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関心10


寝具の柔らかな温もりを感じながら、薄く意識が呼び起こされる。
心地よい毛布の肌触り。
まだ起床には早すぎると11は頭まで覆うように毛布を引き寄せた。
まどろみの中、頭の中に過るのは昨夜の出来事だ。

所用を済ませ神殿に帰ってきてから数時間。
不在にすると一言も言われてなかったというのに、いつまでたってもセフィロスが帰ってこない。
気を揉みながらも一向になんの音沙汰もなく、思い立って探しに向ったのだが、あちらこちらと飛び回っても見つかることは適わず。
これはもしや何かあったのかもしれないと、足を向けたのはジェクトの元だった。
何かあればすぐさま11はジェクトの元へ訪れる。
なんだかんだ文句を言いながらも、11の話しに耳を向けてくれるジェクトは11にとって頼れる存在だからだ。
大慌てでジェクトの部屋に飛び込むと、そこにいたのはもちろんジェクト。
そして11の捜し求めていたセフィロスもそこに居た。
ジェクトの部屋を訪れていたなんて珍しいと思いながらも、見つけることができて一安心である。
そして安心するとともに、気が付いたのは部屋に漂うアルコールの香り。
ジェクトがひとりで飲んでいるのはよく目にしていたし、彼の部屋へ頻繁に訪れていた11にとっても、慣れ親しんだ匂い。
だからなにも不思議なことはないのだが、意外なことにセフィロスも一緒に飲んでいた。
セフィロスが酒を飲むこと自体食事時にあるにはあるが飲むと言っても嗜む程度で、傍に寄ってアルコールの香りが漂ってくる程飲んでいるところは今まで見たことがなかったのだから11には充分驚きの状況である。

驚きながらも戻るというセフィロスに続いてこの神殿へと帰ってきたのだが、11が何か話し掛けても ”そうか” と素っ気ない返事をしてくるだけ。
素っ気ないのはいつものこと。
しかしいつも以上に口数が少ない。
ということは、機嫌が悪いということだ。
こんな時にはあまりしつこく絡んでいると本気で殺気を浴びせてくるから要注意である。
だから日課になっていた風呂をともにするということも今日は控えておこうと、浴室に向うセフィロスに目も向けずに考えながらひとり静かに過ごしていた。
それなのに不意に入るぞと呼ばれ、機嫌悪いんじゃなかったのかと思いながらも11から断る理由もなくいつものように一緒に入るに至ったのだが、相変わらずセフィロスは無言のまま。
11ひとり、気まずい思いを抱えながら就寝までを過ごしたのだが。

昨日のあの一連の流れは一体なんだったのだろうかと考えているうちに徐々に眠気も薄れてきてしまった。
被っていた毛布から顔を出して寝返りをうつ。
人ひとり分の隙間をあけて隣に並ぶセフィロスのベッド。
そこに眠っているセフィロスの姿を視界に留める。
時刻はまだ夜明け前。こんな時間に目が覚めてしまうなんて11にとって珍しいことなのだが、それ以上に珍しいのは就寝中のセフィロスだ。
あえて避けられているようでもないらしいが、11はセフィロスが眠りについている姿を見たことがない。
いつも先に眠ってしまうし、11が起床する時間にはすでにセフィロスは起きているからだ。
毛布をはぐり、ベッドから降り立つ。

昨夜機嫌が悪かったにしろ、通常一晩立てばそれもなくなっている。
それにセフィロスよりも先に目が覚めることなんて、今後そうそうないことだろうと11は考える。
ならばこの機会を逃すわけにはいかない。
寝顔に拘っているわけではないのだが、想い人の姿ならどんなものでも記憶に残しておきたいという純粋な思いがあるからだ。

11はそっとセフィロスのベッドに乗り上げる。
静かに、気配を抑えて広いベッドの上を四つん這いにゆっくりと近づいていく。
目的の位置に到達を果たし、セフィロスの横に正座をした。
眠っていてもなお整った顔立ちに、規則正しく揺れる胸板を視界に捉える。
起きる気配はない。
11は、緊張に潜めていた息をゆっくりと吐き出す。

なんの気紛れなのか、セフィロスは11を連れて拠点をこの神殿へと移した。
次元城にいた時ほど冷たくあしらわれる事も少なくなってきたし、こうして11にとって貴重ともいえるセフィロスの眠る顔を拝むこともできた。
体の関係だけでもと願っていた11にとって、その望みは未だ適わないながらもそれ以上に贅沢な日々じゃないだろうか。
幸せを噛み締める、と言っても過言ではないであろうこの状況。

「でも、やっぱり足りないんですよー。セフィロスさん」

あなたの関心があの男にある限りは、と11は言葉を紡ぐ。
セフィロスに聞かせたいわけではない。
聞かせたいならセフィロスが起きている時に話せばいいだけのことだし、それにこんなことを告げたところで素直に11の望みを適えてくれる男ではないことも重々承知済みのこと。
それは11自身、身に沁みてわかっている。
それでもセフィロスとともにいたいと思うのだから、11自身が認識しているよりも相当入れ込んでしまっているのだと自嘲の息を漏らす。

「…セフィロスさーん」

悪戯心に少し顔を近づけて呼んでみるも、微動だにしない。
昨晩ほどではないが僅かにアルコールの香りが鼻を掠める。
酒とはここまで人を眠りに誘うものなのだろうかとアルコールに対してのほんの少しの関心と、眠るセフィロスに対してのほんの少しの興味に徐々に顔の距離を縮めていく。

「襲っちゃいますよー」

と言ってみたところで、囁くような声音ではセフィロスが起きるわけもないし11も本気で襲おうなどと考えていない。
セフィロスの許可なくそんなことをしてしまったら、いくら眠っていようが刺されること間違いないからだ。
刺されてしまっては願いが適う機会も永久になくなってしまうのだから11にとっては強行突破も許されずにもどかしいものである。
近づけていた顔を離して溜息を吐く。そして目に付いたものはセフィロスの唇。

「…」

口付けくらいなら構わないのではないかと、変に前向きに思考が及び始めた。
身長差もさることながらセフィロスの唇に触れるなど普段なら到底ありえないこと。
だが今こうして眠るセフィロスは横たわっている。11でも届く位置にだ。
それにキス程度ならいくらなんでも刺してくることはたぶんないだろうし、お仕置きされてもいつものアイアン・クローならなんとか堪えることは出来る。あの締め付けは痛いけれど。
そう意を決したところでアイアン・クローをかまされた。

「寝込みを襲うとは、なかなかいい根性をしているな。11」

これで二回目か?とセフィロスが楽しそうな声音で尋ねてくる。

「や、これは襲うとかじゃなくって…ていうかいつから起きてたんですかっ」

実行に移す前に顔を掴まれたのは些か不服だが、堪えると決心したにも関わらず実際にこの状態になった今、いつ締め付けられてしまうのだろうかと冷や汗が沸いてきた。

「さぁな。いつからだと思う」

聞き返してきたセフィロスの手が、顔から離れて11の頭を撫でやってきた。
顔を締め付けられるという危機が取り払われて、11は肩の力を抜く。
そして撫でられている感触がいやに心地よい。

「いつって言っても。そんなのわからないですよー…」

頭を撫でていたセフィロスの手がゆっくりと頬へと移動してきた。
それに伴って身を起こしたセフィロスが、11の顔を覗き込んでくる。
しかしセフィロスのその行為は11の顔を覗き込んできたものではなく、唇に触れてくるためのものだった。
すぐに離れてしまった感触に11は呆気にとられながらもセフィロスを見上げる。

「これで、足りたか?」

そう聞いてくるセフィロスの声が耳には届いているものの、驚きのあまりに11は声を出せないでいた。
単純に ”嬉しい” という思いと、もしかしてこれは ”夢” の出来事なのではないのかという鬩ぎあいが11の頭の中で繰り広げられている。
だが、さっきのアイアン・クローに怯えていた自分の感覚は現実のもの。
それならば今の口付けの感触だって本当のことだ。
11の望んでいることには程遠い行為だが、それでも今までのことを思えば確実に一歩進んだ気配はあるのだし、ここは素直に喜ぶべきところだろう。
そう結論付けてセフィロスの言葉に大きく何度も頷き返すと、嘘を吐くなと笑みを覗かせてきた。

「おまえがこれで満ち足りるなんてありえない」

そうだろう?とセフィロスのもう片方の手も頬に添えられる。
両手で押さえられた11の顔に銀の髪が流れてくるのと同じくして、先ほどの感触が再び唇に伝わってきた。
11は大人しくそれを受け入れる。

何度か軽い感触の後に口内に差し込まれてきた熱いもの。
柔らかに絡め取られ、息を注ぐ度にかかる吐息が11の体を熱くさせていく。
何度も繰り返される心地よい感覚に体の力が抜けきる頃、セフィロスの顔が離された。
名残惜しい気もするが、そんな気持ちとは裏腹に鼓動の高まりが尋常でない11はほんの少し安堵する。
そんな11の様子に、まだ足りないかと愉快そうに聞いてくるセフィロスに11は大慌てで首を振り返した。

「遠慮するなんておまえらしくないな」
「はぁ、なんというか。…思っていたよりも心臓に負担がかかりまして」

この先には今は到底無理っぽいですと、心底残念そうに11は項垂れた。

「慣れれば」
「はい?」

11は項垂れていた頭を上げた。
セフィロスは11の顔を見つめる。
11の面立ちが真っ赤であるのは一目瞭然で、無理と言っていたのは本当だろうことはそれだけでも窺い知れた。

「では、慣れれば問題はないということなのか」
「まぁ、そうなんでしょうけど」

その辺りはやってみなければやら何やらと11が言葉を濁している。
常日頃、威勢良く自分に強請っていた者と同じ人物とは思えない態度だが。

「そうか」

そう一言告げセフィロスは再び寝具へと横たわった。

「あれ。また寝ちゃうんですか?」
「まだ、酒が残ってる」

あの男はザルか、と呆れた息を吐きセフィロスが目を瞑る。
瞬く間に聞こえてきた寝息に11はひとり取り残されてしまったが、それよりも今セフィロスは ”まだ酒が残っている” と言っていた。
確かに僅かながらアルコールの匂いを感じてはいたが、そうは見えなくてももしかして酔っていたのだろうかという疑問が11の頭に過る。

昨晩の足取りはしっかりしたものだった。酔っていたとは思えないほどに。
しかし、冷静に思えばセフィロスから11に口付けを施してきてくれるなんて普段からしてみればありえないこと。
それならば今のできごとは、やはり酔っていたからなのだろうか。
そう考えれば複雑ながらもしっくりくるものではある。

「酔っ払いの戯れ、…ってカンジですかねー…」

例え酔っ払っていたが故のものだったとしても、体だけの関係だけでも欲しいと思っていた11にとっては嬉しいものである。
それなのに深い溜息を吐いてしまうのは、心の奥底にある本心がそれ以上のものを求めているからなのだろうことを、11は薄々気がつき始めていた。

-end-

2010/6/5




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