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憚り


紛いモノとは厄介な相手だと思う。
意思を持たないがゆえに、己が傷つくことに躊躇いなど見せず飛び掛ってくるのだから。
そんな軍勢に周りを囲まれてしまっては、苦戦を強いられてしまうのも致し方ないことだと言えよう。
どんなに薙ぎ払っても次々と襲いくる紛いモノに、こちらも負けじと剣を握る。
気味の悪い断末魔とともに塵となって消えていく様を何度も繰り返し視界に捉え、ようやく辺りに敵の気配がなくなった頃だ。
共に赴いていた11の姿が見えないことに気が付いた。
辺りを一望する。
視界を占めるのは、所々に枯れた草が覗く、遮るものの無い平原だ。
敵の強襲を受けたのは、雑木林の中だったのだが…野太い木々に剣の流れを絶たれて思うように身動きもとれず、無意識にもこの平原へと向ってしまっていたらしい。
11はまだあの林の中だろうか。
まずははぐれてしまった11と合流してしまおうと雑木林に足を向けた。

林の入口より、奥に向うほどに木々は密集していく。
茂る葉が空を遮り視界を妨げ、辺りは鬱蒼と薄暗い。
しかしこういった場所は、彼女の魔法も大いに活用できるのではないだろうか。
それに加えてあの身のこなしならば木々を盾として有用に動きまわることができるのだし、11にとっては好条件な戦地かもしれない。
とはいえ、いつまでもこんなところに居る必要もないのだから早々にこの地から出て行きたいのだが……。
11はどこだろうか。
戦う内に平原へと出てしまっていたくらいなのだから、敵と出会ったのはそんなに奥深くではなかったはずだ。
それとも彼女も自分と同じく、敵を追い打つあまりに道を反れてしまったのだろうか。
いや、しかし、11の慎重な人となりを考えればそのような迂闊な事態などないと思うのだが。

「11!」

胸を襲う不穏な気分に声を上げてみるも、返事はない。
静まり返った一面には、己の足音と、木々の揺れる音だけが聞こえるのみ。
募る焦燥感に、何度も名前を呼び、早足に辺りを探る。
それから草木を掻き分け、道ともいえない道に踏み込んでいく。
身に纏わりつく枯れ枝を薙ぎ倒しながら進んでいくと、少しばかり拓けた場所に辿り着いた。
しかし、ここにも11の姿は見えない。
ここではないのかと引き返そうと踵を返した時、目の端に光を捉えた。
僅かな小さな光に近づいて行くと、草の茂みに埋もれるように、剣先が覗いた。
細身の剣は、紛れもなく11のものだ。
となると、この先に彼女がいる可能性は高い。
剣を拾い上げ、急いで先へと進んで行くと案の定11の姿があった。
木に寄りかかり、項垂れている。
その姿に思わず剣を握る拳に力が篭ってしまうが、こんな悠長に眺めている場合ではない。
駆け寄り、首筋に手を宛がう。
ゆっくりとだが、確かに脈は感じられた。
安堵の息を漏らすとともに、名前を呼びかける。
しかし返事はない。
だが、外傷は見受けないのだから気を失っているだけなのだろう。
頬を軽く叩きながら呼びかけると、11の瞼が微かに反応を示した。

「ぅ……」

11の口から小さな息が漏れ、瞼が上がってくる。

「11」
「……ウォーリア…?」

気が付いたばかりの思考では状況が把握できていないらしく、身を起こし、何度か目を瞬き意識を回復させようと試みているが、急な刺激は体に良くは無い。
あまり無理はするなと声をかけると、その言葉に頷き返した11は肩の力を抜いたように木に寄りかかった。

「…止めを刺したまでは良かったのですが……どうやら散り際にカウンターを貰ってしまったようです」

情けない姿を見せてしまいましたね、と11が苦笑を零した。

「連戦で、気も弛んでしまったのだろう。仕方の無い事だ」

とは言うものの、気を失うだけで済んだ事は幸いだった。
そして、最後の一体との出来事だったということもだ。
紛いモノたちに囲まれていた状況だったならば、こうして無事ではいられなかったのだから。
だが、戦場において油断は禁物なのだと日頃からよく心得ている11にとっては幸いな事といえども失態もいいところだろう。
苦笑の中にも悔しそうな面立ちが覗き見える。
真面目な彼女だからこその表情だとは思うが、それゆえに気休めともいえる言葉をかけてしまった自分は少しばかり甘いだろうか。
きっと彼女はこんな言葉は望んではいなかっただろう。
しかし愛しい者が無事だったのだという安堵は何にも換えられないもの。

「そして君が無事だというだけで、私は心休まるものなのだが」

それだけでは言葉足りないだろうか、と11の頬を撫でる。
自分らしからぬ言葉だと思われたのだろう、11が隠すことなく驚きの面立ちをこちらに向けてきた。

「おかしなことを言っただろうか」
「い、いいえ。…随分と、口が達者になられたと思って」

そう紡ぐ11の言葉には、己自身も頷けるものがある。
確かに、11と出会う前…いや、出会ってからもだが、自分にも他人にも厳しい態度だったことは事実だ。
でもそれは、ほんの些細なことでさえ危険に繋がるこの不確かな世界では、そうでなければ戦っていけないと思っていたからのこと。
だが、彼女を愛しい者として捉え始めてからはそんな考えに変化が生じた。
油断などもっての他だということは今も変わらない。
命にかかわることなのだから当然だ。
しかし、人である以上疲れれば油断も隙もでてくることもあるだろう。
その結果、負傷をすることだって仕方のないことだ。
だがそれも、命あってのもの。
危険な世界であろうが、命が奪われてさえいなければいくらでもやり直すことができる。
そしていくらでも護りようがあるという状況であるのなら、それ以上に幸いなことはない。

「私を、こうさせているのは君だろう。11」

だから正直な気持ちを述べたまでだと告げると、少しの沈黙の後11が視線を伏せ、光栄なことです、と恥ずかしそうに微笑んだ。
拾った剣を11に渡して、剣を収めさせる。
それから手を差し出し、彼女が立ち上がるのを支持していると、ふと11の動きが止まった。
顔が苦痛に歪んでいる。

「足が、痛むのか?」

そう尋ねると、11は困惑の面立ちに顔を立てに振ってきた。
今一度、木に寄りかからせて座るように促す。
腰を降ろした11の足からブーツを脱がし見てみると、足首の辺りが膨らんでいた。
捻っただけなら大したことはないのだが…

「折れているようだな」

ブーツを脱がし圧迫するものがなくなったお陰か、徐々に膨張が増していくのは間違いなく折れてしまった証だ。
早々に治そうにも、ポーションは所持していない。
それに加えて、11自身魔力を使い切ってしまっているのだから治癒魔法を使うこともできない。
すぐに完治できないとなれば、応急処置が必要だ。
木の枝で足首を固定して、適当な布切れで縛りつける。
宿営地まで戻れば治すことができるのだから、これだけで充分だろう。
処置中、11が眉間に皺を寄せて痛みを堪えていたが、根を上げないあたり彼女の頑固さが窺える。
それにそもそも折れているのだからただでさえとても苦痛だろうに、立ち上がるまで気にも留めていなかった気丈さが頼もしくあると同時に、危くもある。
さすがに折れているとまでは11自身思いも寄らなかったからなのだろうが。
しかしこのような時くらい、素直に頼ってきて欲しいものなのだが。

処置を終え、11の体を抱えて立ち上がる。
すると急な浮遊感に11が首に腕を回してきた。
それからすぐに慌てた様子で手を離す。

「ウォーリア、処置もしていただきましたし、自分で歩く事くらい」
「その足では、どれほどの時間がかかると思う」

宿営地まであと少しだとはいえ、痛みの走る足では一歩を踏み出すのにも一苦労だろう。
それに処置を施したのは、患部を固定することで少しは痛みも抑えられるだろうと考えてのことだ。
もともと負傷している11を歩かせるなんてことは微塵も考えてはいない。
そう紡ぐと11は、重いから、だの、邪魔になってしまうから、だの遠慮ともとれる言葉を口噤み始めた。
まったく、自立している女性は好ましく思うが、しかしこんな時くらいは面倒を見させてもらってもいいのではないだろうか。

「君は、もう少し私を頼ってくれてもいいと思うのだが」

そう11に告げ、来た道を辿って帰路に着く。
11を探している中で切り開いて来ていたお陰で、隔たる障害もなくすんなりと通常の道へと戻る事ができた。

「それに、紛いモノも一掃できた。今日のところはもう現れる事も無いだろう」

辺りに忌々しい気配がないことで、それは明らかだ。

「あ…それでは、せめて背中を貸してくれませんか?この体勢である必要は…」

と11が頬を染めた。
11の言うように背負うでも構わないのだが…そうしてしまったら、せっかくの女性らしい面立ちを覗かせている11の顔が堪能できなくなってしまう。

「マントが邪魔になるだろう。それに、君のマントも背負い難い」

そんな稚拙な言い分を盾に、そのまま岐路へと向う。




ほどなくして宿営地へと帰り着いた。
夕食の時間帯なのか、食事の準備のよい香りが漂っている。
今日の当番は誰だっただろうかと思い出しながら歩みを進めていると、11から声がかかってきた。

「ありがとうございました、ウォーリア。それで、あの、着きましたし、そろそろ降ろしていただけませんか?」

仲間もいるのですし、と11が辺りを窺う。
自分たちの関係を仲間たちにあえて知らせるということはしていない。
わざわざ教える必要もないと思ってのことだ。
だからといって特別隠しているという事でもない。
ならば見られたところで何も困る事などないのだが。
それに

「歩ける状態ではないだろう」

立ち止まり、額に汗を浮かべる11に自身の額を宛がう。
虚ろな目に紅潮した顔。
道中、時々寝入ってしまっていた様子から発熱しているのは窺えた。
こうして額を当ててみれば高熱だということもよくわかる。

「我慢のし過ぎだ、11」

もう安全なところに着いたのだし、遠慮なく眠るといい。
あとの処置はすべて自分が引き受ける。
そう紡いだ声が11の耳に届いたのかどうかは図りかねるが、腕に掛かる重みが増した事により眠りに入ったことがわかった。
道具置場にて場所を確保し、11を横たえる。
骨折さえ完治してしまえば、この高熱も直に退いていく事だろう。
すぐに見つけることのできたポーションを患部を中心に注いでいく。

気高い意思を持つ騎士だということは、よく知っている。
他の誰にも、決して己の弱さを見せない強い女性なのだと。
それゆえに彼女は決して自分を盾にはしようとはしない。
共に歩み、対等でありたいと願うのは11自身の好意の表れだということも理解しているし、そんな11を自分も愛しく想っている。
だが、ほんの些細なことでも構わない。
今のように、もっと自分に身を委ねてくれないだろうか。
限界まで我慢してしまう彼女の揺るぎない強さは時として無謀にすら映るのだから。
そんな願いを込めて、穏やかな寝顔へと変化した11の額に口付けた。


*


=おまけ的なもの=

「は?えぇえっ?なんだどうしたんだアレっ」

ジタンが目を瞬かせる。

「つかアレだよな。ウォーリアがやると様になるっていうか」

やべぇかっこいい、とはしゃいでいるのはバッツだ。これでも20歳である。

(どうした通り越して神々しくすらあるな。眩しさ二倍だ)

とはクールな面立ちを崩すことなく相変わらず何を考えているかわからないスコールの内心の声だ。
あのふたり付き合ってんのか…と妙に詮索意欲をかもし出し始めたジタンを窘める者はここには誰も居ない。
一行は目撃していた。
ウォーリアが11を抱えて道具置場としているテントに入って行くところを。
そんな3人の元にティーダがやってきた。

「メシ、できたっすよ〜。今日はオレ特製シチュー…て、どしたの?」

話し掛けるのがなんとなく憚れるジタンとスコールではなく、ティーダは陽気にニヤニヤしているバッツへと尋ねた。
バッツはティーダに話す。
ウォーリアが11をお姫さま抱っこして、あのテントに入っていったのだと。
そして俺ももう少し背があれば様になるんだろうけどなぁと、相手もいないというのにその辺りに悔しさを覗かせている。

「ん?あれ、ミンナ知らなかったんスか?」

とのあっけらかんとしたティーダの言葉に、一斉に3人の視線がティーダに向けられた。
ティーダはといえば、そんな3人に若干引きつつ話を続ける。

「てか、ちょっと前までは11が誰かと稽古するなんてなかったでしょ。それが最近よくふたりで鍛錬に出かけてるし」

だからそうなんじゃないのかと思っていたのだという。

「…それだけ?」

聞くジタンにティーダは頷き返した。

「なんだよ〜、そんなんじゃまだわからないだろ〜」

ガックリと脱力したジタンの言葉にバッツが頷く。
そして一言

「どうせなら本人に聞いてみるか?」

気になるしな!と足を進めるバッツの隣にティーダが駆け寄って行く。

「そっスよね。やっぱ、こう、スッキリはっきりしといた方が気持ちいいし」

そう紡ぐティーダに、だよな! とバッツが返し、意気投合をしたふたりがテントに近づいて行こうとするのをジタンが慌てて止めに入った。
それから、こういうことは直接聞いて終わるよりも証拠を集めてからの方が楽しいだろ、と主張する。

「例えば?」
「あー、そうだな。例えば、キスしてるとこ目撃してみたりとか?」
「抱擁しちゃったりしてるところとか?」

となにやら人の恋路をお宝探しかなにかのように扱い始めた3人に、スコールは溜息を吐いた。
馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
…だがまず、あのふたりが付き合っているのだと仮定してみよう。
恋人然とした様をむざむざ他人に覗き見られるような隙があのふたりにあると思っているのだろうか。
それに万が一奇跡的にもその様子を目撃することができてもだ、その後の事を考えると、とても詮索する気にはならない。
スコールはあらためて3人に目を向けた。
ジャンケンでテントを捲る者を決めているようだが…なぜだかスコールも混じるよう手招きされている。

「……」

巻き込まれるのは勘弁である。
それに自分からしてみればそこまでしてあのふたりの関係を知る必要もない。

(まぁ、一度痛い目見た方がコイツ等のためかもしれんしな……)

そんな思いを頭に、はしゃぐ3人をその場に残し、スコールはひとりテントへと戻って行った。

-end-

2011/3/9 ユリス様リク




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