれを知らせてくれた。

「…ない…」
「え?」

11から発せられた弱々しい声が聞き取れなくて、隣にしゃがみ込む。

「ティーダに ”泣くな” なんて言われる筋合いはない」
「泣いてるの、認めるんだ」

泣いているのを認めながらも強気な発言は相変わらずで思わず苦笑すると、それが気に入らなかったのか11が顔を上げてこっちに目を向けてきた。
泣き腫らした目が真っ赤で、なんだか見てはいけないモノを見てしまったような錯覚に陥る。
どのくらい泣いてたんだろうか。
フリオニールがアイツを見かけたとか言って、それから11が姿を消したとか言って。
そっち先に言えよな、とか思いながら11を探し回ってやっと見つけた場所は夢の終わりと名づけられている、どこか懐かしさを感じさせる競技場。
戦いたくないって、アイツに会うことさえ避けていた11が、まさかココに来ているなんて思いもしなかったから見つけるのが遅くなってしまった。


「ティーダはさ、英才教育っての?ブリッツのエースの息子だからって父さんに超しごかれてたじゃん」

不意に話し掛けられて思い出す。
アイツにしつこく扱かれた日々を。
毎日毎日遅くまでブリッツの練習させられて、こっちが泣き出すまで構われて。

「11はその代わりにアイツにすっげー可愛がられてたよな」

本当に、アイツの11に対する可愛がりようは目に余るほどの溺愛っぷりで、幼い自分ですらもその様子に引く勢いだった。
それでも、ほんの少しでいいからその愛情を自分にも分けてくれたらなんて羨ましかった記憶がある。

「あぁ、あれね、ワザとなんだよね」
「え…何が?」
「ん?だから、父さんに可愛がられるようにあえてああやってたってこと」

可愛らしく着飾って、明るく振舞って、一生懸命父さん応援して。
誰にでも好かれるようないい子を演じて、なんでも一番になろうと頑張って。
そうすると父さんは ”たいしたもんだ” って、頭を撫でてくれて、そうしている時はティーダじゃなくて自分だけを見ていてくれるから。
だから抱っこをねだったり、一緒の布団で眠りたがったり、少しでもアイツと一緒に過ごしたいからと、子供ならやって当然なことも11はワザとやっていたという。

「だってそうでもしないと父さん、ティーダばっかり構って。私なんか放って置かれちゃうからねぇ」

その意図を汲んでの、あの溺愛っぷりだったんじゃないのかと11が苦笑を零した。
自分はアイツに泣かされてばかりで、11はアイツに見て欲しくて気を使って。
可愛がられていることが羨ましかった自分に、一緒に過ごす時間が欲しかった11。
結果アイツに対して自分は捻くれた感情を持ち合わせることになってしまっているし、11はちょっとファザコンの気質に育った。
どこまで人を振り回せば気が済むんだアイツ。
でもお互いにお互いを羨んで、その実求めていたのは同じモノだったなんて、あぁやっぱり似ていなくても双子なんだって今更ながらヘンなところで実感したりして。

「エースの待望の二世だし、周りが囃し立てるのも無理はないってのもあるけどね」

でも、元々の素質があったからこそアイツは時間を作ってでも自分を鍛えたかったんだろうと11が言う。

「んなこと…ないっしょ。アイツのことだから、人が泣いてんの面白がって…」
「私のために、時間割いてくれたことないんだよね」
「それは…」
「でも、そんなこと関係ないくらい大好きでね」
「11」
「そんな大好きな父さんに、刃を向けるなんて私には到底無理な話」

だからどうしようかなって考えてるうちになんか泣けてきた、と11が視線を逸らした。

11のその気持ちは痛いほどによくわかる。
ただその、肉親に対する愛情ってやつの方向性は11とは大分違うものだけど、自分だってできることならアイツと戦いたくないのは同じだ。
嫌いだけど、憎んでいるわけじゃないんだから。
でも戦わなきゃ、乗り越えなきゃ、それにアイツだってあそこから解放されたいだろうし。

「解放…?」
「うーん。うまく言えないんだけどさ」

あんなヤツでも悪いヤツじゃないし、本当はあんなトコに居たくはないんじゃないのだろうか。
それに一応親だし、きっと何か考えがあってこうして自分たちと敵対する位置にいるのかもしれないし。
馬鹿で自分勝手だけど、自分の子供をどうにかしようなんてことはさすがのアイツだってないと思うし…となんだか自分でも何言ってるかわからなくなってきたところで11が笑い出した。
いきなり笑い出すなんて失礼じゃないだろうか。人が一生懸命話しているというのに。

「あー、いやゴメンゴメン。だって、ティーダったら超マジメに話し始めるんだもん」

普段、あんなに父さんのこと文句言ってるのにねと、今度は笑って滲んだ涙が浮かんでいる。
笑われてしまったのはいまいち腑に落ちないけれど。

「そうやってさ、11は笑ってる方が、11らしいよな」
「生意気言うねぇ、弟のくせに」
「んだよ。たった数分先に生まれただけのくせに」

ふたり顔を見合わせて笑いあう。
でも、笑ってみたところでアイツと剣を向け合う日がくることには変わりはなく。
それでも11が泣いている姿を見るよりはずっといいなんて、自分勝手なことを思ったりして。
自信満々で、偉そうにしているくらいが11には丁度いい。
11が泣くくらいなら自分が泣くから。
そんなことを思ってふと気付いた。
自分が泣いていたのは11の分まで泣いていたわけじゃないんだと。

自分が11の泣いている所なんか見たくないから、だから11に泣く間を与えずに泣いてたんじゃないだろうか。
考えてみれば幼稚で我侭で酷い話だけど。
成長してしまった今は昔みたいに大声で泣き喚くことなんて出来なくなってしまったけど、じゃあ、11が戦いたくないって言うのなら…

「11は戦わなくていい。俺が11の分まで纏めて、アイツぶん殴ってくるから」

11にアイツと戦う間を与えなければいい。
そうすれば、こうやって11の泣く姿を見なくて済むとか思ったんだけど、11はそれをあっさりと断ってきた。

「泣くのは全部あんたにまかせてきたけどさ、こればかりは自分で立ち向かわなきゃね」

それに、と11が立ち上がる。
釣られてそのまま11を見上げると満面の笑みを覗かせてきた。

「ティーダが父さんのことよく考えてるのわかったし、私ばかりが中途半端にいるわけにも行かないじゃん」

覚悟決めるよ、と遠くを見つめる11の顔が言葉とは裏腹に儚くて、つい目を逸らした。
初めて自分に覗かせた11の弱々しさが痛いくらいに身に突き刺さる。
だからそんな辛そうな顔するな、なんて言えるはずがない。

「…もっと、頼ってくれたっていいのに」

そうポツリと漏れた言葉が11にはしっかり聞き取れたみたいで、頭を勢い良く撫でまわしてきた。

「弱い私をティーダに見せるのは、さっきので最初で最後、だね」
「最後って、なんだよ」
「ティーダに慰められたとあっちゃ、姉として終わったかな、なんてね」

そう豪快に笑い出した11に抗議しようとまた目を向けると、視線が重なった。
笑みが消えた真剣な眼差しに、思わず喉が鳴る。

「ティーダ見習って、自分の気持ちを父さんにしっかりぶつけてみるよ」
「…そっか」

辛くても、それを越えて行かなきゃ先に進めない時もある。
今まではふたりでそんな困難を乗り越えてきたけれど、これからはひとりひとりで乗り越えていかなければ。
そんな意思が11から垣間見えた気がして、少しだけ寂しくなる。
泣き虫な自分がここまでやってこれたのも、明朗な姉に背中を押してもらっていたからだと知っているから。

「んで、その後はダーリンに慰めてもらうから、やっぱティーダのお守り、降ろさせてもらうわ」
「はあ!?」

続いた11の話に勢い良く立ち上がる。

「ちょっ、なんだよそれっ…、えっ、てか誰だよ相手!」

そう慌てる自分に対してニヤニヤとしたり顔の11がそれは秘密だなんて言っている。

くそぅ、やっぱこの辺りアイツによく似てる。
人をおちょくっているのか本気なのかわけわからないのなんてそっくりそのままじゃないか。
こんな女の相手なんか、自分以外に誰が好き好んでしてやってるのかは今はまだ知らないけれど、いつまでも11を ”姉” として縛り付けて置くわけにもいかないこともわかっている。

自分に見せた最初で最後の泣顔。
11の宣言のとおりもう自分に見せてくることはないだろうけれど、この先も決して誰にもそんな顔を見せることがないよう願わずにいられないのは、同じ日に生まれたかけがえのない存在だからだろうか。

-end-

2010/6/19 ウェレアさまリク




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