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関心7


「あ」
「…」

全くの偶然の出会いである。
11の目の前に立つ男は、セフィロスの追い求めている者、クラウド。
敵対にある調和の戦士だ。
背中に大きな剣を担いだまま、それを構えることもなく11に目を向けている。


朝起きて、隣に眠っていたセフィロスの姿が見えないのはいつものことだ。
11の目覚める前に起床して、知らないうちにどこかへ出向いている。
向っている先がどこなのかあえて聞いた事はないが、それが当たり前の日常となっていた。
ひとり起きた11は身支度を整えてのんびりと過ごす。
朝食を摂り、ジェクトの元へ赴いたり、他の混沌勢の元へ訪れてみたりと、セフィロスが姿を現すまで自分に与えられている時間をそれなりに有意義に使っている。
それは今日も変わらない。

食事を終えた11は、たまにはひとりで散歩でもしてみようとカオス陣の拠点としている次元城の外を歩いていた。
不思議なことに次元城の中までは調和の者は入ってくることは出来ないが、こうした城の外でなら度々姿を見かけることはあった。
彼らの行く手を阻むだけなら紛い物だけでも充分である。
そう考えて必要以上には干渉しないよう過ごしていたのだが、不意に遭遇してしまったこの男に出会い頭になんとも間抜けな声を上げてしまった。
間抜けな声が漏れてしまったことはとりあえずは仕方がない。
意表を突かれた遭遇だったのだから。
それにしても、である。

敵勢の陣地において、11のしていたようにのんびりと散歩でもしているような風貌に11は少々苛立ちが過る。
しかも敵を目の前にして剣すら構えもせずに、ジッと不躾に目を向けられているとあっては自分の力量を見透かされているようで腹立たしい。

「ちょっと。剣を構えるとか、襲ってくるとかなんとかしないわけ?」
「アンタ、丸腰じゃないか」

そんな相手に興味はない、とさらりと返答されてしまった。
確かに今11は何も武器は持っていない。散歩に来ていただけなのだから。
流石は調和の戦士。武器も持たない相手に挑んでくるなんて卑怯なことはしないらしい。
しかし、そんな理由とはまた別になんとも消極的な態度であるクラウド。
そんな様子のクラウドを見て、セフィロスはなんでこんな男にあんなにも関心を示しているのか11は本当に謎で仕方がない。

ツンツンとした金の髪はまるでチョコボのようだし。
これなら絶対さらさらな銀の髪の方が好みだと11が関係ないことを考えているとクラウドが動いた。

「そういえば、アンタを何度か見かけたことがある」
「そ・そりゃあ、セフィロスさんのためなら偵察だっていきますよ」

確かにセフィロスの指示で純粋にクラウドの動向を窺っているだけの時もあるが、大抵11の個人的な偵察だったりする。
どうしてセフィロスがクラウドに纏わりついているのか。
なぜ自分には興味を抱いてくれないのか。
そういった肝心なところをセフィロスが11に教えてくれるわけもなく、それならば自分で確認してみるしかないからだ。
そんな11の邪念が漏れていたのか、はたまた偵察能力がイマイチだったのか、こっそり窺っていたつもりがクラウドにはバレバレだったようだが。
少し恥ずかしいが気を持ち直して、強気な態度でクラウドへと目を向ける。

「だいたい、あんたがいるからセフィロスさんはいつまでたっても私に気を向けてくれないんだけど!」

八つ当たりである。
そんなことを11に言われたところでクラウドだってセフィロスに追われることに辟易しているのだし、この少女にセフィロスが気を向けてくれるのならそれはそれでとてもありがたい。
クラウドにとってセフィロスと剣を交えることなどもはや何の意味も成さないことなのだから。
しかしそれを言ったところでこの少女は素直にこの言葉を受け入れるだろうか。
少女の言葉を聞く限り、彼女がセフィロスに執着している様は想像に容易いがセフィロスはそうでもないらしい。
薄らとクラウド自身の記憶に残っている彼を思い出してみれば、それもそうかもしれないと納得できるものではある。

なんでもそつなくこなし、強くて、近寄りがたくて、誰もが羨む最強の戦士だった。
それでいて何事にも関心を示さない彼の姿は、かつての自分も憧れていたものだ。
それなのに何の因果か、こうしてセフィロスに追われる身になっている。
変われるものならこの少女と自分の立場を変えてやりたいものだが当たり前だがそんなことは出来ない。
思わず溜息が漏れる。

「…あんた、なんか物凄く消極的じゃない?」

強気な態度で(八つ当たりとも取れるが)挑発してみたというのに、クラウドの溜息に意を削がれる。
こんな、敵を前にして闘争心を出すどころか溜息を吐く男に、なんだってあそこまで執着しているのか益々11の疑問は深まるばかりだ。

「クラウド」
「は?」
「俺の名前だ」

そんなことくらい知っている、と11は思ったが続いてクラウドは11に名前を聞いてきた。
別に減るものでもないしと素直に11は自分の名を告げる。

ふと、初対面のジェクトに名前を聞かれた時の事を思い出した。
当然応えると、”いい名前じゃねぇか” と豪快に頭を撫でられながらも、なぜかついでにとジェクトの息子の名前を教えてくれて、意味がどうの由来はどうのと延々と息子(の名前)自慢を聞かされたのだが。
その時はまだ彼の息子が敵対しているコスモス勢にいるだなんて思ってもいなくて、よほど自慢の息子なんだな、なんて漠然と思っていたのだが今状況をある程度理解した11には、あれは己の辛さを紛らわせるためのものだったんじゃないのかと思えてくる。

「それで、アンタは何のために戦ってるんだ?」

名前を聞いておいて呼び方は変わらないのかとツッコミを入れたい衝動に駆られたが11はそれを堪える。
そしていきなりのその質問に首を傾げた。
わざわざ敵に戦う意味など聞いてどうするのか。
もしかしてこのクラウドもセフィロスと同じく、11の判りかねる思考を持つ男なのだろうか。
しかしあえて応えるのなら11の戦う理由はセフィロスのため、だ。
他に理由なんてない。
11にとって、セフィロスさえ居れば調和も混沌も関係ないのだから。

「ヘンな女だな」
「大きなお世話だ」

ヘンな女だとは思いながらも少し羨ましいとも思う。
戦う理由を見出せないままに、それでも襲いくる敵と剣を交して自分は戦っている。
クリスタルを手に入れるためとはいえ、それが正しいことなのかも判らずにだ。
それならいっそのことこの11という少女のように、例え自分の嫌っているセフィロスであろうと誰かの為に戦うという理由でもあれば心の蟠りも少しは解けるのかもしれないのだが。

そんなことを考えているとクラウドの背後から自分を呼ぶ明るい声が聞こえてきた。
この声はティーダだ。
呼びかけに振り向けば、手を振って向ってくるティーダの姿が確認できた。
程なくしてクラウドの元へとティーダが到達する。

「のばらとはぐれちゃってさ〜、でも良かった!クラウド見っけてー…」

とティーダの視線がクラウドから11へと移る。
それを察してクラウドが11の名前を教えると、”ヨロシク!” とティーダが11の手を握ってきた。
11はといえば目が点である。
敵対する者同士だというのに、この男は一体何を思ってこんなにも親愛を込めて握手をしてくるのか。
もしかしたら11の思い描いていた調和の戦士とは、実は幻想なのではないのかとすら思えてくる。
それを見たクラウドは、ティーダに彼女は混沌勢だということを付け加えて教えた。

「えっ、そうなの?」

目を丸くしてそう聞いてくるティーダに11は無言で頷くと、もったいない、だとかカオスばっか女子率高いよなー、などと愚痴を零し始めた。
暗闇の雲も女にカウントされているのかと11が逆にティーダに聞いてみれば、見た目が女であればそうだとなんとも少年らしい意見を述べてくる。
どうやらそのティーダの意見には11も同意だったらしく、およそ敵同士の会話とは思えない和気藹々とした雰囲気のふたりを眺めているクラウドの背筋に不意に悪寒が走った。
この気配は…。

「随分楽しんでいるようだな」
「あ、セフィロスさん」

おかえりなさい、と即座に飛びついていく11を目にして、これほど妄信的にセフィロスを崇めているのなら彼女がきっぱりとヤツを理由に戦っていると言ったのは頷けるものかもしれないとクラウドは思う。
しかしセフィロスのことだからそれを甘んじて受け止めることなどなく、11というこの少女の一方的な想いを利用しているだけなのだろうと思っていたクラウドが目にしたものは、抱きついてくる11をしっかりと受け止めているセフィロスの姿だった。

「どうしたクラウド。間抜け面をしているな」

そう薄い笑みを向けてくるセフィロスにクラウドは少しの違和感を覚える。

さっきの彼女の話し振りからはセフィロスは自分ばかりを追っていて、相変わらずその他のものには関心を示すことなんてないのだろうと思っていたのだが、こうしてクラウド自身が今目にしている光景を見る限りではそうでもないらしい。
セフィロスからクラウドが受ける殺気は留まることを知らずに降りかかってきてはいるが。

11の耳元に口を寄せてセフィロスがなにやら言葉を紡いでいる。
それを受けた11が驚いたような、それでもどこか嬉しそうな表情を浮かべてセフィロスを見上げた。
満足そうな目で11を見やり、それからその視線は冷たい光を宿してクラウドに注がれてきた。

地に落ちたとはいえ、かつての英雄。
その勇猛な戦いぶりを知っているクラウドは、始まるであろう戦いに備えて咄嗟に剣を構える。
ティーダも慌ててクラウドのそれに倣った。
セフィロスの背後に漆黒の片翼が現れる。
初っ端から全開か、と思われた直後にその翼がセフィロスと11を包み込んだ。

「また会おう。クラウド」

そう言葉を残して、セフィロスと11の姿がその場から消失してしまった。
辺りに殺気は感じられない。
穏やかな風が通り過ぎていく。
クラウドとティーダは構えていた剣を下ろした。
無駄な戦いをせずホッとしたような、からかわれたようで腹が立つような、そんな微妙な感覚が体を纏う。

「…なんだったんだ」

クラウドの口から思わず漏れた一言にティーダは剣を収めながら ”あの11って子、迎えに来たんじゃないっスかね” と返してきた。
たぶん、ティーダの言っていることは間違いないとクラウドは思う。自分もそう思ったのだし。
腑に落ちないのはなぜあのセフィロスがわざわざそんなことをしたのだろうか、ということだ。

しかし何にせよクラウド自身には関係ない事だ。
セフィロスの思惑など判りはしないのだし、判りたいとも思わない。
これ以上ややこしい思いを被るのはごめんだ。

地面に残されたひとつの羽を手に取る。
真っ黒なそれを次元城の端からふわりと放り投げる。
到達することのない終わりに向って落ちていく羽を眺めながら、セフィロスに執着しているあの混沌の少女の想いには終わりがあるのだろうか。
そんな思いがクラウドの頭を過った。

-end-

2010/4/9




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