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関心8


黒い翼に覆われて、瞬く間に次元城を後にしたセフィロスと11。
あちらこちらと次元の歪みを利用して移動を行っているらしい調和の戦士たちには出来ないこと。
神出鬼没を可能とするこの能力は移動を困難とする異界の中においてカオス勢にとって優位ともいえる力だ。
足が地に着いた感覚と共に11の視界を塞いでいた翼も消失する。

「ここ、ですか?」

見覚えのある広間を視界に納め、11はセフィロスを見上げた。

ここは11も何度となく足を運んでいるカオス神殿内。
かつてはさぞかし立派な建造物だっただろうことを感じさせる佇まいだが、所々崩壊している天井が時の流れを強調している。
散乱している瓦礫に足元を取られないよう気をつけながら11は神殿内を一望する。

先ほどセフィロスに告げられた、拠点とする場所を変えたという話。
そこに11も連れて行くということだったのだが、こんな老朽化した内部では次元城のように勝手の良い住まいには成り得ないのではないだろうか。
セフィロスに誘われて、ふたりきりでの生活だと喜び勇んでいた11にとっては大いに期待はずれの物件である。
混沌勢にいるとはいえ、曲がりなりにも年頃の娘だ。
惚れた男とふたりで過ごす空間に夢を抱くのも無理はない。
だが、そんな11の思いなどセフィロスが気に掛けることなどないことくらい少女にもわかっていたことだ。
ただ突然の話に浮かれすぎていて、そのことを少し忘れていただけで。
11がひっそりと肩を落として息を吐いているとセフィロスが声を掛けてきた。
呼ばれるままに、11は彼の後について行く。



巨大な扉を通り抜けて広間を後にする。
しばらく廊下を進んでいるうちに11はあることに気がついた。
何の気なしにこうしてセフィロスの後をついて来た。
それはいい。そうしなければセフィロスの目的とする場所へは辿り着けないのだから。
気がついたのは、今歩いているこの廊下が見覚えのないものだということ。
ここには何度も訪れているし、こんな場所に出る通路なんてなかったはず。
不可思議そうに11が頭を捻っていると、その様子に気がついたセフィロスが今辿ってきた後ろの方を示してきた。
遥か後方に見えるのはただの壁。
壁なんかが何だというのだろうと11は首を傾げる。

「大方、余所見でもしていたんだろう」

呆れたようにそう紡ぐセフィロスだが、11は別に余所見などはしていない。
しっかり前を向いてセフィロスの後ろをついて歩いていただけだ。
そのお陰で背中に靡くセフィロスの銀髪を眺めている状態にはなっていたが。

この廊下に辿り着く原理は次元城と同じだという。
次元城の内部には調和の者たちは侵入することが出来ない。
外壁に付随しているあの扉は、カオスの者にしか反応しない仕組みになっている。
それと同じ。
ただ、このカオス神殿にはその目印となる扉があるわけではなく先に示したただの壁が入口になっているのだという。
その壁に触れれば、こうしてこの廊下に入ることが出来る。
印を付けておいたから慣れるまではそれを頼りにすればいいとセフィロスは言う。

「ここに限らず、探せば他にもあるのだろうけどな」

面倒くさいから最初に見つけたここでいいだろう、と決めたようである。
それでもあの広間から続いていた閑散とした空間とは違い、荒れていないせいかそれなりに形状が整っているこの区域は気落ちしていた11にとって気分を取り戻すには充分だったようだ。

「じゃあ、これからはここでセフィロスさんとラブラブできるんですね!」

と呑気にセフィロスの先を11は歩き始めた。
幾つかある部屋を覗き込んでは、感心してみたり驚いてみたりとひとり楽しそうだ。

神殿とはいえある程度人が住めるよう配慮された設備はある。
それはセフィロスも確認済みで、だからこそ他にも回ってみたガレキの塔や魔女の城ではなくここにしたのだがそこはあえて11には黙っておく。
利便性を考えてのことだし別段11のためにここを選んだわけではないのだが、そんなことを話しでもしたら更に調子に乗ることをセフィロスは知っているからだ。
しかし、こうして11が喜んでいる様子を目にするのも悪くはない。
そんなことを思いながらセフィロスはひとつの扉に手を掛けて中に入っていく。
先を行き過ぎていた11がそれに気がついて慌ててセフィロスの後に続いてきた。

足を踏み入れた部屋はどうやら寝室のようで、寝心地のよさそうな広々としたベッドがふたつそこにあった。
そう、ふたつである。

ここしばらくセフィロスとベッドを共にしてきた11にとっては重要なところだ。
ふたつあるということは、これからはセフィロスと同じ布団で眠ることは適わないということだろう。
そうあっては11の野望であるセフィロスに抱いてもらうという可能性が遠のいてしまうことになる。
同じ布団を共にしていたところで何も進展などなく、あまつさえここでベッドが離れてしまったということはまた振り出しに逆戻りだ。
せっかくテンションが上がっていたというのにまた奈落の底に叩き落された気分に苛まれる。
恨めしそうにセフィロスに目を向ければ、愉快そうな面立ちで見返された。

「ベッドが狭いと文句を言っていたことがあっただろう」

これで心置きなく広く使えるんじゃないのか、とさも良かったなと言いた気に告げてきた。

人の気を知っているくせに、絶対わざとなのだろう事は11にも察しがつく。
悔しいが11が一方的にセフィロスに纏わりついているだけであって、そんな気のない彼からしてみればわざわざ少女を甘やかす必要はないのだ。
袂を許してくれたのだと思えばこうしてまた突き放される。
セフィロスのいい様に扱われているのも11自身承知しているがこればかりは惚れた弱みだ。
傍に置いてもらえるだけでもまだマシじゃないか。そう11は思うことにした。
だからベッドを別々にされてしまったことについて文句を言う権利も11にはなく、しかし行き場のない欲求に11はベッドへと飛び込んだ。
11のそんな様子にセフィロスは満足そうに見やる。

「部屋にあったものは粗方ここに運ばせたが、後で自分でも確認しておけ」
「はーい」

枕に顔を押し付けているせいで、少しばかり篭った声音で返事をしてきた。

「必要なら、イミテーションを連れてきてもいいぞ」

雑用なら紛い物にでも任せておけばいいとセフィロスは言う。
確かに混沌の駒なだけあって、従順に仕えてくれるイミテーションは便利だ。
11が一日中神殿に篭って過ごすわけでもないし、しばらく拠点とする場に戻らない時もある。
それに次元城ほど広くはないがふたりで過ごすには少々広すぎな感もあるカオス神殿だし、数体傍に置いて役に立つ事はあっても決して邪魔にはならないだろう。

では、誰のイミテーションを連れてこようか。
所詮紛い者だから皆が皆従順なことには変わりはないが、見た目で選ぶのもありだろう。かといってセフィロスのイミテーションをこき使うのは気が引けるが。
思い切ってジェクトのものにしてみようか。あんな大柄な男が偽者といえどもいそいそと雑用をこなす様子を見るのも面白いかもしれない。
あぁそれからなるべくなら11自身で食事の仕度もしたいところだ。
せっかくふたりきりなのだし、混沌の面々と顔を合わせることも少なくなる分、誰かの用事を請け負うことも減るだろうし。
先ほどのベッドについての不満はどこにいったのか、頭に巡るのはこれからの過ごし方について。

「それから…」

セフィロスの言葉が止まる。
返事をしてこなくなった11に目を向ければ、ゆっくりと上下する背中が映った。
どうやら眠りに落ちてしまったらしい。
まだそんな時間でもないというのに、どうしたらこんな時間から眠れるものだろうかとセフィロスには理解し難いことだ。
それに自分がまだ話をしている途中にも関わらず、勝手に眠ってしまうのも如何なものだろうか。
起こしてまで聞かせる用件でもないのだが。

11の眠るベッドにセフィロスは腰を降ろす。
そして軋んだベットにも微動だにしない11の頬に手を当てる。

起こす気はさらさらない。
だが、人の話を聞かない態度が少しだけ気に入らなかったのは事実である。

「なんでも言う事を聞くんじゃないのか」

そう指で頬を少し摘み上げてみる。
すると返ってきたのは幸せそうに笑みを浮かべた11の寝顔。
そんな11の表情に僅かにセフィロスの口元が綻ぶ。

セフィロス自身はとっくに11には関心を示しているのだが、それを察知できない馬鹿なこの少女。
それを悟れないほど己に自信がないというのに、どうしてここまで自分に関心を示してくるのか。
それもまたセフィロスの関心を引くところだ。
ただ単純に、見ていて飽きない、というところもあるが。

摘んでいた頬を離して手で撫でる。
ふたりきりで過ごせる空間を手に入れた以上、いつまでこの余裕が保てるのだろうか。
少女の寝顔を眺めながら、そんなことをふと思うセフィロスだった。

-end-

2010/5/14



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