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関心9


さしてすることのなくなった暇な夕暮れ時。
少し昼寝でもするかと、ジェクトが自室の椅子から立ち上がると同時にドアが開く音が聞こえた。
そちらに目を向けると、佇んでいるのはセフィロス。
隅から隅へと視線を動かし室内を一望している。

「おいおい、入るんならノックくらいするのが礼儀ってもんじゃねーのか」

呆れた声音を吐き、ジェクトは立ち上がったばかりの椅子に再び腰掛けた。
大方、11でも探しに来たのだろうことはすぐに察しがつく。
何を気に入られているのかはわからないが、11はよくジェクトの部屋に訪れているからだ。
だから11を探すとなると、セフィロスはまずここに訪れてくるのも頻繁にあること。
そしてその度にドアをノックしないことについて苦言を零している気もするのだが、いつぞやみたいに扉を破壊されることを考えればマシな方なのだろう。
あの後エクスデスにドアの修理を頼みに行ったはいいが、自分が仕出かしたことではないと言っているのに、チクチクとした嫌味を聞かされるハメになったことに比べたらこのくらい。
室内を見回して気が済んだのか、セフィロスの視線がジェクトに向けられた。

「11がどこに行ったか、わかるか」
「いや。見かけてねぇな」

そう尋ねてきたセフィロスにジェクトは首を振り返す。
今に限らずだが、ここ最近11の姿を目にしていない。
そもそも11がよくこの部屋を訪れていた主な理由は、セフィロスについての相談なのか雑談なのか把握しかねる話をしに来ていただけで、それも今やセフィロスとふたり、この次元城とは違う場所に拠点を置いているのだから前ほど頻繁に会うこともない。
なにかあればいつものように自分の元へと訪れてくるのだろうし、それがないということは現状満足といった所なのだろうと勝手にジェクトは思っている。

「急用か?」

セフィロスが11に用があるといっても、調和陣への偵察やちょっとした雑用程度のこと。
たいそれた用件ではないだろう。
そうジェクトの思っていたとおりに、セフィロスはそうでもないと返してきた。

「ならよ、一杯付き合えや」

暇を持て余していたジェクトにとってセフィロスは、丁度いいタイミングで現れてくれたものである。
酒とグラスを取りに一旦部屋の奥へと引っ込む。

暇な者同士、たまには語らうのもいいんじゃないか。いや、セフィロスが暇かどうかまでは聞いていなかったが、11を探し歩いているくらいなのだから忙しいということもないだろう。
何かしら用があるのならあの男のことだ、黙って部屋から去っているだろうし。
それならそれでいつものように、ひとり酒でもして過ごせばいいことだ。

目的の物を手にして戻ってくれば、セフィロスはこの部屋から出て行くこともなく待っていた。
それに気をよくしたジェクトはセフィロスに椅子に座るよう促して、ふたつのグラスに酒を注いでいく。

語らうと言っても相手はセフィロス。ジェクトの一方通行な話になるのは明らかだ。
しかし、それはいつものことであって今はアルコールも入ってくる。
そうなれば流石のこの男だって多少は饒舌になったりするのではないのかと、そんな考えから一杯持ちかけたのだが。
そう考えるジェクトの思惑とは、普段11から聞くことはあってもセフィロスの方からの情報が全くないところにある。
当初はこのふたりの行く末を傍から楽しもうと思っていたのだが、なかなか良い方にも悪い方にも進展しない。
11自身はその度に一喜一憂して忙しそうだが、ジェクトからしてみればもどかしいことこの上ない。
だから、この男の思うところを聞いてみたい。
酒の手伝いがあれば少しは何か漏らすかもしれない、そんな僅かな期待。
傍観しようと決めていたにも関わらず、根っからの世話焼き根性が疼くのか、どうにもふたりに関して放って置くことのできないジェクトである。

セフィロスの様子に気を留めながら、当り障りのない近況事から話していく。
そうすればセフィロスも口数少ないながらも話に乗ってきた。
酒の強さにも自信のあるジェクトは話しながらもどんどんと飲み進めていく。
それに準じるようにセフィロスもグラスを空にしていく。
だが一向にセフィロスの様子に変化は見られない。

ジェクトが飲めばセフィロスも飲み上げる。
この繰り返しでかなりの量は飲んでいるはずなのだが、もしやこのままでは先に自分が酔いつぶれてしまうのではないのかという焦燥感が沸いてきた。
先にくたばってしまっては、聞きたいことも聞けずに本末転倒だ。
それにこの男の前で酔っ払ってしまうのも、年長者としてプライドが許さない。
時間も大分過ぎたことだ、そろそろ目的の話題に移ってもいいだろう。
そう判断し、ジェクトは一息にグラスの中身を飲み干す。

「それにしても、おまえさんがココを出て行くとは思わなかったぜ」

人が住むには充分に整った設備のある次元城だ。不便なことは何もない。
だから、わざわざこの城以外の場所を拠点とすることもないだろうにとジェクトは話す。

「この城は、騒々しい」
「そうか?」

混沌勢としての仲間意識はそこそこあれど、基本的にはそれぞれが思うように動いている。
そしてお互い干渉することも滅多にないことなのだが。
しかし、よくよく思い出してみればセフィロスの言う、”騒々しい” 場面が少し浮かんできた。

「あ〜、あれか?皇帝があいつにちょっかいかけてくる」

ジェクトも何度か目にしたことがある。
何を好き好んでのことか理解しかねるが、隙あらば11を捕らえようと試みてくる皇帝。
その度に逃げ回り、激しく抵抗を見せている11なのだが、どうやらそれが余計に皇帝の関心を引きつけている事に彼女自身未だに気がついていないようだ。
一度、11が皇帝の仕掛けた罠にまんまと捕まってしまった光景に出くわしたことがあった。
偶然にもそこにはセフィロスもいたのだが、助けるどころかそのまま放置。
それどころか後から現れた皇帝に ”好きにしろ” と一言告げ、去って行ってしまった。
皇帝は皇帝でそんなセフィロスの態度が気に入らなかったのか ”つまらんな” とどこかに消え去ってしまい、あの後罠を外すのに苦労したことをジェクトは思い出していた。

「あれくらい、自分の力でどうにかできなければそれまでだろう」

そうセフィロスは言う。

「だが、皇帝があいつに手を出してくるのは気に入らん」
「へぇ。…気に入らない、ねぇ」

顔にこそ変化は見られないが、ジェクトが望んでいた話を自らしだした辺り、少しはアルコールの効果がでてきているのかもしれない。
それならばジェクトの思惑通りの流れだ。
続いた話にジェクトは興味深気に相槌を打ち、空になっているセフィロスのグラスに酒を注ぐ。

「あいつを好きにできるのは私だけだ。そう思わないか、ジェクト」

11が関心を示しているのは自分なのだからと、一瞬セフィロスの口元に笑みが浮かんだのをジェクトは見逃さなかった。
大した自信家だとは思うが11がセフィロスに纏わりついていることは事実なのだし、どんなに冷たくあしらわれる事があろうとも、それでもこの男の傍にいたいと願う11にとってはこのセフィロスの言葉は嬉しいものかもしれない。
残念ながら当人は不在だが。

教えてやりたいとは思うが、そこまでお節介な真似は流石に無粋なことだろう。
ジェクトとしてはセフィロスは11に少なからずも関心を抱いているらしいという収穫もあったことだし、疼いていたもどかしさも晴れた今、これ以上口を挟むこともない。

「城を出た理由は、それだけじゃないがな」
「あ?」
「ジェクトさんっ、緊急事態です!!」

セフィロスが話の続きを紡ぐよりも早く、開け放たれた居室の扉。
そこに慌てた声音で姿を覗かせたのは、もちろん11である。
こいつらふたりして、ノックもせずに人の部屋に入ってくるなんて礼儀以前にプライバシーの侵害ではないだろうかとジェクトは息を吐く。

「あ、なんだ。セフィロスさんたらこんなトコにいたんですか」

いつまでたっても帰ってこないから行方不明になったかと探しに来たのだという。
この男が行方不明になるなどありえないだろうとジェクトは思うが、それよりもせっかく城を放れたことについての確信部をセフィロスの口から聞けるところだったというのに何ともタイミングの悪いことだろうか。
しかしながら、ここに居なかった11にそんなタイミングの良し悪しがわかるはずもない。
そして事あるごとに、大抵肝心な所で話を中断させられている気がする。このふたりの、どちらかに。

これはこれ以上頭を突っ込む必要はない、という何かの思し召しだろうか。
深入りするよりは気も楽かもしれない。結局はふたりの問題なのだから。
ジェクトは前向きにそう思うことにした。

「あれ。お酒ですか?」
「おうよ。男の話に混じってくんじゃねーぞ、この小娘が」
「うっわ、酒くさ!おっさんが余計におっさん臭いですよ!」

ジェクトが11の頭をぐしゃぐしゃに撫でまわすと、助けを求めるように手から逃れセフィロスの背後へと逃げ込んだ。

「えっ。セフィロスさんも飲んでるんですか?」

11の鼻に掠めるアルコールの香り。
紛れもなくジェクトから香っていたものと同じである。

「だいぶ飲んだ。そろそろ戻らせてもらう」

そうセフィロスが立ち上がる。
ジェクトと同じく、かなりのハイペースで飲んでいたセフィロスだが、足取りはしっかりしたものだ。

実の所、この男は酔ってなどいなかったのではとジェクトは思う。
だとしたら、11をどうにかできるのは自分だけなのだというあの話は、11がセフィロス以外に懐いているジェクトに対しての牽制の意味合いを含めた言葉だったのではないだろうか。
11をどうこうするなんて微塵も考えていないジェクトにとっては迷惑なだけの敵対心だが、部屋から出て行くと同時に姿を消したセフィロスにそれを問うことはもう適わない。
そして、来た時と同じくして慌てた様子でセフィロスの後を追う11も姿を消した。

来客がいなくなり静まり返った部屋の中、ジェクトは自身のグラスに酒を注ぐ。
酒の力を借りてセフィロスの内心を探るつもりが、逆に探られた、ということだ。
だが嫌ではない。
自然と笑みが零れる。
ただ、あの様子では11の望みが実るのも近いのではないのだろうか。
そんな予感にひとり満悦な思いを抱え、飲みなおすジェクトだった。

-end-

2010/5/28




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