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密計


「こう、かな?」
「あぁ違うよティナ。それだとバランス崩れちゃうよ」

幾つかの金属片が光の中に収束されていく。
それを囲んでいるティナとオニオンナイトは、光の中心へと両手を突き出し魔力を注ぎ込んでいた。
額に滲む汗。
歯を食いしばる……ほどではないが、それに近い険しい面立ちを浮かべながら、ふたりは一心不乱に結合されて行く金属の塊をああでもないこうでもないと言葉を交しながら調整を重ねていく。
絵の具を混ぜ合わせているかのように馴染んでいく金属たちは、やがてひとつの髪飾りへと変化を辿った。

出来上がった髪飾りに目を惹くような煌びやかさはない。
かといって、質素な出来でもない。
装着する者の髪色に合わせて、目立つでもなく、派手すぎるでもなく、試行錯誤を繰り広げて創り上げた一品だ。
ようやく完成の適った品物に、ふたりは顔を見合わせ息を吐く。

満足気に額に伝う汗をティナが拭き取っていると、ふと視界にある人物が入り込んできた。
出来上がった髪飾りの主となるであろう人物、11である。
フワフワと足取りも軽やかに歩むその姿は見ていて大変可愛らしいものだが、その足の向う先を目に留めたオニオンナイトは咄嗟に11へと声をかけた。
声に気がついた11がその場に立ち止まり、ふたりの方へと顔を向ける。
それを良しとして、ティナとオニオンは11を手招きで呼び寄せる。
あまりにも真剣な顔をして手招きされるものだから、11は何事だろうかと不思議に思いながらも行き先を改めてふたりの元へと近づいて行った。


「どうしたの?ふたりとも、なんだか難しそうな顔して」

スコールみたいになっちゃうよー、と少し困ったような面立ちで笑顔を浮かべてきた11に、ふたりともにそれは勘弁願いたいと思いながら11に座るように促した。
11はそれに素直に従い腰を降ろす。
そしてふたりに見つめられる。
じっと、顔を舐めまわされているかのような視線に首を傾げながらも11はただティナとオニオンの言葉を待った。

「やっぱり目の狂いはなかったね」
「うん。私もぴったりだと思う」

険しい視線から一転して、そう朗らかに破顔するふたりに11も釣られて笑顔になる。

このふたりは仲良しさんだ。
いつも一緒にいて、もしかしたらオニオンなんかは子供ながらにティナに恋心を抱いているのかも、なんて11は思っていたりする。
しかし体裁は小さな騎士さまと言った所だろうか。
ティナの傍を離れずに、悪者から彼女を護ってくれているような、そんな感じもするのだし。
微笑ましいな、と思いながらもティナもそんなオニオンの意気込みを察しているのか何かと彼を頼りにしているようだ。
年の差はあれども、なかなかにお似合いのふたりじゃないだろうかというのが11の見解である。

「はい、11。これ、プレゼント」

ティナが、出来上がりたての髪飾りを11へと差し出した。
11はそれを受け取り、眺める。

全体を象っている金属の部分は控えめな光沢を放ち、その所々に小さな宝玉が散らばっていて、色とりどりな飴細工を思わせる。
櫛状になっている差込口のおかげで、髪の長さに関係なく使えそうな仕様だ。

「うわぁ、なにこれステキ!いいの?私がもらっても?」

本当に?と目を輝かせてティナの手を握り締めてくる11に頷き返す。

「11に似合うようにって。オニオンとふたりで作ったのよ」

こんなに喜んでもらえて嬉しいと、ティナが同意を求めるようにオニオンに目を移すと、11もそれに倣って小さな騎士へと視線を移した。

「あっ…。ティナがどうしてもって言うからさ。だから僕は手伝っただけだよ」

照れくさいのか、暇だったし、やら、ティナだけじゃ心配だし、とモゴモゴ口篭りながら赤らんだ顔を背けるオニオンにティナとふたりで苦笑する。

「ありがとう、オニオン。とっても嬉しい!」

そう、感謝の意を込めて11は背けてこちら側に露になったオニオンの頬に軽く口付けた。
するとオニオンはたちまち硬直してしまった。
ティナはといえば、硬直したオニオンを心配するどころか自分にもと11にせがむ。
それを受けて11はありがとう、とティナの頬へも口付けた。

満足そうに微笑みを浮かべるティナと、赤らんでいた顔を更に赤くして頬に手を添え顔を俯けているオニオンナイト。
二者二様の反応が11にとっては面白くもあり、嬉しい。
いつだったか聞いた事がある。
どうしていつもこうして何かと着飾らせてくれるのかと。
11からも何かお返しがしたいと言ってみても、11が嬉しければそれでいいからとお返しについても断られ続けてきたのだが、それでもそういうわけにはいかないからと業を煮やしてのことだ。
「11が喜んでくれて、嬉しくて、笑ってくれたら私も嬉しいの。だからそれがお返し。ね?」
それじゃダメかな、と笑顔を称えながらもさも当然といったようなティナに返す言葉も見つからなく、こうして事ある毎に貢がれる状況へとなってきてしまった。

11自身、着飾る事に無頓着なわけではないし、可愛らしいモノを身に纏うのは大好きだ。
だから、お互いが嬉しいならそれはそれでいいのだろう。
そんな思いから11もティナとオニオンのこうしたモノ造りへの行為をありがたく受け留めている。
そしてなによりだ。
大好きな彼に可愛いと思ってもらいたいのは、殺伐としたこの異界の中であっても乙女なら当然有って然るべき願望である。

「スコール、可愛いっていってくれるかなぁ」

そんな思いからか、不意に11の口からそんな言葉が漏れてしまった。
11にとっては何気ない一言だ。
だが、ティナとオニオン、このふたりにとっては穏やかではない。
ティナにとっては妹とも思える11。
オニオンにとっては、姉、と言っても過言ではないだろう。
そんな11が最近スコールと仲睦まじい関係へと進展してしまったのは、ふたりにとってはなんとも微妙なところだ。

そもそも11がスコールに気があるのは知っていた。というか、相談を受けていたのはこのふたりだ。
好き過ぎて話し掛け難いと嘆く11に、愛ってよくわからないのごめんね、と見事にその話題から回避していたのはティナだ。
オニオンにいたっては、あんな暗そうな奴なんて11には似合わないよ! と断固拒否の姿勢を貫いていたのだが、あまりに11がスコールの話を振ってくるものだからいい加減痺れを切らしたふたりは、いっそのこと当たって砕けるのも有りなのじゃないかと考えた。
幸いにも11の意中の相手であるスコールは、自他共に認める無愛想さを持ち備えている。
強いのはよくわかるが、いつもひとりでフラフラ行動しているし、他者との関わりをなるべく避けているようにも見受けられた。
だからだ。
そんなスコールが、11といえども関わりを持ちたがるだろうか。
いっそのこと告白して、フラれてしまえば11も諦めるだろうと、顔に似つかわしくもなく腹黒いものを抱えて11に想いを打ち明けてしまうのが一番だと助言をした。
結局はふたりの思惑も虚しく、11の想いが実ってしまうという結果に落ち着いてしまったのだが……まぁ、11が幸せならばそれでいいのかと、ティナとオニオンは無理やり納得せざるを得なかった。

それでもやはり11の口からヤツの話題が出てくるのは気に入らない。
仕方がないことだとはいえ、気に入らないのは気に入らないのだ。
心がそう反応してしまうのだから、それだって仕方の無い事。理屈ではどうにもできない。

「…スコール、11のこと、ちゃんと可愛いって言ってくれるの?」

ティナの素朴な疑問である。
どう見たって表現豊かに見えるタイプではないし、とりあえず何事に関しても関心が薄そうだ
服装ひとつ変わったところで、何の反応もしなさそうに見受けるのだが。
ともすれば、変わったことにすら気がついていない……そんなイメージがティナにはあった。

「口では言わないんだけどね。こう、いつもと違うと頭撫でてくれるんだよ」

それが最近わかった彼なりの意思表示なのだと、嬉しそうに11が紡ぐ。
彼女の笑顔は癒される。
天然ケアルだとふたり勝手に名付けているのだが、癒しの11が紡ぐ言葉は聞きたくもないヤツの話題だ。
11の笑顔に癒されたいがしかし、今となっては11のとびきりの笑顔を望むにはヤツの話題を耳にしなければならない。
心中かなり複雑な思いが過ってくる。

「ん〜、でもさぁ11。僕たち、別にスコールを喜ばせようって魂胆はこれっぽっちも無いんだよねぇ」

そう親指と人差し指を輪にして見せるオニオンの指には、隙間など微塵も無い。

「11、スコール大好きなんだね…。ごめんね、なんか私たち、お邪魔してるみたい……」

ティナが悲しそうな面立ちで目を伏せる。

「えっ、邪魔なんかじゃないよ!スコール喜ばせたいのはそうだけど、でもそれとこれとはまた別で!」

ふたりの創る品物が、いつも自分好みで、それも素敵なモノばかりだから嬉しくてと11は宥める。

「本当に?」

オニオンが拗ねた素振りで@11を見る。
ティナも本当かと、涙目に11を見やってきた。
そんなふたりに11は勢いよく頷き返す。
実際そうだ。
キレイな衣服やアクセサリー、どれを取っても11にとって素敵なモノで、はたして自分に似合うのだろうかと、そんな心配すらしてしまうくらい。
ティナとオニオンが喜んでくれるのも嬉しいけれど、それだけではせっかくの品物がもったいなくて…だからもっと誰かに見てもらいたいと思った。
たまたまその対象が想い人であるスコールであっただけで、彼を喜ばせるためでも、ましてやふたりが邪魔なんてそんな思いは一切ない。

「ティナとオニオンも大好きだよ?ね?作るとか関係なくだから」

そう困った顔でふたりを見やる11にティナは抱きつく。

「嬉しい!私も11のこと大好きだからね!」
「うっうん、ありがとうティナ…っ」

力強く抱き付かれたあまりに11は少しばかり息苦しい。
それから服の裾を引っ張られる感覚に、がっちりと抱きつかれて身動きの取れない11はそちらの方へと目だけを動かした。

「ぼ、僕も11のことお姉ちゃんとして、好きだから…」

そう、またしても顔を赤らめ告げてくるオニオンに苦笑を零す。

「ありがとう、オニオン」

11は身動きがまま成らないながらも、腕をあげてオニオンの頭を撫でやった。




その3人から少し離れた場所にて、スコールは立ち止まっていた。
今スコールは、ここで11と待ち合わせをしていたところだ。
姿を見せた11に心躍りながら待っているも、途中立ち止まった彼女が向った先は、何やら奮闘後のティナとオニオンの元である。
いつもの制作品の贈呈か、と遣り取りを見守っていたのだが…いくつかの問題が起こった。

まずひとつめだ。
ティナは同性同士なのだしまぁいいとして、子供といえども男であるオニオンにたとえ頬といえども口付けをするなど如何なものだろうか。
そもそも自分すら未だしてもらったことがないというのに。
それにあの子供。見た目は子供だが、思考回路はヘタな大人 (例をあげるならバッツあたりだ) よりも大人だ。
ませた子供になんてことを……!

……それからふたつめ。
なぜだかティナと11が抱擁している。
微笑ましい光景ではあるが、丁度こちらを向いているティナの目がこちらを見据えているのは気のせいだろうか。
今にもトランス状態に陥りそうな殺気はこっちに向って漏れているのは気のせいだ、そうだ気のせいだ。

そして最後に。
あの3人に声をかけるのがとても躊躇われているというこの状況。
ティナとオニオンからはヒシヒシかつ殺伐とした雰囲気が降り注いでくる。
対して11は待ち合わせているこちらの存在など忘れたかのようにティナへの抱擁にオニオンへの頭を撫でる仕草を続けている。

これは、どうしたらいいんだ?
このままあの殺気を浴びながら待つべきなのか、それとも勇気を出して声をかけるべきなのか。
いや、11がこちらの存在に気がついてくれるのならそれに越したことはないのだが……。

(……まぁ、無理だろう、彼女のことだから)

どうすることが良策なのか、そんな事に頭を悩ませ胃痛を起こしながらもこのまま11がやってくるまで待つしかないという結論を出す。
そして自分が先に惚れたのではないというのにそんな理不尽な扱いを受けながら、スコールはもうしばらくの間待ちぼうけをくうこととなった。

-end-

2010/12/21 ウェレア様リク




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