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関心14


拠点としている神殿に戻った11は寝室のベットに体を横たえていた。
自室に戻ってきたのだという安心感に、身を包んでいた過度の緊張も解れつつある。
しかしそのせいなのか、先ほどまで気にならなかった体中に付けられた細かな傷が、痛んできた。
そして痛むのは傷だけではない。
抵抗する力など魔法により防がれていたというのに、体の節々が軋むように痛む。
入らない力ながらも、皇帝の行為に抗おうとした痕跡なのだろう。
それからズキズキと疼く頭の違和感。
精神的にも困憊している証だ。
早々にこの苦痛から逃れなければと、11はそのまま目を瞑った。

枕元にあるランプの淡い光が瞼を通して視界を照らし、目を閉じても真っ暗ではない状況に11は幾分か安堵を覚える。
あの部屋は、薄暗かったから。
そこで身を蹂躙され、傷つけられ、あわやこの世から生を抹消されるところだった。
皇帝に対抗できるだけの力があったなら、こんな目になんて合わなかったかもしれない。
僅かな幸せに浮き足立って、鍛錬を怠っていた報いがこの有様だ。
己の浅はかさに鬱憤としたものを抱えてしまうが、しかし今更後悔したところで結果としてもう事は終わってしまっている。

忘れよう。

そう11は眠りにつこうとする。
だが、眠ろうにも頭には先刻の出来事ばかりが浮かんでくる。
振り払おうとも払いきれず、身の毛もよだつあの感触が、今まさに起こっているかのような錯覚すら覚えるほどに。

終わった事。

過ぎた事。

ここはこんなにも優しい明りが灯っているじゃないか。

そう何度も自分に言い聞かせる。
身を覆う嫌な気配だってない。
だってこの神殿には11自身とセフィロスのふたりしかいないのだから。
硬く閉ざした目が熱くなってくる。

惨めな扱いを受けた自分を、セフィロスが受け入れてくれるはずがない。
しかし、セフィロスは11を連れてこの場所へと戻ってきた。
だからまだ、もしかしたら、受け入れてくれるのかもしれない。
そんな期待が胸を過るが、それと同じくして、またいつもの気紛れなのかもしれないという不安も過る。
そして最悪の事態は無関心でいられること。
慰められたいわけではない。
自業自得の末の事なのだから。
だが、慰めも、反対に否定の言葉も何もないのだとしたら、日々セフィロスに纏わりついていた11からしてみれば苦痛以外の何者でもないのだ。

いっそのこと、ここには戻らずにどこかへと去ってしまえば良かったのだろうか。
そうしてしまえばセフィロスにこれ以上の醜態を晒さなくてすむ。
でも、それでいいのか。
自分自身の気持ちは。
いや違う。
セフィロスの気持ちは。

……。

どうしたらいいのか、わからない。
ランプの灯りに安堵していたはずなのに、落ち着かない。

気持ち悪い。
あの行為も、自分が生きていることさえも。

頭にうずまく纏まりのない様々な思考に耐え兼ねて11が瞑っていた目を開くと同時に、寝室のドアの開く音がした。
その音に、つい11は視線を向ける。
姿を見せたのは当然ながらセフィロスだった。

「…休めと言っただろう」

目の合った11にそう告げながらセフィロスが11の横たわるベッドへと腰を降ろす。

「眠れないのか?」

無理もないことだと、セフィロスは11を見下ろした。
僅かに滲む涙に、泣くのを堪えている様子が見受けられる。

どうしてこの少女はこうした肝心な時ほど感情を押し殺してしまうのだろうかとセフィロスは不思議に思う。
日々あんなに纏わりついてくるというのに、決して我侭な事は言わない。
抱いてくれだのと下世話な要求をする割には惚れた弱みかなんなのか、セフィロスの言う事に従い自ら触れてくることなどはないのだ。
年若い少女なのだから、そんな幼稚さも当然かとも思うが。

「我慢するな」

子供は子供らしく泣きたいときに泣けばいいとセフィロスは11の頭を撫でやった。
優しく撫でるセフィロスの手に心地良さを感じながら11は目を閉じる。

子供。
確かに11自身まだ成人に達してはいないし、セフィロスからしてみれば子供かもしれない。

「子供、だから。…だから、抱いてくれないんですか」

11は頭を撫でるセフィロスの手を捉える。

「でも、もう大丈夫ですよ。私、こんなみっともないことになっちゃいましたし」

もうセフィロスさんに纏わりつく事は止めますから、と11はセフィロスの手を頭から離した。
それから痛む体を抑えながら身を起こし、セフィロスに向き直る。

「私、今更なんですけど気がついたんです。好きでもなんでもない相手からしつこく求められることほど気持ち悪い事ないって」

好きなことには変わりないけれど、もう迷惑なことはしませんから。
そう11は顔を俯ける。

「傷が癒えたら出て行きますから。ごめんなさい。たくさん迷惑かけましたけど、もう少しだけ」
「11」

11の言葉をセフィロスが遮る。
そして11の頬にセフィロスの手が触れた。
軽く撫で、そこから少しずつ下へと降りて行く。
首筋、鎖骨と通って、深く、一際酷く抉られた傷痕に指は留まった。
グッと押され、11は痛みに眉間に皺を寄せる。

「痛いか」

そう尋ねるセフィロスに11は当たり前だと返した。
戦闘でついた傷ではないのだからポーションも、治癒の魔法さえ然したる効果はない。
それでもジェクトが丹念に治療を施してくれたから辛うじて傷口は塞がってはいるものの、こうした強い刺激は傷口が再び開きかねないのだ。

「あっ…あのセフィロスさんっ」

傷を治してしまわなければここを去ることはできない。
痛む体では何もできないのだから。

「痛い、とは素直に言えるんだな」

セフィロスが呆れたように苦笑を零した。
人の傷を弄んで笑うなんて酷い男だと思いながらも、そんなセフィロスに惚れている11は黙り込んでしまう。
あぁ、やはり自分はこの男が好きなのだと、あらためて実感する。
これが誰ともつかない者だったら文句のひとつも返すところなのだから。

「ならばなぜ、お前は本心を隠す」

胸の傷から手を放し、セフィロスは11の視線を絡め取った。

「言いたい事があるのなら言えばいい。抱いてくれと強請っていたのは本心ではないことくらいわかっている」

セフィロスの言葉に11の目が揺れる。

ばれている?
いつから?

いや、確かにセフィロスに抱いて欲しいと願っていたのは本心からだ。
だがそれはセフィロスの関心を11自身に引き付ける事なんて叶う筈がないと思っていたからで、だから体の関係だけでもと必至に纏わりついていて。
そして未だ抱いてもらう事など叶っていないが、…おそらく11自身、時折みせるセフィロスの優しさに甘え過ぎていた結果だ。

「だって…そんなの無理だってわかってますもん。無理だってわかってて、それで……」

馬鹿な振りをして、軽い振りをして、いつしか芽生えた本当の願いをセフィロスに悟られないよう。
否定されるのが怖いから。
そしてそんな自らの気持ちを誤魔化す為にだ。

「気持ちの悪いと思える相手に口付けなどするとでも思うのか。この私が」
「あ、あの時はセフィロスさん、酔ってましたし…いつもの気紛れだって」
「気紛れか。そうか。では、わざわざお前を伴ってここへ移動してきたのも気紛れだと思うのか?」
「それは」

愉快そうな笑みを浮かべ、セフィロスは動揺している11をそのままベッドへと組み敷いた。
呆気にとられながらも、顔を赤らめる11の唇に口付ける。
舌を入れ、深く。
息つく間も与えぬ程に熱く絡めて。
11が苦しそうに酸素を求めているが、そんなことにも構いもせずに。

口で言った事しか理解しようとしないとは、この少女は本当に面白いと思う。
あの騒々しい城ではなく、ふたりで過ごせる場所でなら少しはセフィロス自身の思惑も察する事ができるのでは、と拠点地を替えてみたというのに。
11自身が己の思惑だけで目一杯で人の機微など悟る余裕もないのもわかってはいたが、ここまで鈍感だとはセフィロスも計算違いだった。
それでも、ふたりで過ごす時間が多くなれば本心を11自身の口から聞き出す事くらいできるかと思っていたのだが、それも適わずだ。
よもやそれすら言葉で言わなければ気がつかないとは。
十代の若い頃であったなら、いくらでも相手を喜ばすことのできる戯れな言葉を紡ぐことはできただろう。
だが、セフィロス自身が告げるには些か年をとりすぎている。
だから態度で示す。
普段のようなからかい混じりの曖昧なものではなく、こうして真摯に唇を寄せて。

「これでも気紛れだと?」

唇を放し、11を見下ろす。

「お前を好きにできるのは、私だけだ。違うか?」

薄く微笑みを覗かせるセフィロスに、11の目には見る見るうちに涙が滲み出した。
欲しかった言葉とは違うものだが、それと同じ意味を持つセフィロスの言葉。
純粋に嬉しいという気持ち。
そして、無力であった自責の念。
次々と湧き出る涙を堪えることが出来ずに、11の頬を伝う。

「でも、でも私、…こんなっ……」

11自身を好きに出来るのはセフィロスだけと決めていたにも関わらずのこの失態。
ようやくセフィロスの関心を11に向けさせることが適ったというのに、こんな穢れてしまった身ではセフィロスの傍に居る資格なんてない。
嗚咽に言葉が途切れる。

「そう思うのは11、お前自身の問題だろう」

危害を加えたのは皇帝とはいえ、確かに11の無防備さが招いた一連の事態であり、その浅はかさを11自身が後悔するのは当然のことだろう。
それに決して忘れる事のできない一件だということも承知している。

「だが、お前はお前だ。私にとってはそれ以上でも以下でもない」

それでは納得いかないか、とセフィロスは11の涙を拭う。

思い返せば、初めて顔を合わせた時もそうだった。
幼い見た目で判断せず、混沌の者だと受け入れてくれたのはセフィロスだけ。
あの時はただ11自身に関心がなかっただけなのかもしれないけれど、他の混沌勢から向けられる好奇の目に比べたら11にとってはそれだけでも充分満たされるものだった。

この胸に深く刻み込まれた傷は、この先も消える事はない。
そしてそれを目にする度に、あの忌々しい出来事を思い出してしまうだろう。
それでもこうしてセフィロスの傍に居続けることができるのなら、いつの日か記憶の奥底に閉じ込めることが適うかもしれない。

「傍に、居てもいいですか?ずっと、この先も」
「お前がこの先も私を追い求めてくるのなら、応えてやろう」

セフィロスの手が優しく、11の頬を撫でる。

愛しそうに、慈しむように。

心地よい感触。

この温もりが欲しかったのだと11は微笑む。

「大好きです。セフィロスさん」

貴方を好きになって良かったと、11は想いを返すようにセフィロスの手に手を重ねた。

-end-

2010/12/3




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