DFFガラケー | ナノ




勝負


「11〜」

名前を呼ばれて身構える。
こうやって名前を呼びながら近づく時は、必ずと言っていいほど抱きついてくるのが分かっているからだ。

身構えた瞬間に案の定、背後より纏わりついてきた。
容赦なく飛びついてくるもんだから、倒れてしまわないよう足を踏ん張るのも一苦労なんだけど。
出会った当初は不意を付かれまくって、その度に転倒していたけど、今ではこうして対処できるようになったあたり随分慣れたものだと思う。


「バッツ、重い」

肩より垂れる腕を退けようとしてみたけど、離してくれない。

「まぁまぁ、そんな固いこと言わないでさ」

と、引っ付いたまま移動をともにする。
歩き難いことこの上ない。
そして平静を装うことにも一苦労だ。

以前はこうやって纏わり付かれても、そりゃあ少しくらいはドキドキしていたけど割と平気だった。
バッツへの想いは諦めていたし、その代わり仲間として、楽しく・仲良くありたいと接してきていたからだ。
今は違う。
一応恋人同士という関係に発展したから。
恋人といえば、お互い同じ想いを寄せる者同士、いろいろと思うことがあるわけで。
そんなことが自分の頭にあるものだから、妙に意識してしまう。
普段から彼の無邪気さを目の当たりにしていると、意識している自分が不純な存在に感じてきてしまって、なんだか無性に居たたまれない。
だから変な動揺をしていることを悟られないようこちらもノリ良く、楽しく、適当にあしらう。
奔放な彼だけど意外と人の機微に聡かったりするから、油断はならないのだ。
もともと楽しいコトに対しての相性は良いものだから、そんなカンジにノラリクラリと恋人らしい甘い展開のない生活を送ってきているのだけど。
でも、もし、いざそんなコトに面したら頭がパニックに陥りそうだから、このくらいの関係が合っているのかもしれない。


「よぉ、スコール!」

バッツの片腕が上がる。
でも離れない。
前方に目を向ければ、こちらに気が付くなりイヤそうな顔を示したスコールがいた。
それにも構わず、歩を進めるバッツに押される形でスコールと合流する。

「離れたらどうだ。鬱陶しい」

開口一番、スコールのお言葉。

「ほらバッツ。スコールが離れろだって」

また怒られちゃうよ、と言った所ですんなりと離れてくれるわけも無く。
スコールの眉間の皺が益々深くなる。
何度もこうした場面に出くわしては、注意をされている。
注意されたところでバッツが素直に聞くはずも無いのだけど。
これではどちらが年長者か分ったものじゃない。
でもバッツのことだから、ワザとな部分もあるのだと思う。
こうしていれば、スコールのことだから注意してくるだろうと。
たぶんその様子を見て楽しんでる。
ちょっとばかし性質が悪い気もするけど、スコールを構いたくなる気持ちはわからないでもない。

でもスコールもスコールだ。
いい加減、バッツに遊ばれてることに気がついて貰いたい。

「スコール、先行っていいよ」

バッツ離れる気配無いし、と先に行くよう促し気味に手を振ってみる。

「いや。そういうわけにも…」

とスコールが口篭もる。
先行くわけでもなく、相変わらず自分達と同じ歩調のままだ。
気分を害するくらいなら、言っても聞かないのだから目に入らないよう自衛して欲しいと思うんだけど。
そんな遣り取りをスコールとしているとバッツが漸く離れてくれた。
なんかいいモノでも見つけたか?と、本日の戦績をスコールに聞いている。
全く、自由気侭だ。
言われてるうちは頑なに聞かないのに、言われなくなればこうしてさっさと離れる。
まるで構って欲しがりの子供のようだ。
とはいえ、平然を繕うのは大変だけど重みのなくなった背中がちょっと寂しい。

そんなことを思っていると、急に腕を引っ張られた。
人の二の腕をスコールの目前に差し出すバッツ。

「なっ。ウマそーだろ?」

と意味不明な同意をスコールに求めている。
確かに夕飯時でお腹は空きはじめているけど、これは食べ物ではない。
指でフニフニと摘んでいるのが妙に腹立たしく感じる。
スコールはそれを受けてなんだか神妙な面立ちしてるし。
太い、とでも言いたいのだろうか。

「柔らかいしさ〜。あ、でも触ったらダメだからな」

コレは俺のだから。
まるで、お宝を見つけたかのような口ぶりに、思わず脱力してしまう。
食べ物の次はお宝扱い。
前向きに考えてお宝扱いはちょっと高級なカンジもするけど、バッツに言われるとオマケ並な扱いに聞こえるのは気のせいだろうか。
少しは女の子らしい扱いでもしてくれないかと抗議をしようとふたりを見上げる。

満面の笑みをスコールに向けているバッツ。
こちらと目が合うなり顔を赤らめるスコール。


……赤らめる?

「え、ちょっと、スコールどうしたのっ?」

未だかつて見たことの無いスコールの様子に、驚きのあまりに慌ててしまう。

「う〜ん、思春期思春期」

またしても意味不明な言葉を紡ぎながら、バッツはスコールの顔を覗き込んでいる。
バッツがなにやら耳打ちをすると、スコールは悔しそうにバッツを睨みつけて”先に行く”と足早に行ってしまった。

状況が掴めない。
しかしバッツは満足そうだ。

「えぇと、何がどうなったの?」
「オトナのヨユーってヤツを教えてやった」

あんな大人ぶっててもまだまだ子供だな!と、ご満悦だ。
ますますわけがわからない。

「全く持って意味不明なんですけど」
「ん〜、…ヒ・ミ・ツ?」

そう言いながら首を傾げるバッツ。
かわいくない。
言う気は無いんだなと悟り、スコールの様子を気に掛けつつ溜息を吐く。
すると、フワリと頭に重みが乗っかった。
バッツの手だ。

「そんなんじゃ、まだまだ勝負にならないな、て言ってやった」

と苦笑を零す。
勝負…なにか賭け事でもしていたのだろうか。

「…そう」
「うん、そう」

だから11が気に掛けることじゃないよ、と頭を優しく撫でながら笑顔を覗かせる。
いつものような子供じみた無邪気なそれとは違う、年相応の落ち着きのある笑顔。
思わず見惚れてしまう。
こんな風に、時たま覗かせる大人びたバッツが堪らなく愛しい。

…なんて、口が裂けても言えないけれど。
そんなことを知られてしまったら調子に乗って今以上に纏わりついてくるのは目に見えている。
そして今以上に落ち着かなくなるであろう自分の心臓も心配だからだ。


「あ〜、なんか腹減ってきたな」

お腹を擦りながら屈託なく笑う。
そんないつもの調子のバッツに、少しほっとする。
大人びたバッツも好きだけど、自分にはやっぱりお調子者のバッツが合ってる気がするから。

「それじゃあ、宿営地まで競争する?」

今日の食事当番はジタン。
彼の特製デザートは絶品だ。
勝った方が負けた方の分も貰うってことで、と続ければ張り切って乗ってくる。

「後で泣き言言っても知らないからな〜」
「そのままソックリ、お返しするよ」

こんな関係が心地よい。


デザートを懸けて、宿営地まで競争スタートだ。

-end-

2009/10/6 サエさまリク




[*prev] [next#]
[表紙へ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -