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厄災その5

自分達の得る情報は、帝国に踊らされているかのように後手に回る。
それは当然のことだし、承知の上だった。
いくら帝国内に同士が潜入していようが、有益な情報を確実に伝えるには慎重さが必要だ。
それこそ急いだ挙句に尻尾を出してしまえば潜入している者自身が危険にさらされてしまうのだから慎重であることは肝心なことで、情報伝達の多少の時差は必然であり、仕方のないことだと思う。
そして自分達が求められていることは、その与えられた情報をもとに如何に早く、効率よく行動するかだ。
幸いにも今回の任務はミンウの同行もあって、少人数行動ながらも遭遇する魔物等に手こずることもなかったし、道を違えることもなくすこぶる順調だった。
最善を尽くしてきたはずだった。

だが、あと一歩で手が届く……というところで悔しくも飛び去って行った大戦艦。
パラメキア帝国が進めていた大戦艦の建造を阻止することも、破壊することも適わなかった。
しかし落胆しているばかりでは先に進むことはできない。
反乱軍の本部へ戻り、王女に次の指示を仰ぐことが今やるべきことだろう。
そんな結論のもと、本部のあるアルテアへと帰路を急いでいたのだが、道中目にするものは凄惨な光景ばかりだった。
倒壊した建物。
怪我に苦しむ人々。
聞けば、大戦艦から爆撃を受けたのだと言う。
立ち寄る町や村、どこも彼処も同じような惨状であり、燃えた物資の鎮火の後か、黒い煙の燻りが途絶えることはなかった。

悲憤の思いに駆られながらもようやく辿り着いたアルテア近郊。
繋がる道の奥からやはり黒い煙が何本も上がっているのが見えた。
ここだけは大丈夫だろう……と思っていたわけじゃない。
いや、むしろ集中砲火を受けてもおかしくなかったのだから、この程度で済んだのは不幸中の幸いじゃないだろうか。
その中にあって、アジトとしている建物の被害も少ないものだった。
所々細かなヒビは見られるけれど、建造物としての機能は失われていない。
そのお陰なのか、町の人々の避難所としても使われているようだ。
廊下の所々に、憔悴した面持ちの人々の姿が窺えた。

「ミンウさま!」

自分達の姿を目に留めるなり廊下を駆けてきた11がミンウに抱き着いた。
それからいつもの、く…口付け……を済ませ、ミンウの腕を取り急かすように引っ張り歩いて行く。

「急に雲ったかと思ったら、空に大きな飛空船があって…あれが例の大戦艦だって思って」

慌てて王女に報告に向かったのだと11が言う。
しかし、報告をしたところで相手は空の上。
為す術もなく、だからと言って攻撃に甘んじるわけにもいかないと、出来るだけ街から離れるよう人々に呼びかけを行ったのだという。
効果が果たしてあったのか無かったのかはわからないが、ひとまずはこの街の死亡者数はゼロらしい。

「ヒルダさま〜、失礼します」

11が扉を開け、中へと促す。
室内には王女と数名の近衛兵、それと一般人と見受けられる人物が一名いた。
その人物は王女に向けて一礼をするとすぐに部屋を出て行ってしまった。
後ろ姿が扉を抜けるのを確認し、王女は深く溜息を吐く。

「……ごめんなさいね、こんな姿を見せてしまって」

苦い微笑みを隠すことなく、王女はもう一度息を吐いた。

「おかえりなさい。そして、お疲れ様、皆」

先程の人物は、一般人に扮した兵士なのだという。
帝国軍に見つかってヘタな妨害を受けないようとの策らしい。
近隣の町や村の被害の状況を調べ報告してもらっているようだが……彼の見たモノも自分達を変わらないモノなのだろう。

「あなた達からの報告も待ちわびていたのだけれど…それ以上にミンウ、あなたを待っていた事情もあるのよ」

王女はミンウを手招く。
そして一言二言を交わした後、ミンウが自分達へと振り返った。

「フリオニール。君達は、今日のところは体を休めるといい。王女には私から話しておく」
「11、皆を部屋へ案内してあげてね」

そう告げられ、マリア、ガイと顔を見合わせ、11に促されるまま部屋を後にした。


廊下を進みがてらにマリアが11へと声をかける。

「部屋の位置くらい、覚えてるわよ?」
「それがですね〜、街の人たちでお家がなくなっちゃった方々にお貸ししていまして」

自分達や復興支援等に出払っていて不在中の兵士達の部屋を一時開放して対応しているらしい。
近くの宿屋や酒場もここと同じように人々に部屋を明け渡しているという。

「この街も皆さん頑張って立て直してますし、被害の少なかったお家は割とすぐに出ていかれてはいるんですけどね」

それでも怪我人はなるべくここで診てあげたいとの王女の配慮だそうだ。

「そんな事情でお部屋はこちらになりますので、しばらくはここ使ってください」

案内された場所には見覚えがある。
いつだったかの嵐の夜、11と過ごした部屋が隣じゃないか。
あの日のことをふと思い出して少し顔が熱くなる。

「それとですね、前のお部屋にあった荷物とかは勝手ながら移動させてもらいました」

でも何分慌ただしく動き回っていたので、万が一何かが壊れてたりしたらスイマセンと、珍しくも11からしおらしい言葉が聞こえてきた。
大したモノは置いてなかったはずだから、その辺りの心配はないのだが……まぁ、彼女のことだからこう前もって告げているということは、すでに何かをどうにかしてしまっている可能性は高い。

「それじゃあ、ごゆっくり休んでくださいね〜」

そう言い、ミンウの元へと戻るのだろうと思った11が隣の部屋の扉へと手を伸ばした。

「ミンウのとこに戻らないのか?」

11がミンウに依存気味なのは知るところだし、今回長期に渡ってミンウは自分達と行動を共にしてきたのだから、今か今かと待ちわびているものだと思っていたのだが。

「……今はヒルダさまと大事なお話中ですし」

そもそも自分は怪我人の手当に回っていて、魔力が尽きかけていたため休憩に向かうところだったのだと言う。
そんな11の話にマリアが何か言いたげな……それもニヤニヤとした眼差しを自分へと向けてきた。

(チャンスよ、チャンス!)

マリアが声を出さずに口をパクパクとしているだけなのだが、明らかにそんなようなことを言っている。
何をもってしてチャンスなのだかわからない。
が、何でマリアは自分の僅かに芽生えた気持ちを知っているんだ。
そんな話は一度足りともしたことはなかったはずなんだが、と冷や汗交じりにマリアを窺うと、ニヤニヤとした面立ちのままにガイを連れて宛がわれた部屋へと入って行ってしまった。
パタンと静かに閉じられたドア。
11が部屋へと入らなかった自分に、不思議そうな顔を向けてくる。

「あ〜…話、でもしないか?」
「いいですけど……あいにく私も疲れているのでおもてなしは出来ないですよ〜」

別にはなからもてなしなんて期待していないのだが。
というよりも、もてなしと称して得体の知れない飲食物を提供されたことを思い出せば反ってないほうが有難い。
部屋へと促され室内へと入る。

時刻は夕方に差し掛かる頃で、窓からはまだ明かりが差し込んではいるがやや薄暗い。
とはいえランプを付けるほどの暗さでもない。
窓際へと寄り、外を眺める。
少し離れたところにある、空爆の直撃を受けたのであろう建物の周りには立ち入れないよう柵が立ててある。
その傍で不安そうに瓦礫と化した建物を見上げる者。
あの建物の持ち主だったのだろう。

「思っていたよりも、元気そうで良かった」

ただでさえミンウ不在という、11にとって心許無い状況の中の襲撃。
帰る道すがらに訪れた町や村の人々の憔悴しきった姿に心痛めてきたものだけど、11がそうでなくて良かったと思ってしまう自分は薄情だろうか。

「フリオさんも、お元気そうですね」
「まぁ、戦艦の破壊はできなかったんだけどな」

逃してしまった代償は酷く大きなものになってしまった。
だが、その悔みに押し潰されることなくここまで帰ってこれたのはミンウのおかげなのだと思う。
後悔ばかりしていても前へと進めない。
次なる被害を食い止めるために必死に動くしかないのだと、そんな言葉を贈ってくれたんだ。

「私だって、ミンウさまにここのこと頼まれてましたからね、だから、頑張って、皆の手当して……」

ミンウの弟子として、ミンウが恥をかかないよう白魔道士として治癒に周るプレッシャーは自分が思っている以上のものだったのだろう。
もともと城仕えで外で戦うなんて経験はなかったのだし、ほぼ突然の実践だ。
頼りのミンウも不在。
主だった白魔道士達も近隣の支援へと向かっていて、右往左往しながらの処置だったことが目に浮かぶ。

「でも、王さまの容体だけは何とか、ならなくて……」

11の目に涙が滲む。
その姿に思わず腕が伸びる。

「泣くな、11」
「フリオさん」
「ミンウが戻ってきているんだ。王も直に良くなる」

抱きしめた腕の中から11が赤い目をして見上げてくる。
そんな11の心配を取り払うべく無理にでも笑顔を向けてやるべきなのだろうが……。
あいにく無理に笑顔を作れるほど人間が出来ていない。
王への心配は自分も同じなのだから。

「…王は、怪我をされたのか?」

11は首を横に振る。

「こんな事態になったので、緊急だからって、ヒルダさまが止めるのも聞かずに対応をされていたんです」

しかし報告されることは損害状況ばかり。
気丈に振舞い采配を振っていたが、優れない体調に無理が祟ったのだという。

「それなら尚更ミンウの出番じゃないか」

精神的な負担が不調の原因と考えるなら、それを軽減できる役目にはミンウが適任だろう。
今は王女の下で動いているけど、本来は王の参謀なのだし。
自分達に今出来ることはこれ以上の被害を出さない為の行動だ。

「11だって11がやれることを頑張ってきたんだし、気に病むことじゃない」

自分達も戻って来た。
これからまた事態は大きく動くことになるのだろうし、まだまだやるべきことがたくさん出てくるはず。
そう11を宥めるように頭を撫でていると、11の腕が自分の腰に周ってきた。
ぎゅっと抱き着く感覚に、一瞬の緊張が走る。
……というよりも、これはかなり、恥ずかしい。
つい、成り行きとはいえ腕に閉じ込めてしまった自分の行動も恥ずかしいし、何より自分からしている時には何の感情も湧かなかったと言うのに、される側となると変な意識をしてしまうというか何というか、柔らかな温かさが心地いいというか気持ちいいというか……。

「フリオさんって」
「な…なんだ……?」

マリアも小さい頃からよく抱き着いてきたりもしていたが、それとは全然違うと言うか……。

「細そうに見えて結構ガッシリさんだったんですね〜」
「……は?」
「いえ、こう、パッと見ですよ。前々から腰細いな〜って思ってたんですよ〜」

でも思ってたよりも太かった、とぎゅうぎゅうと締め付けてくる。

「お、おいっ、苦しいって……」

鍛えてはいるがそれとこれとは話しは別だ。
腹部に掛けてのホールドは、じわりと呼吸器官に響いてくる。
っていうか、なんでこいつはこんな力があるんだ?
魔道士じゃないのか?
その力は一体何なんだ?
と締め付けられている焦りと疑問が脳裏に羅列されていくが、彼女だから仕方がない、との結論に至る。

「おまえ、本当に苦しいんだからなっ」

だからこちらも負けじと抱き締める。
流石に全力でやったら息の根を止めかねないから加減はしているが。

「ちょっ、フリオさんったら……!」

とりあえずさっきまでの様子とうって変わって、元気も出たみたいで何よりだ、とジタバタともがく11に苦笑を漏らす。

「何やら楽しそうなことをしているね」

突如として聞こえた、聞き慣れた声に動きが止まる。
そして声のした方へとゆっくりと顔を向ければ、案の定聞き慣れた声の持ち主、ミンウが居た。

「ミンウさまっ」

力の抜けた腕から11が事もなく去って行く。
そうして向かった先はミンウの腕の中。
帰ってきた時と同じように、お互いが顔を寄せて、口、付けて……。
いつもの事だと分りきっている光景だが、見慣れることはなく、今となっては暗雲たる気持ちが募るばかりだ。

「ありがとう、フリオニール」

突然のミンウの言葉に戸惑い気味にミンウを見やる。
すると、微笑みを浮かべているだろう目がこちらを向いていた。

「王女からこちらの状況を聞いてきたのだがね、11もだいぶ塞ぎこんでいると聞いて心配していたのだけど」

君との戯れのおかげでその心配はなさそうだ、とミンウが11の額に口付る。

「あ、いや……」

何と返せばいいのかわからず、言葉を濁す。

「さあ、長旅で疲れているだろう。今日はゆっくりと休むといい」
「……あぁ、そうさせてもらうよ」

ふたりの脇を通り、部屋を後にする。
そしてその隣に宛がわれた部屋へと入り……マリアとガイは食事にでも行ったのだろうか、誰も居ない部屋の中、ひとりそっと溜息を吐いた。

2014/05/31




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