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踏査


先日浮かび上がった、ウォーリアと11は付き合っているのかという素朴な疑惑。
結局あの日は通りすがったセシルのおかげでテントを覗き見ることは適わなかったのだが、それごときで詮索を諦める3人ではなかった。
気になることははっきりとさせるべきである。
しかし楽しむことも忘れずに。
そんな妙な信条を掲げ、まずは聞き込みからだというバッツの提案の元に、ジタン、ティーダの3人は手分けをして仲間たちへの聞き込みを行っていた。


■ジタンによる聞き込み 対象者.ティナ

調和陣における唯一の同性であるティナならば、ウォーリアと11の関係を知っているのではというジタンの鋭い洞察からだったのだが。

「そうだったら、なんだか素敵ね」

お似合いじゃない、とのそんなほんわかしたティナの笑みに思わずジタンは和んでしまった。
だが和んでいる場合ではない。
ジタンにとっては情報収集といえどもお宝探し同然である。
お宝探しならば、なにがあってもバッツに負けるなんてことはあってはならない。
盗賊のプライドに賭けてもだ。


「なんだよ、プライドって」
「いやさ、本職の俺がバッツのものまねに負けたらお終いだなって思ってさぁ」


だからほんの些細なことでもいい。
何かあのふたりに関する情報はないかと更に尋ねてみるも、結局ティナから得られた情報はティーダが言っていたのと同じく稽古のことについてだけだった、とジタンは肩を落とした。
ジタンの思惑も虚しく、情報の収穫はゼロということだ。
項垂れたジタンに次いで、ティーダが自分の報告の番かと口を開いた。


■ティーダによる聞き込み 対象者.フリオニール&クラウド

「ウォーリアと11って、付き合ってるんスかね」

とのティーダの率直な疑問に目を瞬かせたのはフリオニールだ。
それから、えっ、そうなのか?と逆にティーダに聞き返してきたのだから、そもそもそんな疑惑すら抱いていないのだろう。
気に留めていなければフリオニールの反応が一般的なものなのだろうが。
隣に立つクラウドはそんなふたりの遣り取りにさも興味はないといった様子だったが、とりあえず話を振ってみた。
ジタンのように勝ち負けなど考えてはいないけれど、気になっているのは事実なのだし少しでも情報があればと思ってのことなのだが、案の定興味がないからどうでもいいと言う応えが返ってきた。

「それを知って、どうするんだ?」

というクラウドの疑問付きで。
どうもこうも、気になるから知りたいだけであって、他の理由なんてものはない。
それではダメかと言うティーダにクラウドは、ならば本人たちに直接聞けばいいのでは、と至極当たり前のことを告げてきた。
しかし、それでは面白くもなんともない。
それにどうせ聞くならば情報によって得た確たる自信を持って挑みたい…と言っていたジタンの言葉にほだされた、なんて言わないほうがいいだろうことはティーダにもわかっている。
さて、どうやって誤魔化そうかとしどろもどろになっていると、フリオニールがそういえばと思い出したことを教えてきてくれた。


「なんか、見張り当番の時だったらしいんだけど」

ウォーリアが夜の宿営地の見回りに向っただけでも珍しいというのに、戻ってきた時にはなぜだか11も一緒だったのだという。
フリオニール的には驚きもしたが、そんなこともあるのかと特に何事とも捉えずに就寝に向う11と挨拶を交して終わっただけだとか。


そんなティーダの報告に、ほぅ、とバッツの目が光る。
そしてバッツに応えるかのようにジタンがニヤリと口を弛めた。

「これは…」
「いやいやいや、まだわからないぜ。ここは慎重にだな」

ジタンは弛んだ顔を引き締め直す。
単に散歩をしていた11と会っただけなのかもしれない。
しかし一方、普段規律正しい11が皆が寝静まった夜更けにひとりでフラフラと散策に行くなんて迂闊なことをするだろうか、という思いもある。
どちらにしてもこれだけでは決定的な証拠とは言い難いだろうし、早計な判断は控えたい。
そう紡ぐジタンは、バッツからの報告を促した。


■バッツによる聞き込み 対象者.オニオン&セシル

「子供に何聞いてんだよ。大人気ないなぁ」
「聞いたってか…だってそこにいたんだからしょうがないだろ」


自分たちがテントを覗き見ることが適わなかったあの日、事も無げにテントへと入っていったセシルにバッツの思考は動いた。
セシルなら絶対に何かを見ているはず。
そんな自信に満ち溢れたバッツが向った先は調理場だ。
食事当番であったセシルがそこに居たのは当然のことで、早速と話をし出した矢先に姿を現したのは同じく食事当番のオニオンナイト。
小さくて、物影に居たのに気がつかなかったのだという。
それでもそのまま話を進めるあたりどうだろうと思いながらも、すでにもう済んでしまったのだから今更かとふたりはバッツの話の続きへと耳を傾けた。

「テント?」

そう首を傾げたセシルにバッツは頷く。
それからあの日、道具置場としているテント内にはウォーリアと11が居たのだが、一体中で何をしていたのかという単刀直入な質問を投げかけた。

「何って、怪我の治療をしていたけど」

それがどうかした?と不思議そうに見やってくるセシルにバッツは、あぁ、だから抱え方が横抱きだったのかと、なんともあっさりと納得を果たした。
だが、納得したのは抱え方についてだけであって、ふたりの関係が気になっていることについては変化はない。
日頃から己にも他人にも厳しいウォーリアと11のいつもらしからぬあの光景は、絶対になにかがあるとバッツの感が言っているからだ。

「バッツ、何かよからぬ事でも考えてるでしょ」

バッツの様子に、何かを勘ぐっている感じがする、とオニオンからの鋭い指摘が入った。
これだから賢い子供は苦手だと思いながらもバッツが笑って誤魔化していると、セシルからも

「コソコソするのは良くないと思うけど」

との忠告とも取れる言葉を送られてしまった。


「で、なんかセシルの笑顔がコワかったから帰ってきた」

そうあっけらかんと言い放ったバッツにジタンとティーダは項垂れた。
バッツの情報収集能力もさることながらだが、これだけの人数、ましてや仲間内だというのにこれといった収穫がないとは一体どういうことなのだろうと。
ここまでくると唯一の情報たる情報だったフリオニールの目撃談さえも危い。
本当にただの散歩中の出会いだった説が濃厚となってきてしまった。
もはや本人たちに聞くしかないのだろうか。
そうジタンが楽しみを放棄しようとしたその時、バッツが勢いよく立ち上がった。
急な行動にふたりはバッツを見上げた。

「収集が無理なら、あとは自分で目撃するしかないだろ」

そんな前向きかつ頼もしい言葉を後に、バッツはふたりの元から颯爽と去っていった。



この時間帯ならきっと稽古にでも行っているだろう。
そう考えてバッツが歩みを進めていると前方にスコールの姿が窺えた。
小走りにスコールの元へと寄って行くと、バッツに気がついたスコールが眉を顰める。

「なんだよ。まだなんもしてないだろ」

何かする気満々だったのか?と内心思いながら条件反射だから気にするなとスコールが言う。
それはそれでどうかと思いながらもバッツは先の話をスコールに語って聞かせた。
皆にいろいろ聞いてはみたが、確たる判断材料は見つからなかったと。
そしてこれから目撃を期待してふたりの元へと向うのだとも。

「……お前ら、まだそんなこと言ってたのか」
「気になるじゃんか。だって、あのウォーリアと11だぜ?」

お堅いあのふたりが万が一にも万が一だったりしたら、なんだか嬉しくないか、とバッツは言う。

「嬉しい…、だと?」

不可解な顔をスコールが向けてきた。

「そ。あいつら妙に人間離れしてるとこあるだろ」

戦うためだけに生まれてきたような、迷いのない剣の捌き。
言葉も態度も厳しいけれど、ひたむきに光に向って進む様に揺るぎはない。
そんな禁欲的な姿勢は些か人かどうかも危ぶませる。

「だから、そういう人間らしい気持ち、あったら嬉しいなんて思ってみたり」
「まともな、考えを持っていたんだな」

日頃の厳しさの仕返しの材料にでもするのかと思っていた、と珍しくも感心を覗かせているスコールに、ヒドイなぁ、とバッツは苦笑を返す。

「俺はスコールみたいに根に持つなんてことないタイプだからな。ビシバシされてもどうってことないんだぜ!」

と、明後日の方向に誇らしげなバッツを見てスコールは思い返した。
確かにあのふたりは厳しい。
ウォーリアの真っ直ぐ過ぎる眩しさは言わずもがな、11をもスコールは苦手としていた。
力量に不備はない。
しかし力を過信するあまりに少々協調性に欠けてしまっているのではないか、と戦闘に対する心得のようなものを出会ってまだ間もない頃、11に延々と説かれたことがあったからだ。
あの凛とした声音で紡がれる叱責は未だ時々心臓を跳ねさせるが、仲間を思ってのものだと知っている今はそんなお節介な助言も慣れたもの。
それにバッツの言うように、11がそんな人らしい感情を持ち合わせているのなら、なんだか安堵するような気もする。
しかしだからといって、わざわざ詮索してまで確認しようとは思わないが。

「まぁ……せいぜい気付かれないよう探る事だ」

詮索していることが知られたらきっときつい仕置きが待っている、とスコールは宿営場へと去って行った。

(お仕置き……)

スコールの残していった言葉を腕を組み歩きながら考える。
仕置きと言ったって、日々の鍛錬に毛が生えた程度のものだろう。
それくらいならお茶の子さいさいだ。逃げ切る自信はある。
というかそもそもスコールは果たしてあのふたりをどんな目で見ているのか、そっちの方が失礼じゃないだろうか。
いくら苦手意識持ってるからって、まるで鬼みたいに捉えなくても…と、ふと思い起こす。

鬼といえば最近扱き方が手ぬるくないだろうか。
いや、自分たちがおかげさまでレベルが上がっているのもあるのだろうけれど、でもそれは向こうだって同じだろうし。
手を抜く…ってのはあのふたりに限ってありえない。
いやしかし……と立ち止まって思考を巡らせているバッツの耳に金属のぶつかり合う音が響いてきた。

(おっ、いたいた)

草陰に身を隠しながら音のする方へと忍び歩いていくと、手合わせ真っ只中であるウォーリアと11の姿が見えてきた。
一際大きな木陰に潜み、そっと観戦する。
相変わらず手合わせだというのに本番さながらの迫力を見せている。
攻守ともお互い一歩も譲らず、容赦はない。
これではまるで、恋人、というよりも好敵手との一戦のようだ。

(えぇー。俺の感、外れたってことか?)

さっき思い起こしたことも気のせいだったのだろうかと肩を落としながら、引続きバッツはふたりの戦いに目を向ける。

(つか、好きな相手にあんな猛攻ってのはフツーできないよなぁ)

しかし普通を凌駕しそうなウォーリアではある。

(11だって、さすがに好きなヤツには優しくされたいだろうし)

優しくされたらどんな態度を返すのかは……

(俺の好みではないけど、…まぁキレイだし、微笑みなんて向けられたら相手にしてみれば堪らないんだろうなぁ)

そういえば最近11、だいぶ穏やかになったんじゃないか?
前みたいに気を張ったような形式ばった笑みを浮かべることが少なくなった気もする。
そんな時は大抵隣にウォーリアが…ってあれ?
いやいやいや、まさかまさか。
そうだったら嬉しいってのは本音からだけど、ちょっと待てよ。落ち着こう自分。
この間の猛特訓の時、そろそろいいだろうと11を止めてくれたのはウォーリアだったよな。
でもあれは日も落ちてきた時間帯だったし、誰かが夕食できたと呼びに来たからであって。
あの時は疲れきって思考能力が衰えていたから、助かった! としか思わなかったけれど、今思えば十分におかしな話じゃないか?
今までなら休息も構わずに特訓に勤しんでいたのはウォーリアだ。
そのウォーリアが鍛錬のし過ぎは身体に良くないとか云々言って制して、ゆっくり休むといいなんて言葉までかけてくるなんて。
いつもなら、このくらいでくたばっているようではまだまだ甘い、などと説教が始まる所だってのに。

(え、マジかよ。いや、でも…)

思考に下がっていた視線を再びふたりへと戻す。
11の放った魔法を避け、迫ってきた剣を受け止めて競合っている。
この距離まで持ち込んでしまえばあとはウォーリアによる決定的な一撃で勝負は終わるだろう。
そう思っていたバッツだったのだが、競り合いからなかなか次への一手が動かない。
違和感がバッツを伝う。

(いや、そこはいつもみたいに盾でぶん殴って…あぁでもアレ、スッゲー痛いんだよな…)

違和感を感じながらも尚ふたりの行く末を見守っていたバッツだったが、程なくして違和感の正体に気がついた。
盾である。
少なくとも、バッツが観戦をはじめてからウォーリアは一度も盾による攻撃を仕掛けていない。
あまつさえ、不用意に長い鍔迫り合い。
所詮は男と女の力差だ。振り切るなり間合いを取るなり、この場面での主導権はウォーリアに分があるはずだが。

余裕そうに、真っ直ぐと11を見やっているウォーリア。
対して11は剣を受け止めているだけで精一杯のようだ。
それを知らせるように11は厳しい面立ちをしているのだが…。

(ウォーリア…もしかして、楽しんでる……?)

戦いとは、本能の垣間見える瞬間でもある。
そして僅かに弛んでいるウォーリアの口元に、バッツは確信した。
鍛錬のし過ぎだと促してきたのは、自分たちではなく11に向けられたものだ。
彼女が根を詰めて疲弊してしまうのを心配してのものだろう。
それから盾で攻撃をしないのは、打撲を避けるため。
たぶん、身体に痕が残るのを懸念しているのだと思う。
ではなんでそんなことを懸念する必要があるのかといえば……。

(……うん)

バッツは悟る。
ふたりが恋仲にあれば嬉しいし喜ばしいことだと思ってはいたが、興味本位に深入りするものではないと。

”お似合いでなによりだ”

ただ、それだけで終わっておけば良かったと。
なんだかとても神聖なものを汚してしまったかのような罪悪感を胸に抱え、あいつらに何て報告しようかとバッツはその場を後にした。


バッツによる結果報告

無闇やたらに人の恋路の詮索をするべきではない。

-end-

2011/4/1 ユリス様リク




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