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四苦八苦


空を眺める。

ところどころに次元の歪み。
そこから覗く別の世界。
どの空間へと繋がっているのだろうか。


ここはバッツのいた世界を模した領域だと聞いた。
立派な城の庭園と思われるところに仰向けに転がっている11。
傍らに点々と散っている素材に目を向ける。
先程剣を交えた敵からの戦利品だ。
忘れないうちに拾ってしまおうと手を伸ばすと、何者かに先に拾われてしまった。

「バッツ」

いつの間に来たのだろうか。
人が近づいても気付かないなんて、まだまだ危機感が足りないと気を引き締める。

「お疲れ?」
「うん」

ここでの戦闘は初めてだった。
こうやって休憩しているぶんには見晴らしもよくて最高な次元だと思う。
しかし戦闘ともなると、離れて浮かぶ建物を飛び回り、着地と思いきや瞬時に別の場所へと移動してしまう足場に四苦八苦だった。
だいぶ体力を削られている。

「だろうな〜」

と笑いながら寝っ転がっている11の両脇に手を差し入れ抱き起こすバッツ。
バッツの唐突な行動に状況が飲み込めずに彼に成されるがままの11。
11を抱え込んだままその場に腰を下ろす。

「ちょ、ちょっと、バッツ」

後ろの様子を窺えば珍しく真面目な顔のバッツ。

もしかしてこの間バッツから借りていたアクセサリを壊してしまったのがばれたのだろうか。
それともチョコボの羽根を危くデジョンに落としてしまいそうになったことへの仕返しか。
腹部に腕を回されがっちりとホールドされている今、逃げることはできない。
先に謝ってしまった方がいいだろうか。


「お疲れのトコ悪いんだけどさ〜」


もしくはお流れになっていた宝探しの罰ゲームとか。
でもあの時はジタンが負けだったような…。
瞬時にいろんなことが頭を過ぎる。


「11、聞いてる?」
「うわっ、ごめんなさい聞いてなかったです!」

なんでいきなり敬語、と不審そうなバッツの声。
この様子では、今頭に過ぎった様々な出来事についてのお咎めではないらしい。
挙動な態度で態々不審がられるのも面倒だ。

「うん、なに?」

気持ちを落ち着かせて、バッツの話に耳を向ける。

「好き」
「そう。……ん?」


すき。
スキ。
…………。
好き?


「好き?」

首を回してバッツを見やる。
先程の真面目な顔とはうって変わって、ニコニコと笑顔だ。

「好きって…私のことが?」
「そうそう」

軽い調子で返事をする。
いまいち疑わしい。
それこそ何かの罰ゲームではないのかと疑念を抱いてしまう。
バッツから目を離し、短く息をつく。

「なにそのため息。疑ってる?」

図星だ。

「いや、だってバッツじゃん」
「ひどいなぁ」


自由奔放で掴み所のないバッツは恋愛ごとなど興味ないと思ってた。
こうやってスキンシップを取ってくるのだって日常茶飯事だし、自分に限ったことではない。

「俺のことキライ?」
「いやいやむしろ大好きなんだけどさ」
「あ、そうなんだ」

だから自分が彼に想いを寄せていることを胸の奥に押し込んで仲間としてやってきたのだが……。

「ん?」

今自分が発した言葉を頭の中で反芻する。
そしてちらりとバッツの顔を窺えばニヤニヤと11の顔を覗き込んでいる。
無意識に口から漏れていたバッツへの想いに、込み上げてくる羞恥心。

「だっだからっ、いたずらにそんなこと言われると困るんだけどっ」

ひとまずこの体制から逃れようとバッツの腕を解こうと試みるが、余計にきつく抱きしめられてしまった。
首筋にあたる温かい感触。

「俺はいつだって、本気だよ」

いつもと違う大人っぽいバッツの声色に胸が一際高鳴る。
逃れるのをあきらめ、力無くバッツに寄りかかる11。
少年のような無邪気さに、時たま覗かせる彼の真剣さ。
このギャップに惚れたんだよな、と心の中で呟く。


「それにしても、また急だね」
「まぁ、…ねぇ?」

言葉を濁すバッツ。
何が彼を動かしたのか気になるところだ。
じっと言葉を待つ。

たまたま通りかかったら、戦闘中の11を見つけたから見学していたという。
もともと好意はそれとなく持っていたのだが、慣れない環境下で戦う必死な形相の11に、これは早めに手元に置いておかなくてはと意を決したようだ。

「形相って…」
「いやぁ、俺も一応男だしさ〜」

あせってる顔とか困ってる顔とか、支配欲が沸くっていうか…とバッツ。

「は?なにそれ」

普通はその展開だったら助けてやりたいとか守ってやりたいとかじゃないのだろうかと11。
今までバッツにされてきたいたずらなどは全て彼の欲求から来るものだったのか?

「…Sっ気でもあるわけ?」
「う〜ん、そんなことはないと思うけど。でもまぁ」

これで心置きなく11とスキンシップとれるな!と満面の笑みを湛えている。
今まで以上にかまわれるのだろうか。

諦めていた想いが実ったことは素直に嬉しい。
嬉しいが最後の一言に忘れていた疲労感が一気に押し寄せてきた。
それでも許容できそうと思えるのは、そんなバッツに惚れた弱みからくるものなのかもしれない。

-end-

2009/5/29




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