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鍛錬


宿営地にて、夜の帳が落ちる頃。
焚火の前で暖を取っていると顔に影が掛かった。
影の主へと顔を上げる。

「手合せ、願えませんか。ウォーリア」

そう声を掛けてきたのは女剣士である11。
真っ直ぐな視線でこちらを見下ろしている。

「珍しいな。君から申し出てくるなんて」

日頃、年少組への指導を常としている彼女は、自らのために鍛錬の時間を作ることをあまりしない。
それではいけないだろうと、偶に自分やセシルあたりが声を掛けることはあるのだが、こうして彼女から声を掛けてくることなど滅多にないのだ。

「お嫌でしたら、無理にとは言いません」

そう告げる11の姿を見てみれば、装備万全だ。
有無を言わせぬ出で立ちで来ているのだし、他ならぬ彼女の頼みだ。断るわけにもいかない。
仕度をしなければならないと告げると、先に行っているとマントを翻して颯爽と向かっていってしまった。



早々に装備を整え、足を踏み入れた場所は秩序の聖域。

中心にある台座の前に11は立っていた。
遠くからでも判る凛とした佇まいは、どこか気品を感じさせる。
こちらに気がつくと、一際背筋を伸ばして一礼をしてきた。

「では、始めようか」

剣を鞘から抜き、構える。

それと同じくして、前方より向ってきた氷の塊を咄嗟に盾で弾き返す。
次に目に飛び込んできたのは一振りの剣。
振り下ろされる刃を今度は剣で受け止める。
受け止めた剣を反動に任せてなぎ払えば、すぐさま11は飛び退いた。
華麗に身を反転させて、着地と同時に魔法を放ってくる。

身軽なのはいいことだ。
敵を陽動するには有益な動きといえよう。
それに障害となるものが何も無いこの聖域では、次々と放たれてくる魔法を遮るものも無い。
剣士とはいえ、魔法を得意とする11には有利な戦場だ。

止むことの無い魔法による攻撃を盾で凌ぎながらそんなことを考察していると、再び剣が迫ってきた。
素早い動作で振りかぶってくる11の剣を受け止めようと身構えるも、次に襲ってきたのはまたしても魔法。
剣を持たないもう片方の手に浮かび上がった光を視界に留め、即座にそれを避ける。

「容赦のないことだな。11」
「貴方と遣り合うには、本気でいかなければ失礼でしょう」

挑戦的な言葉とは裏腹に、真っ直ぐな目を向けてくるその顔は真剣だ。
手合わせと言えども、手を抜いていては鍛錬にはならないのだから当然のことだが。
しかし、こちらも手を抜いているわけではない。
レベルが上がれば戦いにおける立ち回りも変わってくる。
それに加えて久しぶりの対峙なのだから、相手の戦術を見抜くのも戦いのうちだ。

剣を構え直し、11を見据える。

「魔法の腕前は、相変わらず見事なものだ」

だが、それに甘んじすぎてはいないか。
こちらの振るった剣を避けることも無く正面から受け止めてきたが、幾ら鍛えているとはいえ所詮は女の力でしかない。
歯を食いしばり、競合う剣を両手で支えることで精一杯のようだ。
そこに更に力を込めれば、支えを崩して身を後退させた。
間合いをとらせないよう、続けざまに攻撃を加えていく。

こうして接近戦に持ち込まれてしまっては、得意の魔法も使えまい。
剣のぶつかり合う金属音が鳴り響く。
しかし、素早く避けてみたり、剣を受け流してばかりで反撃には出てこない。
一閃、大きく薙ぎ払い一度間合いを取る。

すると間髪要れずに斬りつけてきた。
その攻撃を剣で受け止め、それと同時に脇腹に盾を叩きこむと、僅かに光っていた11の手の魔法が収束していく。
地面に膝をつき脇腹を押さえている11を見下ろす。

「詰が甘いぞ。11」

同じ手に二度も掛かることはそうそうない。
その攻撃を常とするなら、もう少し剣技も鍛えた方がいいと言えば、こちらを見上げてきた。

「具体的におっしゃってくださらないと、解かりかねます」

未だ痛みが治まらないのか、顔は苦痛に歪んだままだが、そうはっきりとした口調で問い掛けてくる。

「魔法に頼りすぎているのではないか」

思ったままに言葉を紡ぐ。
魔法による牽制も大いに有効だが、それにばかり頼っていては直に見破られるものだ。
素早い動きを活かしてこそ、11の魔法も有益に使えるのではないのだろうか。

「君の流れるような剣捌きは目を見張るものがあるのだから、わざわざ魔法による隙を作らなくてもといいと思うのだが」

そう告げると、顔を俯けポツリと声を漏らしてきた。

「剣技は…あまり得意ではないのです」

だから魔法に力を入れているのだという。

確かに、接近戦に持ち込んだ途端に攻撃をしてくることがなくなった。
だが、幾ら魔法が得意とはいえそれを主力としているティナとは違い、魔力にも限界がある。
得意ではないからと、鍛錬を怠っていてはいつか取り返しのつかないことになってしまうのではないのだろうか。
そんな考えが頭に過ぎり、形容しがたい焦燥感が胸を突いてきた。


「私でよければ、いつでも相手になろう」

そう、11に手を伸ばす。
差し出された手に少しばかり躊躇の様を見せたが、掴み立ち上がった。

「基本的な剣技なら教えることはできる。それをどう活かすかは11次第だが」

このまま魔法に頼った戦法よりは戦術が増える分、有利な戦況に持ち込める可能性も上がるだろうと告げれば僅かに微笑を覗かせてきた。

「やっぱり、貴方に手合わせをお願いして良かった」

11自身、己の戦法に不安を抱いていたのだという。
このままでは良くはないと、頭の隅ではわかっているが自分ひとりではどうすることも出来ないままにいた。

「ウォーリアなら判断力に優れているし、私の至らないところも冷静に指摘してくれると思って」

味方といえども、男女の力差など関係無く剣を交えてくれる自分に申し出てきたという。
そう言われて悪い気はしないが。

「買被りすぎではないか?」
「人を見る目は有ると、自負しておりますので」

そう柔らかな微笑を見せて、傍らに落ちていた剣を拾い上げ鞘に納める。
そんな仕草すら優雅なものだと思わず見惚れていると、不意に視線を合わせてきた。

「今日はありがとうございました。それでその…剣技の件ですが…」

人を頼らず事を済まそうとするのは彼女の人となりだ。
そんな11だから誰かから頼まれることは多々あっても、誰かに何かを頼むという行為は苦手なのだろう。
口篭る11の意図を汲み、了承を伝える。



「ところで、腹はまだ痛むのか」

そう11の腹部に手を当てる。
幾ら手加減抜きの実践とはいえ、脇腹を盾で殴りつけてしまったのはやりすぎだったかもしれない。

「ウォーリア、ここはまだ戦域です。公私はしっかり分けるべきだと言ったのは貴方だったでしょう」

こうなることは承知の上で挑んだのだから、心配無用だと顔を背けられてしまった。
普段の彼女らしからぬ、このような素振りに顔が緩んでしまう。
凛々しく剣を振るう姿も美しいものだが、この程度のことで恥らう姿もいいものだ。

「いや、すまない。そうだったな」

腹部から手を離し、代わりに11の頬に手を添える。
それに気がつき、瞬時に避けようと試みたようだが油断していた11の動きは遅く、容易く唇に触れることができた。

「隙を作るなと、忠告したばかりだろう。ここはまだ戦域だ」

それに助言の報酬として、悪いものでもないだろうと言えば、たちまち頬を染め上げる。

「…貴方には、到底勝てる気がしません」

呆れたように息を吐く11の顔をそっと包み込み、もう一度唇を近づけていく。
今度は逃げはしない。

手合せの報酬としてこのようなひと時が過ごせるのなら、この先の鍛錬も有意義に過ごすことが出来そうだ。

-end-

2010/2/11 カムラさまリク




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