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関心13


「11」

皇帝の居室から出てきた11の背後より、自身を呼ぶ声が聞こえた。
聞きなれた、自身の名を紡ぐ声音。
警戒する必要はないと判断した11は声の主へと振り返った。

「…無事、…じゃねえよな……」

苦い顔をしたジェクトが己の頭を掻きながら11の傍へと寄ってくる。
11はゆっくりとした足取りで近づいてくるジェクトを眺めていた。

調和の者に無様にもやられた時など ”世話のかかるヤツだ” とか ”馬鹿か?” と茶化しつつも苦笑でもって何かと構ってくれるジェクトなのだが、今日に至っては違うらしい。
苦い顔はともかくも、まず目を合わせてくれない。
癖なのであろう頭に置かれた手は、苛立ちを示しているようにも見受けられる。
11自身が思っている以上に、自分の今の身なりは酷いもののようだ。
それでもアルティミシアから渡された布地を羽織っているのだから、幾分かマシに見えているはず。

「ジェクトさんも助けに来てくれたんですか?」
「まぁ、そんなところだ」

視界に収めるのも戸惑われる11の様相だが、ジェクトは11の頭に手を置きこちらを見上げている姿に目を落とす。
11が何者かに捕らえられたのだとジェクトが知ったのは、城の一角に11の靴が落ちていたのを見つけたからだ。
それも片方だけといういかにもなシチュエーションに、真っ先に頭に思い浮かんだ者は、日頃から彼女を捕らえようと目論んでいた皇帝。
ヤツに捕らえられたとあればすぐにでも助けに行く必要がある。
どう考えたって今の11の力量では皇帝に敵うわけがないのだから。
だが、連れ去られてどれ位の時間が過ぎたのかまではわからない。
もしかしたら既に皇帝の手に落ちてしまっているかもしれないという不穏な思いも過ったが、まずはともかく行動を起こさなければ話にならない。

急いで皇帝の居室前まで来てみると、そこに控えていたのは魔女・アルティミシアだった。
まさか彼女も皇帝に組みしているのではと警戒したが、11が連れ去られるまでの一部始終を見ていたのだという魔女の手には水晶球。
どうやら部屋の様子がその水晶に映し出されているらしい。
しかし、ジェクトがそれを覗き込もうとしたら即座に消されてしまった。
当初は興味半分に見ながらも放って置こうと思っていたアルティミシアだが、皇帝のあまりの汚い手口に業を煮やしてやってきたのだという。
アルティミシアの言葉に嫌な予感が過ぎったジェクトは、急いて部屋に入ろうとするも魔女に制止されてしまう。
女の自分が行った方が11のダメージも少ないだろうと。
中で何が起こっていたのかは、アルティミシアが水晶の映像を隠したことである程度は察しがつく。
それならば仕方がないと、アルティミシアに救出を委ねてこうして待っていたのだ。
そしてある程度ジェクトも心していたのだが、現れた11の姿は思っていたよりも辛いものだった。

ぼさぼさに乱れた髪。
頬に残る涙の痕跡。瞼は腫れて眼は赤く充血している。
羽織っている布には赤い付着物が点在していて、体に傷を負っているのが窺えた。
ジェクトは堪らず11の手を引き、布地ごと抱えあげる。
驚き瞬く11を元気つけるように、本当は笑顔なんて浮かべられる心境ではないのだが、ジェクトは辛うじて笑顔を作って見せた。

「手当て、しちまわねーとな」

こんなんじゃ、あいつに顔合わせられねぇだろ。
そう、ジェクトは一度11を抱え直して自室へと足を向けた。




自室のソファに腰を下ろし、ジェクトは深く溜息を吐いた。
11は今、浴室に置いてきた。
傷の手当てをする前に、体の汚れを落としてしまうためにだ。
本来ならば男女の区別などなく、今すぐにでも傷の状態を確認しなければならないところだが状況が状況だ。
娘とも思える少女の体を、しかも乱暴を働かれてきたばかりとあってはマジマジと観察するわけにもいかない。
それに11自身意識はしっかりしているのだし、大事となるほどの負傷はないと判断してひとりで体を流すよう言ってきたのだが。
脱衣所の扉を閉める時に、不意に目に入ってきたのは背中を向けた11の姿。
ほとんど裸体ともいえるくらいボロボロになった衣服にいたたまれず下げた視線の先には露になった太股だった。
その腿にこびり付いていた、赤い体液の乾いた痕。
…つまりは、そういうことなのだろう。
日頃あの男に抱いてくれと纏わりついていた11という少女は、その言動とは裏腹に意外にも純潔な体を保持していたらしい。
それがなんの悪戯か、皇帝の牙にかかってしまったのだ。
それもよりにもよって、強行的に。
深刻すぎる事態に気分が滅入る。

端から小娘ごときに構わず放っておけば良かったのだろうか。
年甲斐もなく面白がって、彼女の想いがあの男に伝わるのか様子を見ようだの、そんな思いつきさえ今となっては恨めしい。
馴れ合うことなどせずに、同じ陣営にいる者だという認識だけで過ごしていれば、こんな焦燥感が生まれることもなかっただろうに。
しかし後悔先に絶たずだ。
そうジェクトが再度溜息を吐いたところで脱衣所からの扉が開いた。
イミテーションに持って来させた清潔な衣服に身を包み、頭にタオルを乗せたままの11がジェクトの元に歩み寄って来る。

「ありがとうございました、ジェクトさん。すっきりさっぱりです」

そう頭を下げる11をソファに座るように促して、ジェクトは手当ての準備に取り掛かった。
細かな傷は所々にあるが、思った通り大きな傷はない。
だが、一番に目を引きつけたのは11の首に着いた赤黒い鬱血痕。
先ほどは布地に包まれて気付かなかったが、露になった首元にはとても目立つもの。
しかしこればかりは消毒というわけにもいかない。
かといって他に治療する術もなく、自然に痕が消えるのを待つしか方法はない。
なんとも煮え切らない首の痕跡からジェクトは目を反らし、他に痛む個所はないかと尋ねる。

「えぇと、ここなんですけど。ちょっと酷いかもです」

11が衣服を肌蹴させて胸元を露にしてきた。
そこから覗いた僅かな丸み。
柔らかそうな白い肌に着けられた抉られたかのような窪みにジェクトは一瞬顔を歪めた。
こんな目に合おうとも皇帝の手に落ちることなく堪えていたのだろうことが窺える。
屈辱にも痛みにも屈服せずに。

「私、これでも頑張ったんですよー。褒めてくださいよ、ジェクトさん」

だからいつもみたいにしててください、と笑顔を作ろうとする11の泣きそうな顔にジェクトは眉根を下げる。
どうしてこの少女はこの期に及んでも、こうも明るく努めようとするのだろうか。
いつかのあの時のように。あるいはジェクト自身のあの愚息のように、感情にまかせて鬱憤を放出することも時には必要だ。
ジェクトから言わせてみれば、まだまだ子供なのだから、そうすることに抵抗を抱くことなんてない。
悔しいのなら、辛いのなら、大声で泣き喚けばいい。
それともそうしないのは、自分の前だからだろうかとジェクトは思う。
彼女が己の弱い部分を見せるのは、やはりあの男の前でだけなのだろうかと。
そんなことを考えながら着々と手当てを施していると、静かにドアがノックされる音が聞こえた。
少し待っていろと11に告げ、ジェクトは一旦腰を上げて扉の方へ向う。

何もこんな時に誰が何の用かと心の内で愚痴りながら開けた扉の前に佇んでいたのは、今ジェクトが思い浮かべていた男セフィロスだった。
タイミングが悪い、としかいいようがない。
傷の手当てはあらかた終わっているが、首の痕跡だけはどうしようもなくそのままだ。
11が神殿に戻ればすぐに負傷していることなどセフィロスに知られることになるのだからいつ気がつかれようが同じなのだが、それでも多少時間を置くのと置かないのとでは彼女の心構えも違うのだろうし。
なにより11が事態を穏便に済ませたいと思っているとしたら、事実の代わりとなる理由を考える時間が必要だった。
どうしたものかとジェクトはひとまず後ろ手で扉を閉じて、セフィロスと廊下に出た。

「11がここにいるのだろう」

思っていたとおりにセフィロスは11を探しにここまで来たようだ。
大概この男がジェクトの部屋に来る用事といえばそれしかないのだから。
そしてその度に無言で入られるのだから不躾なやつだと思いながらもジェクトは諦めていたのだが、ふと、めずらしく扉をノックしていたことに気が付いた。

「ケフカに聞いた。皇帝に捕らわれていたらしいな」
「あ?あぁ、それは間違いねぇんだけどよ。なんでケフカの野郎が知ってんだ?」

セフィロスの口からケフカの名が出てきたことに首を傾げる。
あの場には自分とアルティミシアしかいなかったはずだ。
しかし、よくよく考えてみれば同じ城を拠点としているのだし、どこかで見られていたとしても何も不思議ではない。
それにあの道化のことだ。
ふざけた容姿に加えて何を考えているのか図りにくい不気味な男だが、それゆえに強大な魔力に任せてそこかしこをうろついているのは想像に容易い。

「愉快そうに、わざわざ知らせに来てくれた」

さも気に入らないといった口調でセフィロスはジェクトの背後に位置する扉に目を向けた。

「それで、どんな様子だ?」

普段11に対して無関心を決め込んでいるセフィロスだが、さすがにこの状況は気にかかるものらしい。
だから珍しくも扉をノックしてくるといういつもらしからぬ登場の仕方だったのだろう。
それならば心身ともに憔悴している11にいつものような冷たい態度は取らないのではないだろうか。
とはいえ、それなりに労りを込めて接するセフィロスの姿なんて想像もつかないのだが。

「空元気、ってあたりか?…まぁなんだ。ちょっとばかし負傷はしている」
「負傷…」
「手当てはしといたぜ。たいした傷じゃない。…あぁ。胸元にひとつだけな、痕に残りそうなのがあったか…」

そう告げるジェクトにセフィロスの視線が移る。
何かもの言いたげな、しかしなんと言葉にしていいのかわからない、といったふうに見やってくるセフィロスにジェクトは軽く息を吐いた。
心配する、という感情はこの男にも一応備わっているらしいことはさっきの様子で判断できた。
だが、その相手に対してどう接していいものなのかいまいちわからないらしい。
戦うことには不敵だというのに…、いや、だからこそ、そういった感情など芽生えなかったのかもしれないが。

「連れて行くならそれでいいが、状況が状況だ。あんま突っ込んだ話は勘弁してやってくれ」

自分に言えることはそれだけだと、ジェクトは部屋のドアを開ける。

ドアの開いた音に、11は俯けていた顔をあげた。
目に入ったのは部屋の主であるジェクトと、その後ろにはセフィロス。
思わず目を反らし、11は唇を噛み締めた。

情けない姿なのは自覚している。
どんな姿だって自分は自分なのだし、その全てをセフィロスに捧げたいと思っていたがこんな醜態だけは晒したくなかった。
それから自業自得だということも理解している。
善からぬ目論見を持って自身を狙っていた皇帝の罠に、束の間の幸せに浮かれて気がつくことなくまんまと掛かってしまったのは自分の失態。
そこから抜け出すことが出来なかったのも、己の力量不足がゆえ。
浅はかな女だと、いよいよセフィロスに見放されてしまうのだろう。
そうソファに縮こまっている11を目に留め、セフィロスは自身の前に立つジェクトを押しのけ11の元へと歩んで行く。
目の前に立ち止まり、頭上から突き刺さる無言の視線に11はますます身を縮めた。
そんな11にセフィロスは手を伸ばす。

「行くぞ」

セフィロスは11の腕を取りソファより立たせる。

「え…あの、セフィロスさんっ…?」

予想外の展開に11はうろたえる。
しかしそんな11の様子になど構わないかのようにセフィロスは歩き始めた。
成す術もなく、11はセフィロスの後を引きずられるかのようについて行く。

「世話をかけたな、ジェクト」

通りすがりにそうジェクトに言葉を残し、セフィロスは11を引き連れ部屋を後にした。

-end-

2010/9/30




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