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関心12


肌を伝う感触に11は固く目を閉ざす。
ねっとりと肌に纏わりついてくるおぞましい感覚に堪らず声をあげてしまいそうになるけれど、そんなことをしたところで相手を喜ばすだけだ。
それを承知しているから唇を噛み締めて、身を覆う隠微な気配から意識を逸らそうと思考を巡らせていた。

楽しかったこと。嬉しかったこと。
戦うことを余儀なくされるこんな世界だが、11は11なりに日々を謳歌していた。
コスモス陣を陥れるトラップを仕掛けるのは楽しいし、やりがいがある。
もちろん戦うのも嫌いじゃない。
どちらかといえば好戦的な部類に入る方だと11自身も思っているのだし。
幼く見える身なりに他のカオスの面々には当初小馬鹿にされはしたけれども、今では皆表面上は受け入れてくれているようだし、何より想いを寄せる相手がいる。

先日、11の想い人であるセフィロスから口付けを施された。
酔っ払いの戯れだと理解しながらも抱いて欲しいとしつこく言い寄っていた今までの威勢はどこへやら、あのキス以来妙にセフィロスを意識してしまって11自身戸惑いを隠せないでいた。
戸惑いが一体何なのか11自身微かに気がつきながらも、この胸のつっかえをどうしたらいいものかとジェクトの元へ向っていた際の失態である。
皇帝に捕えられ、あまつさえ今こうして身を蹂躙されている。
そして ”心が手に入らないのなら体だけの関係でもいいじゃないか” なんて、幼稚で浅はかな考えだったのだと身をもって知ることになるとは何の悪戯だろうか。

11の心はセフィロスに向いている。
なのにそんな11の心に関せずに事に及んでいるのは皇帝だ。
気持ちを伴わない行為とはこんなにも悲しく、気持ちの悪いことだったなんてと今更ながらに後悔の念が押し寄せてきた。

セフィロスの関心は秩序のあの男にある。
その関心がどういったものなのかまでは11には理解不能だけれど、そこに割り込み、心を掴まずにして抱いてもらおうなんてそれこそなんの戯れに捉えられていたのだろうか。
今の11ほどとまでは言わなくとも、薄ら寒い気持ちを抱かれていたのではないだろうか。
迷惑なのは知っていた。
11自身の勝手で一方的な想いなのだし。
でも時たま11に見せるセフィロスの優しさに甘えていたのだと思う。
完全に否定はされていないから。
気紛れな口付けだって、与えてくれたのだからと。
しかし、未だセフィロスに11の想いが届くような気配はない。
それどころか気持ちの悪いものだと捉えられていたのだとしたら…。


「あっ!」

急に身を刺した鋭い痛みに11は思わず声を漏らした。
瞬時にその一点が熱くなる。
堪らず薄く目を開ける。
痛みの走ったゆるやかな膨らみ。
そこに鮮血が滲み出ているのが確認できた。

「ようやく口を開いたな」

そうでなくてはつまらない、と皇帝が薄く笑みを浮かべる。

「何を考えていた」

胸に付けた傷に指を宛がう。
一瞬11の体が震えたが、それに構わず皇帝は爪先で傷を広げるかのように弄りだした。
11の口からは、うめき声が漏れる。
思い切り声を出したらきっと楽だろう。痛みが無くなることはないけれど、気を紛らわすことはできるのだから。
でもどんなに痛かろうが苦しみの声をあげては相手の思う壺だ。
それを理解している11は唸りながらその痛みを懸命に堪えていた。

「そんなにあの男がいいのか」

セフィロスが、という皇帝の言葉に11の目が揺れる。
自分を好きにできるのは、セフィロスだけなのだと勝手ながらに決めていたというのに。
しかし今現在、なす術もなく自身をいいように扱うこの手は皇帝のもの。
悔しさと、痛みが入り混じった涙が11の頬を伝った。
それを目に留めた皇帝は、気にいらないと一言漏らし、更に爪を傷へと喰い込ませて行く。
胸から脇を通って赤い体液が伝う感触がする。
寝具に染み込んでいく赤い体液の冷たさに嫌悪を抱けど、体は術にかかったままで未だに動くことは適わない。
こんな気持ちの悪さが続くのなら、いっそのこと皇帝に従ってしまおうかという思いが11の頭を過った。

だが11からそんな馬鹿げたことを懇願するのもみすみす皇帝に従うようで無性に悔しい。
体はままならないけれど声をあげて抵抗して、そうすればきっと喜んで操りの輪を持ち出してくるのではないだろうか。
そしてそれを受け入れてしまえば後は自分の意志はない。こんな無様な記憶が蓄積されることもなくなる。
何をどうされようが体は11であっても心はどこかに閉ざされるのだから、きっとこの無意味な苦しさからは解放される。
その後は……もう今までの自分に戻れることはなくなるだろうけれど、適わない想いを抱いてセフィロスの傍に居続けるよりはもしかしたら辛くはないのかもしれない。

「どうだ。私のものになれ。そうすればこの苦痛から逃れられるぞ」

あいつのように無視などしないし甘えたければ存分に受け入れよう。
ただし従順に使える気があるのならと皇帝が11の耳元に囁いた。

甘い言葉に脳裏が揺れる。
言うことを聞けば今すぐ楽になれる。
しかし胸が痛むのは紛れもない現実。
外側も、内側も、苦しくて仕方がない。
それでも。
気持ち悪がられていようが、迷惑がられていようが。
セフィロスにどう思われていようが、11自身の気持ちに嘘をつくことはしたくない。
だから皇帝に身を捧げることなんて出来るはずがない。

ピクリと11の手が動く。
僅かながらに術が解けてきたようだ。
だがまだ力は入らない。
11は痺れの残る腕を気力でもって持ち上げて、力無く皇帝を押しやる。

「でも、やっぱり…セフィロスさんがいいんです……ぅぐっ…?」

そう発した途端に11の息が詰まった。
首にかかる圧迫感に視界がぼやけてくる。

「詰まらん女だな11。言うことを聞きさえすればその身に快楽を齎してやると言っているだろう」

ギリギリと首が締め上げられ、意識が途切れそうになってくる。
このままでは死んでしまうのではないのだろうか。
でも、それも有りなのかもしれないと11は思う。
短い人生だったけれど、セフィロスという人物にも出会え、抱いてもらうことは適わないながらも、気紛れな、あの優しい口付けを受けただけでも充分に冥土の土産だ。
そう意識を手放そうとした刹那、呼吸が軽くなった。
急速に器官に入り込んでくる空気に嗚咽を漏らす11の視界に皇帝の背中が映りこむ。
そしてその皇帝の目の前に立つ人物に視線が留まった。

「愚かしい行為ですこと」

死んでしまうでしょう、と魔女が紡ぐ。

「この程度で死ぬのなら、それがこの女の寿命だということだ。何の用だ、アルティミシア」

そう尋ねる皇帝の言葉を受けながらアルティミシアはベッドへと赴き、まだ思うように体を動かすことのできない11を抱き起こす。
11はただ唖然とアルティミシアを見つめていた。
なぜ、彼女がここにいるのか。
それもどうやら11を助けてくれたらしいということに益々11は目を丸くする。そんな11の表情にアルティミシアは苦笑を零し、立てるかと声をかけて11をベッドから降り立たせた。

「酷い顔をしているわねぇ。服はボロボロだし…あら、傷まで作って」

どこからか取り出したのか、アルティミシアは清潔そうな布地で11の体を覆い隠した。

「さあ、ここから出て行きなさい」

アルティミシアにそう促され、11は足を一歩踏み出した。
さきほどまでの脱力感はどこにいったのか、しっかりと足に力が入り床を踏みしめることができた。
もう一歩踏み出し、11はアルティミシアに振返る。
どうして自分を助けてくれたのか、そんな疑問を投げかけるような面立ちで彼女を見やると再び苦笑を浮かべたアルティミシアが11の耳元へと唇を寄せてきた。

仄かに、11の鼻腔を掠める妖艶な香。
大人の色香というものだろうか、到底今の自分には醸し出すことはできない…かといって将来的にも出せるかといえばそこは頭を捻りざるを得ないのだが。
こういった匂いをセフィロスも好むのだろうかと11は少しばかり肩を落とす。

「本当は放って置いても良かったのですけれど」

そうアルティミシアが紡ぐ。
11が捕らえこまれていたところから目撃していた。
以前から皇帝が11を狙っていたのは周知の事だったのだし、わざわざ助ける義理もないと思いながらも、11がどういった反応を返すのかと興味本位で覗き見に来たのだと言う。
日頃セフィロスに付き纏っている少女が、果たしてどんな姿に陥っていくのかと。

「もっと紳士的なやり方というものがあるでしょうに」

あの男のやり方は、同じ女として許せるものではない、とアルティミシアは皇帝を睨みつける。

「それに、あなたのその無駄な一途さも悪くはないと思ったのですよ」

まぁ本当に無駄な想いですけれどねと愉快そうな声音で付け加えて、アルティミシアは11を扉の方へと促した。

11がこの部屋を出ていけば、ここに残るのは皇帝とアルティミシアだけ。
アルティミシアは皇帝も一目を置く存在なのだと11は認識している。
だから11が居ようが居まいがアルティミシアに危険が及ぶことなどないことはわかってはいるが、扉を抜ける手前で11はもう一度室内を振返った。

睨みあう皇帝とアルティミシア。
その頭上にはアルティミシアの仕掛けた矢が皇帝を狙っている。
それを見て、どおりで易々と解放させられたのだと11は納得した。
険悪な雰囲気が流れてはいるが、このふたりが本気で遣り合うことはないだろう。
本気で戦ったとしても、ふたりの力は五分で、結果など付く事のないのは明白だ。
それにアルティミシアはこの部屋から早々に出ろと言ってくれた。
この場を見る限り、後のことは彼女がなんとかしてくれるのだろう。
そう判断した11は、アルティミシアに一度深く頭を下げて、皇帝の居室を後にした。

-end-

2010/9/14




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