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関心6


11がセフィロスと寝食をともにするようになってから早数日。
食事を終え、食器を厨房へ戻しに11は廊下を歩いていた。
広い次元城の中も慣れたもので、足取りも軽く進んでいると暗闇の雲に遭遇した。
11の手にする食器に目を向け、次に11に視線を移してくる。

「自分で運んでおるのか」
「はぁ。見てのとおりです」

興味深気に尋ねてくる雲に11は軽く食器を掲げて見せた。
ふたりの横を通り過ぎていく何体かのイミテーションもその手には空になった食器を抱えている。
次元城では、ごく有り触れた光景だ。
混沌の面々がわざわざ揃って食事をすることなどはない。
各々、自室にて好きな時に賄っているのだがそれを作るのも運ぶのもイミテーションの仕事だ。

食事に関することだけではない。
掃除などの雑用もイミテーションがこなしている。
調和の戦士たちにとっては忌まわしい紛い物でも、混沌勢にしてみればなかなか仕える便利な召使といったところだ。

「イミテーションにでもやらせておけばよかろうに」

雲の言うことも尤もであるが、11はあえて自分でやっている。
本当は料理もしたいところなのだが、コスモス勢の偵察に行ったり、足止めのトラップを作ってみたりと細々した用事が多いためになかなか時間が作れないという。

何かを口にすることは”人”の形をしているのだから可能ではあるが、存在そのものが”生き物”ではないのだから食べ物を摂取する必要は無い。
そんな暗闇の雲からしてみれば、食事を必要とする”生き物”自体が不便なものだと思う。

「闇に還ればそんなことも必要なかろうにな」

そう言葉を残して去っていった。

暗闇の雲の言うとおり、闇に還れば食事どころかこの身もこの精神も関係ないだろう。
闇に溶けて、消え去って、そうなったらセフィロスとひとつになれるのだろうか。
そうなったら、セフィロスも自分を受け入れてくれるのだろうか。
無に飲み込まれて消失してしまえば、セフィロスを想い焦がれるこの気持ちからも解き放たれて楽になれるのかもしれない。
そんな思いが11の頭を巡るが、それを拭い去るように首を振る。
自分はただセフィロスの傍に居れればいい。あわよくば体の関係を望んでいたりもするが、ひとつになるなどそんな大それたことなど厚かましいにもほどがある。
そう気を持ち直して、厨房へと足を向ける。



食器を片付け終え、戻った先はセフィロスの自室。
セフィロスは椅子に腰掛けて、なにやら書物を読んでいた。

古い蔵書の豊富なこの城では読み物に困ることは無い。
こうした光景も、ここ何日かで11には見慣れたものとなっていた。
11自身も本を読むことはあるが、難解な書物に遭遇しては頭を捻るばかりですぐに飽きてしまう。
そんな時は大人しく、読み耽るセフィロスを眺めてみたり早々に就寝したりして邪魔にならないように心がけている。

「セフィロスさん」

声をかけても返事はない。余程興味を引く内容なのだろう。
少しばかり本にすら嫉妬してしまうが、返事がないのは大体日常的なことだから気にも止めずに言葉を続ける。

「私、お風呂入っちゃってきますね」

そう部屋を出て行こうとすると、本を閉じる音が聞こえた。

「どこへ行く」
「はぁ。だからお風呂に行ってきます」

これも日常的なことだ。
一度セフィロスの部屋の浴室に入ろうとしたら、いつものごとくアイアン・クローを喰らってしまった。
それ以来、風呂といえば11自身の部屋に戻って入浴して、そして就寝のために再びセフィロスの部屋へと帰ってくるというなんとも面倒な流れになっているのだが。

「浴室なら、ここにもあるだろう」
「あれ?入ってもいいんですか?」

そう声をかけてきたセフィロスに確認すると、首を縦に振ってきた。
本当にいいのかともう一度確認すればさっさと入ってしまえと返された。
一体何事だろうか。
着替えを手にしながらチラリとセフィロスを窺えば、再び本に目を落としている姿が映った。
さっさと入れと言われたのだから黙って従おう。セフィロスの気が変わらないうちに。
そう思い11は浴室へと足を向ける。

この部屋と11の自室は離れている。
セフィロスに言われたこととはいえ、あの距離を湯上りに歩いてくるのは体も冷えるし、直に寛ぎたい11にとっては少ししんどいものだ。
だからこうしてここで湯を浴びることができるのはありがたい。

脱衣所に衣服を置いて、浴室の扉を開ける。
たちまち11の体を湯気が覆ってきた。
おそらく、11が食事の片付けに行っている時にでも沸かしておいたのだろう。
シャワーだけだと思っていたのだから、嬉しさは倍増だ。
早々に体を洗って湯に浸かろうと、コックに手を掛けた11の目にふとシャンプーが目に留まった。
そして気がつく。
自分用のモノを持ってきていなかったことに。
着替えなど11の私物もいくつかセフィロスの部屋に置かせてもらっているが、まさかここで風呂に入ることになるとは考えてもいなかったことなのだから、風呂用品は自室に置きっぱなしだ。

「…」

ないモノは仕方がない。
かといって、洗わないのも自分的に許せない。
さすがのセフィロスだって、石鹸類のことまで小言を言ってこないだろう。
そう考えた結果、使ってもいいんじゃないかという自己結論に達する。
それに、なによりセフィロスと同じ香りを纏えるのだ。
11にとっては重要なことである。
あとでバレてアイアン・クローを受けようが、こっちのほうが肝心だ。
ここまできたら、スポンジも、ボディソープも借りてもいいだろう。
シャンプーを手に取り、髪を洗い始める。
いかにも高級そうなボトルだし、ベッドの大きさといいカオスの贔屓も大概なものだと内心文句を呟きながら頭を洗う。


「人の物を勝手に使うとは、なかなかいい度胸だな11」

急に聞こえたセフィロスの声に驚いて11は思わず目を開いてしまった。
泡が目に入って痛い。

「声くらいかければいいだろう」
「あ。だってセフィロスさん、本に夢中でしたし…」

セフィロスの言うとおりだが、ひとまず目に入ったものを洗い流したい。
止めてあった湯を出そうとコックを手探りで探していると、頭にシャワーが掛けられた。
ここにいるのはセフィロスと11。他には誰もいないのだから、当然シャワーを掛けている者はセフィロスである。

「セフィロスさん、服、濡れちゃいますよ。貸してください」

そう11はシャワーを受け取ろうと手を出すが、セフィロスは渡さない。それどころか11の頭に手を伸ばしてシャンプーを流し始めた。
乱雑でもなく、丁寧過ぎるでもなく、心地よい手捌きで洗い流してくれている。
そんな行為に戸惑いもするがとても嬉しいし、申し訳ないながらもありがたいのだが目が痛い。
どうにかしようと顔に伝ってくる湯を手で受け止めて目を擦っていると、その手を掴まれた。

「顔を上げろ」

言われるままに俯けていた顔を上げる。
そこに湯を浴びせてきた。シャンプーの混じっていない湯で目を濯ぐとようやくジクジクとした痛みが引いてくる。
しかし、違和感はまだ残ったままだ。ぼやけている視界を何度か瞬かせてはっきりとさせていく。
そしてクリアになった視界に映った姿は裸のセフィロス。

「え?あれ?どうしたんですか?」

やっと11の望んだ展開になるのだろうか。
それにしては最初が浴室だなんてなかなかマニアックな趣味だと首を傾げてセフィロスを見上げると、顔を手で掴まれた。

「風呂に入るのだから脱いで当たり前だろう」
「ですよねー」

なんでわざわざ、11が入っている時にセフィロスも来たのかはあえて聞かないでおく。
聞いたところで応えてくれないのは判っているし、顔を掴まれている以上ヘンなことを尋ねたらまた締め付けられてしまうからだ。

体を軽く流して、セフィロスが湯船に浸かる。
11は一通り洗髪を終えて、体を洗い始めた。

何とはなしに横目でセフィロスを窺ってみると目が合ってしまい慌てて視線を反らす。
反らしてみたものの、セフィロスからの視線はヒシヒシと感じているため非常に体を洗い難い。
見られて嫌だとかそういうことではない。
なんとなく、やり難いのだ。

初めて寝床を共にしたときと同じような緊張感の中、体を求めてくるわけでもなく、なんの目的があってそうされているのか11の頭を悩ませる。
こうして視線をぶつけてくるのなら、少しでも関心を持って欲しいと思うのは我侭だろうか。
そんなことを考え、居心地の悪さを感じながらもなんとか体を洗い終える。

「…入ってもいいですか?」

体を洗い終えたのだから、湯船に浸かりたい。そうセフィロスに確認すると11と入れ替わるようにして湯船をあけてくれた。
肩まで浸かり、一息つく。
寛げるはずの入浴だというのに、なんだか無償に疲れているのは気のせいだろうか。
溜息を吐きたいところだが、ふと思い直す。

セフィロスと一緒に風呂に入れることなど、想像していなかったことだ。
己の緊張感にばかり捕らわれていて、11にとって喜ばしいことだということをすっかり失念していた。
ここは素直に楽しんでおかなければ勿体無い。
だがセフィロスのように堂々と眺めようにも勇気が足りない。

さり気なく、自然さを装って浴槽の淵に身を寄りかからせて姿を窺い見ると、いつの間に髪を洗い終えていたのか、濡れた髪をひとつに束ねて纏めていた。
男だというのに、その妖艶さに11は思わず見とれてしまう。
露になった首筋に、そこから繋がる引き締まった逞しい体。
線が細そうに見えて、実際筋肉の付きはいい。
あんまりにもボーっと見ていたせいで、セフィロスが11の視線に気がついた。

「どうした。視姦か?」

そう目を細め、薄く笑みを覗かせてきたセフィロスの言葉に11は慌てて否定するも、そんな11の言葉など気に留めることもなく体の泡を流してセフィロスが浴槽に入り込んできた。
カオスの贔屓も大概だと思っていた11だが、当然ながら浴槽も大きめなものでふたりが入っても充分な広さはある。
それでもセフィロスが腰を降ろせるようにと、11は隅の方に身を寄せようとしたらセフィロスに腕を掴まれて背中越しに抱え込まれてしまった。
前向きに考えてこの状況を楽しもうと思っていたばかりだというのに、楽しむどころではない。
更なる緊張に包まれながらも11の意識は下半身に集中してしまう。
遮るものの何もない、肌が密着しているこの状態。
下半身に当るそれが気になって仕方がないのだが、しかしこうしていても相変わらず何の反応もないことに少々気落ち気味になってきた。

そんなに自分は女としての魅力というものがないのだろうか。
だいたいセフィロス自身があまりにも色気がありすぎるから、欲望の対象が高いのかもしれない。
そんなことすら思ってしまう。

「熱いな」
「湯あたりです」

11の顔を撫でてそんな声をかけてきたセフィロスに11は不機嫌そうに返事をする。
わかってはいるのだが、自分ばかりが一方的に意識していてなんだか悔しい。
そして熱いのは湯のせいではなく、11自身だけが気分が昂揚しているせいなのも自覚している。


数分後、独りよがりな悔しさのあまりに意地になって湯に浸かりすぎたせいで本当に湯あたりを起こしてしまった11をなんとも愉快そうな笑みを浮かべてセフィロスは寝室へと運んでいくのだった。

-end-

2010/3/13




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