DFFガラケー | ナノ




Pflege

混沌とはどういったものなのだろうか。
天地の境はなくなり、全てのものが混じり合う。
混じり合ったものは無へと還り……いずれ世界という存在が消滅してしまうと聞く。
消滅したならば、思考する意識というものも存在しなくなるだろう。
ならば、まだ自分は消滅はしていないということだ。
ではこの暗闇は一体なんなのだろうか。
視界の拾う辺り一帯は闇に塗れて、一筋の光も通さない。
これが、無へと還る……ということだろうか。
自分達は、調和の戦士達は、カオスに負けたと言うのか?
そんなはずはない。
まだ自分には力は残っている。
耳に聞こえる微風の音も、確かなものであるはずだ。
頬にあたる柔らかな感触も……。

「……11?」
「気がつかれましたか、ウォーリア」

凛とした声音に安堵を感じる。
それと同時に止んだ音。

「君の、声だったのだな」

微風と思っていた音は、聞いたことのあるものだったことを思い出す。
確か11の故郷の歌だったと言っていた。
拙い記憶の中では歌詞までは思い出せないと、それでも時折、懐かしむように口ずさんでいたメロディーだ。
そして柔らかなこの感触は…11の膝の上なのだろう。
暗闇に囚われていた意識が浮上してくる。
途端に、頭部に痛みが走った。
苦痛に歪んだ面立ちをしてしまったのか、11が動き出そうとしている自分を制してくる。

「無理はしないでください。まだ、休まれていても大丈夫ですから」

そう紡いできた11の言葉に、これまでのことを思い出した。
今日はふたりで散策に出ていたのだ。
新しい歪みを見つけたこと。
未だかつてないほどの強靭な紛いモノを相手に剣を振るったこと。
それでもふたりで何とか始末をつけたはずなのだが。

「最後の最後に…不意打ちを狙ったのでしょうね」

倒した一軍の中から一体が突然起き上がり奇襲をかけてきたのだという。
頭部の痛みは、それが原因のようだ。
援護に向かおうとしたが、今一歩足らずに……と悔しそうな声を漏らす11へと手を伸ばす。
が、伸ばした手は空を切った。

「ウォーリア?」

11が空を切った手を受け止め、心配そうな声をかけてきた。

「あぁ、いや…すまない」

耳に馴染んだ心地よい声音と、頭部にあたる柔らかな感触に未だ夢心地で居る場合ではないというのに。
愛しい者の姿を目に映そうと、眼を開いたのだが。

「……目が、見えないようだ」
「目が……?」

視界に広がるのは闇ばかり。
意識が沈んでいた時となにひとつ変わらない状況に、思わず息を吐く。
まだここは、戦域だろう。
いくら力のある者といえども11ひとりで意識のない自分を運ぶことなど出来ることではない。
ましてや、体格に加え鎧を纏っている状態では尚更ではないだろうか。
さて、どうしたものだろう。
敵の気配は察知できる。
それは問題ない。
問題があるとすれば、戦うことが可能であるかだ。
気配が辿れたところで、目に見えぬ相手に攻撃をあてるということはかなりの技量を要する。
果たして自分にそのようなことは出来るのだろうか。
いや、やらねばならない。
ただでさえ、ここいら一帯の敵は自分達よりレベルが上なのだ。
目に見えないからどの程度のものかまでは判らないが、自分はともかくも11もそれなりの怪我は負っているはず。
一刻も早くこの域を抜けて、手当をしなければならない。

「君の身体は無事か?」
「え、えぇ。私の方は……」
「ならば11、手を貸してくれないだろうか」

未だ少し痛む頭を振るい、身を起こす。

「無理なさらないでください。目が見えないのでしょう?」
「あぁ。だが、いつまでもここに居るわけにもいかない」

現実問題、一体・二体程度なら自分が囮になるなりして撃退は可能だろうが…それ以上になると厳しいだろう。
そう11へ告げると納得してくれたのか、肩を貸してくれた。



「見えないとは、不便なものなのだな」

11に手を借りながらの道すがら、ふとそんなことを漏らす。
目に映るのは闇のみ。
常ならば光を眩いと思うこともあるというのに、今では何かが陰ろうともそれに気が付くこともままならないのだ。
辿る足元も不確かなもので、11に肩を借りていなければ向かう方向さえも危ういだろう。

「おそらく、打撃による一過性の症状だとは思いますけれども」

そうであれば、宿営地にさえ戻れば状態異常に効き目のある回復薬があると11が言う。
ただし、いたずらに乱用されてなければの話だが、と続けて11は呆れたように息を吐いた。
11の言わんとしていることを察する。
日頃11が目にかけている、年少組+バッツのことだろう。
年少組といっても、オニオンナイトは大人びているところがあるからあまりそういった懸念はないが…。
残るティーダとジタン。
それと彼らに名を連ねるバッツには、ほとほと手を焼いているのは自分も知るところだ。
自ら状態異常に陥って特訓だ!…と騒いでいたのは記憶に新しい…というよりも、ほんの先日の出来事だ。
案の定11やセシルにお灸を据えられると言った結果になったのだが、果たしてそれで効果の程があったのかと問われれば頭を傾げさせるほかはない。
なんといっても、懲りずに繰り返すのが彼らだからだ。
11の、あの困惑した面立ちが目に浮かぶ。
全く、彼女はどんな表情を以てしても様になる……と思うのは、誰にも漏らさないまでも惚気になるのだろうか。
そんなことをひとり思っていると、ふとした瞬間に体がぐらいついてしまった。
バランスを崩した自分に、慌てて11が体勢を抑える。

「…ウォーリア」

肩で体を支えてくれているのだろう。
すぐ真下より、11の声が聞こえた。

「足を痛めてますよね?」

有無を言わさぬ物言いで、11がそう尋ねてきた。
歩き出した当初、痛みはさして気にならないものだった。
あの程度のものは、頻繁と言うほどではないものの今までも経験してきたものであったし、今回も同じだろうと思ったのだ。
しかし慣れぬ暗闇に、無意識のうちに足を庇っていたのか。
無理な負荷を抱えさせられた足は、ここに来て耐え切れずに箍を外してしまったらしい。

「急ぐ気持ちはわかりますが、無理は禁物でしょう」

そう紡いだ11に、その場へと座り込ませられる。

「簡単にですが、処置をしておきます」

お互いに回復薬を持ち歩いていなかったのは、日頃の驕りか。
慣れた散策に敵を蹴散らす日々は容易なもので、自分達より遥かに強大な力を持つ紛いモノなどいないのだと…そう思ってしまっていたのならまだまだ未熟なのだと思う。
ブーツを脱がされ、11が処置を始めた。
時折目の前を掠める影に、ようやく、僅かにだが、視力が回復してきていることを知る。
痛めているのは足首だ。
触れられた11の指が冷たくて心地よく、その冷たさのおかげで熱さが緩和されていく体感に、酷く腫れていたことが窺い知れた。

「折れてはいないか?」
「捻挫でしょうね。折れていたら、ここまで歩いて来られなかったでしょうし」

気休め程度ですが、と11が打身に効くという塗薬を塗り始めた。
痛みに気を使ってのものなのか、優しく撫でられる患部が非常にもどかしくて仕方がない。
しかし、この疼きをどうにか止めようにも懸命に手当をしてくれている11に悪く思えて如何ともしようがない。
幾時かの間を堪え、塗薬を塗った布を宛がわれ、包帯を巻かれて処置が完了した時には痛みとは違う焦燥感が身を覆ていた。

「もし、すぐにでも手に入らなかったらですよ」

処置の後を片付けながら、11がそう漏らしてきた。
どうやら、回復薬が乱用されていることを前提と考えているようだ。

「貴方の身の回りは私が看ますし…戦いたいというのなら」

私が貴方の目になりますから、と11が言う。

「戦うことを辞めろ、とは言わないのだな」
「言って聞いてもらえるのなら幾らでも言いますけども」

それで聞いてくれる貴方ではないしょう、と苦笑を漏らした。

「確かに、そうかもしれないが」
「でしょう?」

ふと、顔に影がかかる。
そうして、双方の瞼に順番に宛がわれた柔らかいものは……。

「流石に手になることは技量的に難しいので…願わくば、早く回復しますように」

おまじないです、と照れくさそうに微笑む彼女は何て美しいのだろうか。

「見えるということは、素晴らしいものだな」

11の腕を引き、胸へと抱え込む。

「それに、見えなくては君を守ることもままならない」
「ウ、ウォーリアっ、いつから……っ」
「徐々にだが…包帯を巻き終える頃には戻っていたか」
「……そういうことは、早めにおっしゃってください」

普段、自ら積極的なことはしない彼女だからだろう、余程恥ずかしかったとみえる。
羞恥に恥じらう潤んだ目元が、いつもの11らしからぬ雰囲気を醸し出していて堪らない。
回復したのなら、早く行きましょうと11が急かす。
しかし、回復したからこそ今は11の姿をしっかりと目に焼き付けておきたいのだ。

「もう見えているから、敵に囲まれても問題ない」
「それでも…怪我しているでしょう」
「それは、いつものことだ」
「貴方って方は……」

観念したのか、身を委ねてくる11に笑みを零す。
二度とこんなことに陥らないよう、失くしてしまうことのないよう、目に焼き付けて、抱きしめたこの感触を体に刻んで。
それが油断を招いてしまった自分への戒めとなるのだから。

2014/02/17 ユリス様リク




[*prev] [next#]
[表紙へ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -